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リスキリングとアンラーン

岸田総理は2022/10「リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明しました。

そのニュースを聞いた時に「リスキリング」の意味を知っていた人は国民の何パーセントいたでしょうか。
聞いたこともない「リスキリング」に1兆円を投じる意義やねらいについては、ほとんどの人はピンとこなかったことでしょう。

そもそも先の表明は、2018年に経産省から出た文書【DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~】(以下:DXレポート)を踏まえてのものです。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

【DXレポート】の中で「2025年の崖」が提示され
「今のままだと2025年以降、大変なことになりますよ」
と企業に対して警鐘を鳴らしました。様々なことが複合的に発生し、企業に一気に襲い掛かってくる時期が2025年であることを表しています。

同時に、「2025年の崖」を回避するためには「今すぐDXに積極的に取り組むこと」がカギになることも書かれています。当時2018年です。
このような大号令があったにも関わらず、日本国内ではDXは遅々として進んでいないのが現状です。

DXを進めるためには、当然のことですがDXに詳しい人材(①)が必要です。その人材と共通認識を持ってプロジェクトを進行できる人たち(②)も必要です。最終的には現場の末端の人々(③)も、DXを進める意図や内容、ねらいなどを知っていなければなりません。

しかしながら、2018年当時には、①の人材さえ豊富と言える状態ではなかったと思われます。②も不足し、③に至っては「DXってなに?おいしいの?」レベルの人がほとんどだったことでしょう。

そこでリスキリングです。
reとskillとing。
再、熟練、~ingで、スキルを持つよう再教育する みたいな意味です。

リスキリングを簡単に説明すると
・企業が
・事業計画に沿って
・新規事業や成長分野のスキル・知識を
・従業員に教育する
ことを指します。

DXを進めるためにはデータそのものに関する知識だけでなく、そのデータをどのように活用するかに関する知識とスキルが不可欠です。また当然のごとくITに関する知識も必須です。データとITを活用して、新規事業をしたり、既存事業を改善するわけです。

多くの企業はデータを大量に持っていますが、それを分析して業務に活用する方法も知らず、手段も持っていないのです。
それは上記の①②の人材不足が原因の一つです。

皆さんの会社にも、何に使われているかわからないExcel表などが、各部門に大量にあるのではないでしょうか。
・決まりだから作っている。
・時期が来たから作成する。
・いつ使うかわからないが、とりあえずデータだけ取る。
そういった「存在するが、まともに使われていないデータ」がとんでもない量で存在するのです。

それらのデータは①や②の人がいれば、宝の山に変わる可能性があります。しかし、①も②もいない。

だからリスキリングするのです。

企業が将来に向けた事業計画を立て、新規事業や成長分野を伸ばすことを計画します。

そこにDXに詳しい①②の存在がなければ計画倒れになるので、リスキリングをして、①②の人材を企業が作り出していきます。
それと並行して③の人たちにも、彼ら(①②)とある程度の共通認識を持って会話できるよう、浅く広い教育を施していきます。

①②は人数は少ないけど、深く、広く、詳細に、実践的に教育します。OJTとは違い、社内に有識者はいないわけですから、外部教育機関などを頼ることになり、お金もかかります。

また③に対する教育は浅く、広く、短期間ですが対象人数がかなり多くなってしまいます。当然お金はかかります。

話は冒頭に戻ります。
そこで政府が重い腰を上げて、「2018年に言いましたよね。でも進んでませんよね。だったら補助をするから、やってください」なのです。

これで1兆円の意味が、なんとなくわかってきます。

さて、リスキリングは対象(①②③)によって、内容、深さ、期間などが変わってきます。

①②などの人は、おそらく積極的に取り組むことでしょう。
問題は③です。

③の人たちは「今のやり方を変えること」に大きな抵抗を示します。

そこでアンラーン(unlearn)です。
learnは学ぶ。ですよね。
unが付いていると否定の意味に考えて、学ばない。
となりそうですが、違います。
既存の知識・スキルを意識的に忘れる。に近いでしょうか。
この意識的に忘れるということが、リスキリングに有効なのです。

人は新しい知識やスキルを習得する際に、一旦抽象化し、既存知識やスキルとの照合を行います。そして、新旧の共通部分、相違部分、新登場部分、なくなった部分、概念は同じだけど捉え方が異なる部分。などなどを考えていきます。

その後、新を取り入れるのか、旧のままでいくのか、部分的に取り入れるのかを決定して行動に移します。

この決定の際に、既に学んだこと、既存のスキルが邪魔をすることがあります。「だって今のままでうまくいっているのだから」「どうして変えないといけないの?」となるわけです。

しかし「2025年の崖」はもう目の前です。待ってくれないのです。
企業の経営層は既に相応の危機感を持って取り組み始めており、実際に成果を出している例もたくさんあります。
経営層や①②の人材は未来を見つめているため、アンラーンを意識しなくてもできているのだと思います。

つまり、過去の栄光や成功を一旦忘れて、脇に置いておかないといけないということを頭で理解して取り組んでいるはずです。そうしなければDXも、新規事業もできません。

対して③の人は、そこまでの危機感もなく、今のままが永遠に続くと心のどこかで思っています。だから経営層からリスキリングの大号令をかけても、既存知識や過去の成功体験、現状に拘泥して、学ぼうとしない恐れがあります。

③に対して「DXは必要。そのためにリスキリングも必要。全員に研修を用意したから学んでください」だけでは、だめなのです。

③に対するリスキリングに取り組む際には、アンラーンの概念を最初に伝え、会社の状況を伝え、変化の必要性、新スキルや知識獲得の喫緊性などを話さないといけないと思います。

そのうえで、頭を真っ新、フラットな状態にして臨んでもらえばリスキリングの効果は高まり、1兆円は効果的に使われることになります。

単に研修の企画をして、実施したら補助金出るよね。
ではダメだと私は思います。

いただいたサポートは、おじさんの活動費としてとんでもなく有用に使われる予定です。