【感想】TBS金曜ドラマ『石子と羽男』第1話
新井順子プロデューサー&塚原あゆ子監督タッグの新作と聞けば多くのドラマファンは思わず食い付いてしまうはず。
『アンナチュラル』『MIU404』『最愛』といった重厚な作品を数多く手がけてきた名コンビ。
今回はそれらの作品とは趣が異なり、弁護士を主人公に据えたコメディ。
凸凹男女コンビの法廷ドラマと聞いて思い浮かぶのは古沢良太脚本の傑作シリーズ『リーガル・ハイ』
性格は最低だが無敗の弁護士である古美門研介(堺雅人)と超が付くほど真面目な新米弁護士の黛真知子(新垣結衣)のバディもの。
本作とも通じる凸凹コンビ。
『リーガル・ハイ』も身近にありそうな民事訴訟が元ネタになっていたが、『石子と羽男』の第1話はカフェのコンセントでスマホを充電したら電気代を含む損害賠償を求めて訴えられたというストーリー。
弁護士ドットコムの記事にありそうなネタだが、正直それで1時間持つのか?と見る前は思っていた。
しかし、この予告と導入が実はミスリード。
些細な揉め事かと思われた相談は企業のパワハラをめぐる展開へと転がっていく。
この意外性に溢れる脚本がまず見事。
羽男はパワハラを行なった支店長のことも弁護士として助けようとする。
悪役とされた人にもまた法律で守られる権利はあるという、ネット上での私刑が横行する時代をキャプチャーした実に現代的な着地。
これは「人は法の下に平等である」という点で登場人物の印象がコロコロ変わっていった第1話の作劇とも繋がっている
型破りな天才弁護士かと思われた羽男の振る舞いは入念な準備だった。
しかし羽男は単なるダメ弁護士ではなく記憶力は本物だった。
大庭(赤楚衛二)は思わぬ形で訴訟に巻き込まれた小市民なのか?それともパワハラを行なった加害者なのか?
話が通じない頑固者と思われたカフェの店長(田中要次)にも事情があり、本当は優しい人だった。
どんなに悪い印象を抱いた人であっても決して感情で裁かれてはいけない。
古美門研介もこんなことを言っていた。
演出面では舞台演劇的な空間の使い方が冴え渡る。
冒頭、いきなり中村倫也と有村架純の二人芝居の舞台のようなアバンタイトル。
どう見ても劇中の世界と地続きではない。
有村架純がカフェ店員といえば塚原監督の映画デビュー作である『コーヒーが冷めないうちに』のセルフパロディ?
わずか数秒ながら「ん?」という引っ掛かりを視聴者に残す秀逸な幕開け。
そして最初の見せ場となる潮法律事務所での怒涛の会話シーン。
人物設定が台詞でどんどん説明される中、自宅も兼ねている事務所の中を2人が歩き回りながら話していく。
(ちなみにこの事務所兼自宅という設定も『リーガル・ハイ』と共通)
外に置いてある洗濯機から衣類を取り出す石子に窓越しに室内から話しかける羽男。
開始まだ数分だったけど、あの部屋の空間の使い方に惚れ惚れw
まるでああいうセットが組まれた舞台を観てるようだった。
(終盤の電車を挟んで駅のホームと屋上で電話するシーン然り、2人の間にはまだ何かしら隔たりがあることを映像的に表現しているようにも見える)
他にも物語のテンポを上げるべく細かく切っていく編集や説明・回想シーンで画面が回転していく仕掛けなど台詞が多くなりがちな弁護士ドラマ・法廷劇に映像で工夫を施そうという跡が伺える。
『シカゴ7裁判』や『スモール・アックス』の第1話『マングローブ』ぐらい法廷劇がエクストリームに突き抜けると映像的工夫が多少乏しくても引き込まれるのですが、日本の、しかも連ドラではそういうわけにもいかない。
だからこそ脚本だけじゃなくて演出が大切。
感想ツイートでは「ローアングルの構図が多い」と書いたが、見返したらそうでもなかったw
むしろ構図・アングルも多種多様にして前述の空間演出と同じく「台詞量が多くなりがちだけど映像的にも飽きさせない」ようにしているなと。
弁護士の「公正な裁判で白黒はっきり決着をつける」イメージと相性の良い左右対称シンメトリー構図は序盤に少し出てくるのみ。
あれも恐らくフリになるように敢えて入れているのだろう。
他にも今や塚原監督のお家芸、主題歌かかるタイミングがミリ秒単位でベストな件など語り幅の沢山ある作品になりそうですが今回はこの辺で。
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