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【感想】Netflixアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン2

士郎正宗が生んだSFの金字塔『攻殻機動隊』
これを原作としながら様々な解釈を加える形で何度も映像化されてきた。

そして2020年にNetflixオリジナル作品として世に放たれたのが『攻殻機動隊 SAC_2045』

どうしてもシーズン1を観る時間が無いという方には、期間限定の劇場公開版として作られた総集編『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』がこれまたNetflixで配信中。

シーズン1の全12話を約2時間に圧縮するという無理難題だが、『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』『余命10年』などを手がけた実写畑の藤井道人監督が編集しているため最低限の品質は保たれている。
まぁでも極力シーズン1をちゃんと全話観てからシーズン2を観た方が良いとは思うw

ポリティカル・フィクション

本作のシリーズ構成は神山健治監督。
この人はポリティカル・フィクション、すなわち政府や官僚を描いた物語が得意な人だと思う。
庵野秀明も『シン・ゴジラ』の脚本を書くにあたって最初期にヘルプを依頼している。
(最終的なクレジットは「企画協力」)

僕が知っている中で、今回の脚本作業に一番向いていると思ったんです。具体的に言うと、組織と現実論ですね。
神山健治・著『映画は撮ったことがない ディレクターズ・カット版』

原作は公安9課という組織が舞台ではあるものの、どちらかというとサイバーパンクな世界観や哲学的・抽象的なストーリーが醍醐味。
これをポリティカル・フィクションを中心に据える形でアレンジしたのがSACシリーズ。
この辺りは神山監督の師匠筋である押井守と伊藤和典が手がけた『機動警察パトレイバー』にも通じるものがある。
一見ならず者集団のようでありながら組織のために心血を注ぐチーム。
組織は動機にも足枷にもなる。

SAC_2045もがっつり政治サスペンス。
アメリカもロシアも出てきて国際政治も絡んでくる。
SNSを使った分断と扇動。
時期的にもトランプ政権下で起きていたことを参照していると見て間違いないだろう。
僕はこういう作品が大好きなので(シン・ゴジラもオールタイムベスト級に好き)その点では大満足だった。

実在する小説『1984』の引用

神山監督が手がけるSACシリーズは実在の小説をモチーフとして登場させるという演出がされている。

ちなみに2045の付かない『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』で使われていたのはサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』

『攻殻機動隊』の原作は2030年、インターネットが世界を覆い尽くしているという設定。でも僕は、それだけでは何か物足りなくて、サリンジャーを『S.A.C.』に持ち込んだ。『ライ麦畑でつかまえて』を読んだことのある人ならば、実在する小説の存在を劇中に示唆することで「この世界は自分が生きている時代の延長線上にある」と、頭の片隅で意識してくれると考えたからだ。
神山健治・著『映画は撮ったことがない ディレクターズ・カット版』

今回のSAC_2045ではジョージ・オーウェルのディストピアSF小説『1984』が引用されている。

シーズン1が配信された2020年の時点でも「先見性がありすぎる」小説として高く評価されていたが、シーズン2配信時点ではウクライナ情勢を受けて無邪気に喜んでばかりもいられない角度で注目度が高まっている。

奇しくもシーズン2配信の翌日。

本作について「1984のオマージュというより単なる焼き直しじゃないか」「1984を読まないと理解できない」という批判があるようで、確かに納得できる面はある。

ただ、個人的には前述のポリティカル・フィクションの名手としての神山監督の先見性、彼が警鐘を鳴らそうとしたものに現実世界が追い付いてしまったという観点で好意的に評価している。
ポリティカル・フィクションの醍醐味の一つは社会批評性にあるからだ。
(もちろん戦争を歓迎しているわけではありません。念のため)

江崎プリンの物語

ところで(やや唐突に問いを立てるが)本作の主人公は誰なのか?

シーズン2で明らかになったが、SAC_2045で初登場した新キャラクターの江崎プリンこそが真の主人公だった。
(ちなみにこの名前も1984年に日本中を震撼させたグリコ・森永事件の江崎グリコが由来と思われる)
正直シーズン1の時点ではシリーズの硬直化を防ぐためのテコ入れ用新キャラかと舐めていたのだが、シーズン2では出番が大幅に増加。
この記事のサムネにも使ったメインビジュアルにも草薙素子と2人だけで映る大出世。

とある事情でバトーを慕い、そのバトーを追って公安9課に加入してきた。
彼女の過去が明かされることで神山監督が言うところの「構造」がもたらされ、観客も彼女に感情移入する。
そのサブストーリーが最終回でメインのストーリーと重なり合う。
そしてラストで再び公安9課に帰還する。
多層構造の物語を好む神山監督らしい脚本。

『攻殻』としての弱さ

ここまで書いてきた事と表裏一体だが、本作の弱点は「ぶっちゃけ攻殻機動隊である必然性が薄い」ことだと思う。
攻殻機動隊の外枠を借りた政治サスペンス作品という感じ。
攻殻はあくまで外枠。

  • 電脳を使った描写は少ない。

  • インターネットやテクノロジーも色々出てくるが劇中でそれが活かされているとは言い難い。

  • 江崎プリンのエピソードに時間を割いたことで相対的に草薙素子の出番は減少。

  • 本来ラスボスのはずのポスト・ヒューマンの描き込みが足りず、歴代の敵に比べると魅力的なキャラクターになっていない。

とはいえ「みんな知ってるから」という理由で諸々の設定の説明を省けるというメリットは今作も享受していたと思うので難しい…
「攻殻機動隊シリーズじゃない完全オリジナル新作だったら今と同じくらい観られたか?」と聞かれるとまぁ否だろうなと。
なので私は作り手を責めるつもりはないです。

実写映画的な画作り

個人的にシーズン2で最も印象に残ったのが撮影(画面設計・構図)のパワーアップ。

  • 第1-2話の高速道路

  • 後半の舞台となる東京

いずれも引きの画が良かった。
手前に人物を置いて奥に建造物を配置する構図も増えている。
とても実写映画的な画面作り(実写映画でいうところの撮影)
※ここで言っているのは新海誠作品で言及されることも多い背景美術の描き込みとはまた異なります。

逆にアクションは今回も正直イマイチ。
恐らくこれまた実写的にモーションキャプチャーを取り入れたリアルな人間の動きがアニメ的にデフォルメされたキャラクターとの食い合わせが悪いのかなと。
イリヤ・クブシノブのキャラクターデザインは決して悪くないのですが。
格闘アクションの動きとの相性の問題。

正直3Dアニメーションはシーズン1からあまり馴染めなかったので、ロングショットだとそれを感じづらくて引きの画が印象に残ったというのもあるかもしれない。

SAC_2045はシーズン2で完結。
さすがにSACシリーズもここで終了かな。
そろそろ大胆なアイデアが無いと新作のはずが焼き直し再生産になるフェーズに入ってきたと思うので。
今回は2020年代のポリティカル・フィクションとして面白かった。

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