秋の空①
やっとこの時がきた。他にも方法はいくつかあったがこれが1番私には合っていると思った。凶器を使うのは怖かったし、首吊りは苦しそう。走っている電車や車に飛び込むなんてそんな迷惑なことはできない。
だけど、これならそんな心配は少なかった。ただ他よりちょっと高いところから前に進んであとは重力というものに身を任せればいい。他の方法に比べれば大した勇気もいらないと思ったし人身事故のように大勢の人に迷惑をかけることもない。静かに自分の物語にピリオドを打つことができる。
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このことを実行しようと思った1番の理由は何かと問われれば答えに詰まる。会社が倒産して絶望したり、愛する人が急にいなくなってしまったわけではない。ごく普通の生活をごく普通にしていただけだ。ただ、それが私には辛かった。
昔、高校の倫理の授業で善い生き方とは何かについて学んだ。どんな内容だったかはまったく覚えていないが今の私の生活が善い生き方でないことだけはわかる。もしかするとポジティブな感情をもっている生活のみが善いということではなくて、ネガティブな感情をもっている生活も善い生き方なのかもしれない。どちらの感情ももち合わせていない人間の生活というのが悪い生き方になるんだろう。そのような生き方の1人が私だった。
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ギリギリのところまで来た。ちらりと下を見る。頭部が少し暑い。そして、少しの拘束感がある。
ここでいくら考えたって何も始まらない。ここまで来たのだからどれだけ考えようったって結局は進み、そして落下するのだ。私が踏み出した後、私は何を思い何を感じるのだろう。そんなことは今の私にはこれっぽっちも分からない。
もう行くしかない。覚悟を決める。
3、2、1
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秋の風は心地いい。
「お疲れ様でしたー。」
先程私を送り出してくれたスタッフとは違うスタッフが声を掛けてくる。
「ありがとうございました。死ぬまでに経験できてよかったです。また機会があれば来ようと思います。」
すべての行程を終え、帰路に就く。
私はもう、今日の経験を再びすることはないだろう。
なぜなら、これから自分はどうしたいのかが分かってしまったから。
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