【感想】Netflixドラマ『1899』シーズン1
本作の話に入る前に、同じ製作陣が手がけたNetflixドラマ『DARK/ダーク』に触れないわけにはいかない。
ドイツ製のNetflixオリジナルドラマとして世界中で大ヒット。
2020年にアメリカの映画レビューサイトRotten Tomatoesが開催したNetflixオリジナルドラマNo.1決定トーナメントで見事優勝。
ユーザーが1人1票ずつ投票してのランキング形式ではなく、トーナメント形式で対戦ごとに投票していくという斬新な試みw
決勝の相手は『ブラック・ミラー』
ちなみに日本でもファンの多い『ストレンジャー・シングス』はその『ブラック・ミラー』に準決勝で敗れている。
以下では『DARK/ダーク』のネタバレに触れています。
未鑑賞の方はこんな駄文は今すぐ閉じて観ることを強く推奨します。
『DARK/ダーク』は2020年6月に配信されたシーズン3で完結。
Netflix史にその名を燦然と輝かせながらダラダラと続くことなく完結する去り際も潔い。
この作品の魅力はやはり超絶技巧に緻密でロジカルな脚本だろう。
タイムトラベルを駆使しながら群像劇のエピソードがパズルのように組み合わさっていく。
ただし登場人物の数が膨大、しかも現在パートと過去パートで2人の俳優が同一人物を演じている(2人1役)ので能動的に観ないと確実に置いていかれる。
それが3シーズン数年間に渡っていたわけで途中脱落してしまった人もいたかもしれない。
ちなみに脚本家のヤンチェ・フリーゼは『1899』の制作の舞台裏を追ったドキュメンタリー内のインタビューでこう語っている。
『DARK/ダーク』との類似点
さて、そんなチームが再集結して作った『1899』だが、やはり『DARK/ダーク』との類似点はある。
群像劇
ガジェット
“扉”の向こうに新たな世界
哲学的SF(時間とは?現実とは?)
決定論と自由意志
撮影監督も一緒ということもあり画面の雰囲気・テイストはかなり似ている。
『DARK/ダーク』との相違点
ただ、個人的には語り口や物語の構造に関しては結構変えてきたなという印象を受けた。
傑作を焼き直して成功した例を聞いたことが無いのでナイス判断である。
まず『DARK/ダーク』が少年が消えてしまったことから始まった物語だったのに対して『1899』は謎の少年が現れたことから物語が動き出す。
そう考えると胎児を助けるというオープニングシークエンスも示唆的(もちろんあれは旋回のモチーフとしても機能している)
さらに『DARK/ダーク』がSFで押し切ったのに対して『1899』は全8話の中で次々とジャンルシフトを繰り返していく。
遭難したはずの船が乗員ゼロで突然現れるミステリー
登場人物の過去が順番に描かれていく群像劇ヒューマンドラマ
船長の判断に反乱が起きる集団サバイバルもの
対立の最中に乗客と乗組員が突然次々死んでいくホラー
嵐の中を船で乗り切る災害パニック
真相が明らかになるSF
最終的にはSFに着地するわけだが、途中何度も「え?そっち行くの!?」と驚かされた。
逆に『DARK/ダーク』同様ゴリゴリのSFを期待した人は特に前半は退屈かも。
海外ドラマが好きな方はこの辺の作品を思い出すんじゃないだろうか。
極限状態でのサバイバル生活で外の脅威よりも人間同士の争いがメインになっていく作品は『ウォーキング・デッド』以降たくさん。
一方でドラマ全体を貫く謎の描き方は大きく異なっている。
『DARK/ダーク』はタイムトラベルの大仕掛け一点勝負。
正直なところ「なぜタイムトラベルできるのか?」についての説明は無いが、SF的には手垢のついた設定なので視聴者が置いていかれることは無い。
むしろタイムトラベルの仕組みよりも登場人物たちが過去や未来に行って何かやった結果が複雑に影響し合うのを楽しむ作品。
各時代で採られる行動や遭遇する現象にはそこまで謎は無い。
あくまで各時代の合理的選択(と登場人物は考えている)が複雑に絡み合っていく。
それに対して『1899』は謎の手数が多い。
明らかに目の前で不可解な出来事がどんどん起きる。
謎それ自体で引っ張る作品。
ただ、この手のものはどうしても最後に風呂敷を畳んだ際の整合性が気になるという難点はある。
本作も例外ではなく、数々の不可解な現象に対しての説明が最終話でされるわけだが、それに納得できるか・拒否感を覚えるかで評価は分かれると思う。
多言語作品
本作最大の特徴がキャストの喋る言葉がバラバラなこと。
てっきり『DARK/ダーク』同様ドイツ人キャストによるドイツ語作品なのかと思ったらベースは(一応)英語。
しかしその実態は国際色豊かなアンサンブルキャスト。
その俳優陣が各自の母国語で喋るため多言語が入り乱れるのが面白い。
なので本作の鑑賞は吹替よりも字幕推奨。
濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』とシンクロニシティ。
また、単に国際色豊かなキャストを揃えただけなら「さすがグローバル企業のNetflix」で終わりそうだが、本作はそれが作劇と直結しているのが素晴らしい。
互いの言葉が通じないことで争いや齟齬が生まれ、それが物語を動かしていく。
前述のドキュメンタリーでは母国語の異なる俳優陣が現場でコミュニケーションする様子が収められていてとても良い。
個人的にはデンマークのNetflixドラマ『ザ・レイン』からルーカス・リンガー・トュネセンとクララ・ロザガーが起用されているのが嬉しい驚きだった。
最新映像技術“ボリューム”
最後に映像面の話を。
本作は船上(海上)を中心に様々な背景で撮影が行われているが、実はこれはロケではなくて「ボリューム」という最新技術が使われている。
ざっくり言うと270°ぐらいの巨大湾曲ディスプレイ。
ここに様々な背景を映して撮影している。
かなり壮大なロケをやってるなーと思いながら観ていたのでドキュメンタリーで撮影の舞台裏を知って驚いた。
どうしてもストーリーに注目したくなる作品だが、映像や美術にも注目である。
さて、最終話のラストで一応は事態の全貌が明らかになった。
観客の想像力にあの先を委ねる終わり方と言えなくもないが、個人的にはようやく話のスタートラインに立ったぐらいの感覚w
シーズン2継続してほしいなぁ。
(IMDbやRotten Tomatoesの評価・人気を見る限りシーズン2は何とか作らせてもらえたとしてシーズン3継続できず打ち切り、ぐらいの初速と思われる)
以下、2023/1/3(火)追記
シーズン1で打ち切り決定。残念。
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