見出し画像

「天城山からの手紙 54話」

連載も一年が過ぎ、読者には毎回の拝読を感謝している。なるべく、最新の天城をお伝えしたく入山を続けているので、これからもお付き合い願いたい。さて、季節が移ろう時は特に、そのシーズンを占うかのように、最初の出会いはとても大事なものになる。この日は、天城の秋をスタートさせた大事な一日となった。全国にならい、天城の紅葉も例年より一週間ほど遅れているようだ。そして、現在の天城は、今期の台風により、沢山の倒木が増え、残念ながら大きく形相が変わってしまった。私の心情からすると、どうしても倒木への感情が深くなってしまい、カメラを向ける事が多くなる。この日も、稜線へと登る道を歩いていると、倒れ込んでいる一本の木が、私の体に音を鳴らした。傍らで見ていると、武骨な木にしか感じず、なぜ心に音が鳴ったのかわからない。ちょっと目を閉じると、登ってきた遠方の景色と、およそ20メートルほどだろうか?遠方から見るその倒木の姿が浮かび上がった。はっとするように、崖をよじ登り、距離をとって遠方へと目を向ければ、そこには倒木を中心とした物語が広がっていたのだ!倒木が横たわるその場所は、時が終わったかのように静まり返り、日の当たるその先は、まさに季節移ろい時が進んでいる。倒木は今、何を思うのだろうか?今まで生きた時間が急に止まり、過去への時間が始まる。私になった音は、この倒木の困惑と儚さだったのだ。そして、ここから過去への歩が進み、次第に生きた思いは、遠く見えなくなっていくのだろう。

掲載写真 題名:「過去への始まり」
撮影地:皮子平
カメラ:SONY ILCE+7RM3 FE24-105F4GOSS
撮影データ:焦点距離26mm F11 SS 1/6sec ISO250 WB太陽光 モードAV
日付:2019年11月3日 PM1:02


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?