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教室環境が発達障害のある子どもの行動に及ぼす影響

 DSM5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)「米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル」などの診断分類では特定の行動特性が発達期から持続的に出現することに加え、それらが個人の社会生活を営む上での困難性をもたらすか否かが基準になっています。そしてこれらの行動の生じやすさとそれに起因した困難性は、ともに環境要因に大きな影響を受けています。

 しかし発達障害のある児童生徒に適した環境要因の評価に関する研究は多くありません。

 「環境」といっても広範な概念になりますが、例えば物理的環境としては、自閉スペクトラム症のある人に対してどのような建築空間環境が必要かという研究は建築の分野から検討されています(Gaines,ら2016)。Tola,ら(2021)は、感覚の問題に対する改善、シンプルな空間レイアウトによる方向性や予測可能性の向上、環境をより適切にナビゲートできるように視覚サポートを使用する、などをあげています。

 教室の中の物理的環境要因について実証的に研究したものは少なく、Kinnealey,ら(2012)では、感覚過敏を示す4名のASDのある生徒の出席が、吸音壁とハロゲン照明の設置後に増加したかどうかを単一事例研究法によって検証し、結果、出席と参加の頻度と安定性が向上し、教室のパフォーマンス、快適さ、気分が改善されたことを報告しています。

 また井上(2006)は、発達障害のある子どもの適応行動を促進するための教室の中の物理的環境を含む環境要因のチェックポイントを示しています。

 

 
表1 教室内の物理的・社会的環境要因に対するチェックリスト(井上2006を改変)
物理的環境
□黒板からの距離が適切か
□教師からの支援が得られやすい距離か
□窓や掲示物など気になるものからの席の距離や位置や方向が適切か
□個人の机と机の間隔が適切か
□ちょっかいに対して反応してしまいやすい仲間との距離やグループ作りが適切か
□サポートを得られる仲間からの距離やグループ作りが適切か
□次の行動の手がかりとなる準備物などの事前の情報の提示や掲示がなされているか
□板書の文字や量が適切か
□壊れやすいものやはがれかけた掲示物の整理がなされているか
□整理しやすい引き出しや荷物・学用品置き場の工夫がなされているか
□気温・湿度・音などの過敏性への配慮がなされているか
□課題への興味,難易度,量が適切か
□プリントの文字の大きさ、記入欄が適切か
社会的環境
□個別の支援計画を作成しそれに沿って教育課程が組まれ支援しているか
□個別の指導計画を作成しそれに基づいて支援しているか
□何をしてよいかわからない時間や状況に対する指示がなされているか
□個別の指示や視覚的な支援の工夫がなされているか
□スケジュールの変更、教室移動に対して見通しがもてるよう事前に指示をしているか
□はじめての行事や参加困難な行事について保護者と事前の話し合いができているか
□同学年担当教師や保護者と定期的な支援ミーティングを行っているか
□同学年担当教師や保護者との共通理解ができているか
□教師からの提案を拒否した時の次の手だてや対応が具体的に準備されているか
□しかったり注意するだけでなく適切な行動を対象児に説明し促しているか
□適切な行動に対してそれをほめたり認めたりしているか
□クラス全体に仲間同士で助け合ったりお互いに努力や成功を応援する雰囲気があるか
□クラス全体の取り組みを保護者たちに定期的に伝達し理解が得られているか 

 

 このような環境要因の評価には、ユニバーサルなものと個別的に必要なものがあると考えられます。まずは変更可能な環境設定を行い、そのうえで個別の支援を計画することで、それをより効果的にすることができるのではないかと思います。

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