プロ投手と高校生投手の投球動作のタイミングの違い
プロ投手(メジャー、マイナー)317名の3261投球と高校生投手54名の430球を三次元バイオメカニクス投球アセスメントで比較していました。各投手は、十分にウォームアップを行った後に、通常の距離(18.44 m)をホームベース後ろに座った捕手にゲームのような全力で直球を8-12球投げました。
測定には以下の項目が含まれていました。
1) 前足接地―骨盤:前足接地時から骨盤ピーク角速度までの時間
2) 骨盤―胴体:骨盤ピーク角速度から胴体ピーク角速度までの時間
3) 胴体―肘:胴体ピーク角速度から肘伸展ピーク角速度までの時間
4) 肘―ボールリリース:肘伸展ピーク角速度からボールリリースまでの時間
各投球の球速および肩牽引力、肩内旋トルク、肘内反トルクも決定していました。
プロ投手と高校生投手は、前足接地時からボールリリースまでの投球動作の総時間がほぼ同じでした。プロ投手の総時間は173.1 msecで高校生投手は174.6 msecでした(下の表参照)。
高校生投手は、プロ投手に比べ前足接地―骨盤に8.9 msec、胴体―肘伸展に6.4 msecより長い時間を費やしていました(下の表参照)。プロ投手の前足接地後の反発力と素早い骨盤回旋でコッキング期から加速期までの導入が示されたことになります。
一方、プロ投手は、高校生投手に比べ骨盤―胴体に11.7 msec、肘―ボールリリースまでに2.2 msecより長い時間を費やしていました(下の表参照)。体幹から肩甲骨へのエネルギーの伝達の大きさ、あるいは体重の大きさの違いと最後のボールリリースまでの粘りがあったのではないかと推測します。(プロ投手の平均身長:190.0 cm、平均体重:95.1 kg。高校生の平均身長:180.0 cm、平均体重:73.8 kg)
プロ投手は、高校生投手に比べより大きな肩牽引力、肩内旋トルク、肘内反トルクを生んでいます。両投手群間の球速の速さの違いを反映しています。
プロ投手
プロ投手は、投球メカニクスすべての時間増加と肩牽引力と内旋トルクの減少に関係がありました。言い換えれば、投球動作の時間増加が肩の障害リスクを減らすことになります。
統計的複合効果モデルからプロ投手は、骨盤―胴体の時間を30 msec増加させれば、球速を0.7 km/h減らせ、同時に肩牽引力を2.3% BW(体重比)減らせます。体重を使った胴体の回旋が肩の負担を減らすこと言えます。
高校生投手
高校生投手は、前足接地―骨盤および骨盤―胴体、胴体―肘の角速度増加が球速を遅くさせました。骨盤回旋から体幹の粘りを習得する必要があるかもしれません。
また高校生投手は、骨盤―胴体および肘伸展―ボールリリースまでの時間増加が肩牽引力を減少させました。手先で投げるのでなく、むちのような腕のしなりが肩の負担を減らすかもしれません。
さらに高校生投手は、前足接地―骨盤および骨盤―胴体までの時間増加が肩内旋トルクを減少させました。また肘―ボールリリースまでの時間減少が肩内旋トルク減少させました。肩内旋トルクは、肩最大外旋(MER)に関係し、MERは球速に関係します。投球動作中のコッキング期の技術向上に余地があると思います。
高校生投手は、肘―ボールリリースまでの時間増加が肘内反トルクを増加させました。肘尺側側副靭帯は、コッキング期から加速期のストレスで損傷します。ボールリリースまでの肘内反トルクは、過剰な胴体の逆側傾き(グローブ側)が考えられます。
統計的複合効果モデルから高校生投手は、骨盤―胴体までの時間を30 msec増加させれば、球速を1.2 km/h、肩牽引力を2.3% BW減らせます。コッキング期から加速期へのエネルギー伝達向上のフォームが求められるのかもしれません。
同様に高校生投手は、胴体―肘までの時間を30 msec増加させれば、球速を1.7 km/h減らせます。体重が軽い高校生ではむずかしいかもしれませんが、技術的な加速期の胴体の回旋、粘りのことだと思います。
まとめ
投手の前足接地から骨盤までの時間短縮が球速増加に関係します。つまりすばやい地面反力の活用のことです。一方で球速が上がれば肩牽引力、肩内反トルクは増加します。プロ投手の各部位のタイミングからみると、高校生投手は投球動作後半時間(加速期)における胴体回旋角速度の改善が求められます。
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