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【講演メモ】小室淑恵さん「経営戦略としての働き方改革・子育て支援」

8月28日~29日に開催される「ファザーリング全国フォーラム」にweb参加させてもらいました。その中の基調講演では、(株)ワーク・ライフバランスの小室淑恵さんのお話を聞くことができました。

現在、私は4カ月間の育児休業を取っています。そのおかげで当たり前のように日々仕事に行く日常から少し離れて、働き方のこと、子育てのことにじっくり考えを巡らせながら、家族との充実した時間を過ごすことができています。その中で、働き方改革のオピニオンリーダーの一人として活躍されている小室さんのお話は、いつか聞いてみたいと思っていました。お話の内容は非常に心に響くものがありました。
講演の冒頭、今日聞いた話は、この先自らが講師になったつもりでどんどん広げていってもらえれば、と小室さんが仰っておられた?こともあり、僭越ながら今回の講演内容について、私の考えの整理と備忘録を兼ねて書き記してみたいと思います。(子供をあやしながら聞いた部分もあり、私の思い違いがあった際にはご容赦ください)

講演要旨

○ 自己紹介と今までの事例紹介

・小室さんは、起業14年目の45歳。長男誕生から3週間後に起業。創業して以降たとえどんな多忙な仕事をしていても、午後6時15分までには必ず子供のお迎えに行かねばならないという働き方をしてきた。夫は毎晩深夜帰りのハードワーカー状態で働いていた。
・そのため、自分が残業ゼロで働かざるをえなかった。実際に残業でゼロで働いた。社員も残業ゼロ。時間に制約がある中で、集中して時間を区切ることで成果を上げてきた。そのことから、労働者の残業時間に上限を定めることへの政策提言をずっと続けてきた。
・2012年に大きな転機があった。国会に呼ばれて公述人としてプレゼンをした。官邸での会議に呼ばれ、男性60歳代以上の各界のトップの方々に囲まれて意見を述べることもあった。こうした露出がきっかけで、様々な場で話をする機会を得た。数々の提言も行ってきた。
・そのおかげで、ようやく提言してきた内容が骨太の方針や法案に盛り込まれ、政策として実際に実を結ぶようになってきた。

・自社がコンサルとしてかかわった企業では、実際に残業を減らして成果を出すところが多数出てきた。興味深いのは、残業が減ると、社員の結婚や出産数まで増えた、求人応募数が跳ね上がった、関係会社の残業時間まで改善した、などの事例まで産まれたケースもあった。行政関係だと、三重県庁が地方創生交付金を活用して県内企業と県庁内部の働き方改革を支援した事例がある。

○ 「ワーク・ファミリーバランス」と「ワーク・ライフバランス」は似て非なるもの

・誤解されがちなのが、「ワーク・ファミリーバランス」と「ワーク・ライフバランス」は別物だということ。
・前者は、育児中の従業員、介護中の従業員のみが対象。家庭の事情と仕事とのバランスを考慮しなければならないという発想。家庭の事情が無ければバランスは考慮しなくてよいとなってしまう。これだと、事情を抱える家庭のある人の負荷を、独身者にしわ寄せすることになってしまう。誰かの負担を、特定の誰かに押し付けてしまう状態。この状態だと、全体としては業績マイナスに働いてしまう。
・後者は、全従業員が対象。育児や介護だけでなく、自己研鑽、看護や運動など、全ての従業員それぞれのライフを充実させるために必要なこととバランスを取るという発想。もちろん旅行に行くのもライブ参戦するのもライフの充実。従業員のインプットや多様性の確保が企業の付加価値を生み出すことができる。全体として業績プラスに働く状態。

・この2つは似て非なるものであって、本質的な取り組みから逃げていてはコストばかりかかってしまう。組織全体の働き方を見直すことが必要で、それが業績向上に、ひいては企業が勝つことにつながる。

○ 「人口ボーナス期」から「人口オーナス期」へ

・働き方改革の必要性の根っこの部分を理解するには「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」にとるべき戦略を理解することがポイント。ハーバード大学デビットブルーム教授が1998年に提唱した理論。

・人口ボーナス期は、社会の生産年齢人口比率が高くなり、人口構造自体が経済にボーナスをくれる時期。今でいうと中国、韓国、シンガポール、タイが該当する。この時期は安くて若い労働力がたくさんいて、それを武器に爆発的な経済発展ができる状態。一気にお金を稼いでインフラ投資などに投入し、社会が成長する。これに対して、社会が養っていく高齢者が少ないので社会保障負担は少ない。
・この理論に基づくと、戦後復興の経済成長は団塊世代が頑張ったからというよりは、むしろ人口ボーナス期だったからという影響の方が大きいのではという見解が導けてしまう。
・日本のボーナス期は、1960年代~90年代半ばまで。中国はいよいよ終わり。インドは2040年まで続く見込み。
・ボーナス期の終了は、高度成長に伴う高学歴化、非婚化や晩産化で少子化が進むこと(生産年齢人口が減って稼ぐ人が減る)、医療制度などが充実して高齢化が進むこと(老年人口が増えて社会が養う人が増える)で訪れる。その後、人口オーナス期が訪れる。
・ちなみに、1度社会の人口ボーナス期が終わると、二度目は決して来ない。日本は既に20年以上前にオーナス期に突入している。オーナス期に入ったので、闘い方の戦略を変えていかねばならない、にもかかわらず日本は戦略を転換することに完全に乗り遅れている状態。

・人口オーナス期は、社会の生産年齢人口が減少し、人口構造自体が重荷になっていく時期。働く労働力人口が減少して、支える側の引退世代が増加することから、社会保障制度の維持が困難になる。欧州は日本よりも先にオーナス期に突入。しかし、日本は少子化対策が不十分なまま進んだため、ボーナス期を早めに終えてオーナス期に入り、圧倒的スピードで欧州を追い越してしまった状況。
・この状況での対策は、2つ。1つ目は、生産年齢人口でありながらまだ労働参画できていない人をどれだけ参画させられるか(女性、障碍者、介護者)。女性の教育がまだ進んでいない国ならまだしも、税などの社会リソースを多く投入して高度教育を受け終えた女性がたくさんいるにも関わらず、その力を社会が活用できていないのは日本の大きな課題。国民全員がもっと声を上げていい深刻な状態。2つ目は、少子化対策として真に有効な対策をどれだけできるか(未来の労働力を確保)。少子化対策と長時間労働の是正は、つながっている。長時間労働がなくなると子供が産まれている企業事例が多数ある。

○ 夫の育児参加が妻を支え、第2子以降につながる

・1人目の子のときに、夫の家事・育児への参加が少なかった家庭は、第2子以降の出生がない。男性が家事・子育てに参加していないことで、1人目の孤独な育児が妻のトラウマになる。もうそんな辛い思いは二度としたくないとなってしまう。厚労省の統計でも、夫の家事・育児時間が多い家庭ほど、第2子を授かる結果が出ている。
・少子化対策と女性活躍に必要なのは、男性の働き方改革。他国では、社会全体で労働時間の上限を設定し、家庭と両立できる環境整備に力を入れてきた。人口オーナス期を乗り切るために既に舵を切っている。

・産後の妻の死因の1位は、自死。多くが産後うつによるもので、そのピークは子の生後2週間から1か月。およそ出産を終えたあと、新生児の世話でまともに寝れないなか、母親の女性ホルモンのバランスが大きく切り替わるタイミング。体の負担もまだ大きい産褥期にうつ病を発症しやすい。
・うつ病を防ぐには、外で朝日を浴びる時間を作ること、7時間以上の睡眠をとることが効果的。でも、ワンオペ育児だとその予防策はとれない。産後うつのまま子育てを続けていると母親の精神的健康の影響だけでなく、子の心身の発達にも影響する。

○ 男性育休100%宣言

・産後の妻を支える夫の存在は非常に大きい。だからこそ男性も育休をとって妻を支えてほしい。男性が育休を取りにくい環境を脱するために、企業のトップに「男性育休100%宣言」をしてもらい、その輪を広げる活動を進めている。即座に100%を確約するものではなく、これから100%を目指してくことを宣言するもの。この活動の一環で「男性育休応援動画」を作成した、ぜひ一度観てほしい。

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#もっと一緒にいたかった 男性育休100%プロジェクト(90sec.)

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○ 人口ボーナス期と人口オーナス期に取るべき働き方戦略の違い

・今は人口ボーナス期から人口オーナス期に変わり、経済発展しやすい働き方の戦略も大きく変わっている。

・人口ボーナス期には、「なるべく男性が働く」「なるべく長時間働く」「なるべく同じ条件の人をそろえる」ことが効果的だった。
・まだ若くて安い労働力がたくさん余っている時代に、力仕事で稼ぐことも多かったため男性が身を粉にして働き、女性は家庭で支える側に回ることが合理的だった。
・また、安い労働力をフル活用できるため、早く安く大量に作って消費する社会で勝つためには、投入時間=成果に直結するため、長時間働くことが合理的だった。
・社会の均一なものを大量に提供することで市場ニーズを満たせるため、労働力も、急な転勤や長時間残業などによって、代えがきく労働力をふるいにかけて、生き残り競争の中で忠誠心を高めてもらう手法が従業員を一律管理しやすく経営戦略上合理的だった。

・人口オーナス期では、基本的に全てが真逆。「なるべく男女ともに働く」「なるべく短時間で働く」「なるべく違う条件の人をそろえる」ことが効果的。
・今はとことん頭を使う仕事が増えて、かつ労働人口が減って人手不足の状態なので、活用できる労働力はフル活用する必要が生じる。
・また、人件費が高騰しているなか、ミスなく質の高い仕事をするためにも短時間で成果を出さないと利益が産まれないため、短時間で働いてもらう必要が生じる。人間の集中力には限界がある。ヒトは起きてからの活動時間が13時間を超えると機能しないという研究結果もある。
・市場ニーズにも多様性が求められるため、多少の違いでは評価されない。圧倒的なサービスや商品を生むためには、多様な人材がフラットに議論して活躍させて、イノベーションを起こす必要が生じる。多様な条件の人をそろえるための環境整備が必要となる。

○ 多様性のある働き方、チームの形を

・これまでの職場のチームの形は、一部の時間外勤務が可能な人材に思いきり仕事をしてもらうことが解決策だった。できない人の分をできる人に寄せる方法。しかし、現在はだれもが時間的な制約を持つようになった。仕事のやり方を属人化させずにチームで成果を出す手法が解決策になる。人材奪い合い時代に入っているため、いくらでも働ける人材を囲い込むことはもはや困難。
・職場には多様な人材がいないということではなく、多様な人材が生き残れない職場環境が残っていることで、いわば多様な人材を門前払いしてしまっている状態なのだということ。生き残った人は条件の近い同じような人材ばかりになってしまうというもの。

・既に深刻な少子化によって人口減少社会も始まっている。急加速的に人口が減っていき経済破綻が避けられない社会を選ぶのか、働き方改革に取り組んで人口減少の加工曲線をなだらかに留めるのか、変わるチャンスはあまり長く残されていない。

・働き方改革は、勝つためにやる。人事管理の都合まかせで行うのではなく、勝つためにやるもの。そのためにも、まずは仕事の属人化をやめて、長時間働ける人の仕事がブラックボックス化するのを防ぐことから始めよう。

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感想

話を聞いて、私は今まで、働き方改革や女性活躍という言葉が、どこか各個人の根性論やモラルに訴えかける方法で課題の解決を目指そうとしてるのかというようなうがった印象を持ってしまっていたのですが、人口構造に基づく理論に沿った人口オーナス期に適した戦略という見方が印象的でした。
育児・介護当事者のバランスだけでなく、全ての働く人のワークライフバランスを改善することが、働き方や生き方を変えていく一歩になるのだと思えました。特に少子化は深刻といわれる中で、子育て世代がもっとがんばれ!というような機運ではなく、社会全体で働き方を変えていくことこそが、少子化に関わる問題について、もっと深く根本的な課題を解決することにつながるのではと感じました。

約75分ほど、ボリュームたっぷりのお話でした。長文になってしまいましたが、機会があるごとにこの内容を振り返ってみたいと思います。

読んでいただきありがとうございました。

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