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プロ投手の投球メカニクス

投球メカニクスの研究論文が興味深い。
今回の研究対象は過去6カ月投手として健康である現役プロ投手です。データ収集は秋の技術指導期間あるいは春のトレーニング(キャンプ)期間で行われました。

Manzi. J Shoulder Elbow Surg. 2021;30:2596-2603

プロ投手(メジャー、マイナー)323名がブルペンから通常の距離(18.44 m)に実際のゲーム時のようなホームベースの後ろに座る捕手に向かって全力で投げた直球8球から12球、それらをバイオメカニクス手法で分析されました。各投手は、自身のペースで投球することができました。

研究では、323名のうちストライクゾーンに最低3球、2.2 m/s(7.9 km/h)以上の球速幅を投げた投手を抽出しました。その結果91名が今回の研究対象者になりました。投手が最初の投球から球速を上げることができたかでした。測定環境下のブルペンだと試合環境下とは違い、また要求が直球のみなので、最初と同じような球速で投げる投手がほとんどだったと言えます。測定側もゲーム時のように全力で投げるようにのみを指示しただけでした。
分析対象者91名の球速幅平均は4.1 m/s(14.8 km/h)でした。3球以上の球速変化は統計に必要な最小限であったと思います。91名の球速平均速度は25.9-45.6 m/s(93.2-164.2 km/h)でした。

球速とキネマティック各値の関係

結果、91名の球速の速さと上腕骨頭が前に突き出す「肩前方力」に相関はあったものの、それ以外のキネティック測定値に相関はありませんでした。しかし、各個人の球速の速さとキネティック測定値すべてに強い相関がありました。たとえば球速とコッキング期の肩最大外旋時(MER)に抵抗する「肩内旋トルク」や肘外反ストレスに抵抗する「肘内反トルク」などです。

「肩上方力」は、肩峰下インピンジメントを引き起こす恐れがあるが、ここにも個人の球速の速さに相関がありました。さらに加速期において肩甲上腕関節が引っ張られる「肩牽引力」は関節唇損傷リスクに関係します。同様に「肘牽引力」も肘の尺側側副靭帯損傷リスクに関係しますが、こうした二つの関節の牽引力と個人の球速の速さにも相関がありました。

投手のキネティックリンク

投球動作中の利き腕側の上肢は、肩甲骨から肩甲上腕関節、上腕骨、肘関節、前腕、手関節、手とキネティックリンクで一連の動きで行われています。一連の動きとは、たとえば肩水平内転のピーク角速度が達し、その角速度が減速し始めて次の肩内旋の角速度がピークに達します。肩内旋角速度のピークが減速し始め、肘伸展の角速度がピークに達します。このように遠位部から近位部にピーク角速度が移行することです。

上腕二頭筋長頭とSLAP損傷

関節唇(SLAP)損傷は上腕二頭筋長頭の急激な伸張性によるもので、一方で上腕二頭筋は加速期の肘伸展を制御しています。仮に肩と肘牽引力が同時に起こる投球メカニクスだと肩肘の損傷リスクは高くなると言えます。
プロ投手91名の球速は、投手間でなく、各個人内において上肢のキネティック測定値に相関がありました。言い換えれば、球速の速い投手は球速の遅い投手に比べ、肩、肘のキネティック値が高いとは限らないことです。

投球キネティックエネルギー

骨盤と胴体が投球動作全体のキネティックエネルギーの半分を生む出しています。たとえば骨盤と胴体が生むキネティックエネルギーが20%減少すれば、投球中のリリースの力を同じように生むなら肩の回旋速度を34%増やす必要があります。

腕の速度に伴う遠心力で肩と肘が引っ張られることは、ある意味効率的なメカニクスと言えます。一方でボールリリース直後の減速期の肩の牽引力は腱板損傷につながります。

投球動作における上肢の損傷予防は、下肢のキネティックチェーンが効率よくエネルギーを伝達することができるかだと思います。このことで上肢のキネティックチェーンの最小限で同様の結果を生むからです。

まとめ

球速の速さと投球メカニクスの各体節のキネティック値は相関していますが、あくまでも個人であって投手間ではないことでした。

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