新型コロナウイルス感染症への対応から学んだこと

前回は、これまでの経験を踏まえ、私がリーダーとして重視していることについて書いてみました。今回は、私が2020年の1月にFacebook社に入社し、その後に発生した新型コロナウイルス感染症への対応にあたり、実際にどのようなことを考えながら対応し、どのような学びがあったのかについて書いてみたいと思います。

入社直後の1週間は、カリフォルニア州メンローパークにあるFacebook社の本社でオリエンテーションを受けたり、本社のエグゼクティブ、関係する部門のリーダーたちとのミーティングを行い、帰国後も様々なトレーニングを受けながら、お客様へのご挨拶や社員との面談などを重ねるなど、様々なことを学びながら少しづつFacebook Japanという新しい環境に慣れていきました。

そして2月中旬、エグゼクティブ向けのトレーニングがシンガポールで開催されるため、私は現地に入ったのですが、結果的にそのトレーニングには参加することができませんでした。

というのも、日本でのお取引先企業で新型コロナウイルス感染者が確認され、Facebook Japanとしての対応策を協議する必要が発生したのです。もちろん、この前から新型コロナウイルスの感染者は日本でも増加していたため、その動向には注視しており、HRとは様々な想定をしていました。しかし実際にFacebook Japanの社員との関りが近いところで感染者が確認されたことで、具体的なアクションを意思決定していく必要があったのです。

Facebook社としての方針もあり、入社後の3か月くらいは、社内外の様々な人から話を聞いて学びの期間としようと考えていたのですが、その期間は突然終わりをつげ、事態を理解して「決める」ことを行わなければならない緊急事態モードへと状況が変わりました

この時は、シンガポールから日本、本社とつないでテレビ会議を行って対応策を協議し、この時点では部分的なリモートワークの導入を決定。その後全世界的な感染拡大の影響を受け、全社的にオフィスをクローズし、完全リモートワーク体制へと移行することになりました。

新型コロナウイルス感染症への対応で学んだ3つのこと

新型コロナウイルス感染症への対応を進める中で、人との関係が重要だということを再認識させられました。入社から約1か月半という状況のため、当然部下となる方々もほとんどが初めて一緒に仕事をする人ばかりですし、Facebook社はグローバルで機能ごとにサイロ化されているので関連するステークホルダーを把握することも難しい。お互いにどういった人なのか、どのような能力を備えている方なのかという前提情報がなく、重要な会議で新しい課題を解決していくという作業は非常に難しいものでした。

一連の対応を振り返る中で、私は次の3つのことが重要であったと思っています。

1つ目は、情報を理解したうえで、組織に逐次伝えていくこと。これは緊急時には重要なことであり、私自身が理解できないと伝えることはできませんから、まずは理解することを大事にしました。具体的には、日本での感染状況、政府の対応や他社の対応状況といった社外の状況に加えて、社内の多くの情報ソースや他国のリーダーたちとの意見交換等、何が起きているかをデータだけでなくストーリーとして理解し、伝えていくということを意識しました。

2つ目は、頼るべきところは頼るということ。先ほどの話とも関連して、Facebook社は大きな組織なのでどういった機能・人材がいるのかを把握することがなかなか難しかったのですが、専門性が高い人が非常に多くいます。領域ごとに専門性を備えた方々にお任せする部分はお任せし、それをとりまとめていくことに注力しました。

3つ目は、優先順位を明確にすること。グローバルな組織なので、指針となる大きな方向性やプライオリティは本社のリーダーシップチームが決定しますが、日本の状況を適切にインプットし、我々の優先順位を明確に伝えた上で、日本にどのようにグローバルの方針を適用するかを納得するまで話し合いました。幸いグローバルの方針やプライオリティが納得感の高いものであり、同時に私たちが日本でやりたいと思っていた内容と大きなズレがなかったことは非常に良かった点だったと思います。

我々も事業会社ですから、通常時であれば売り上げを意識します。しかし、顧客のビジネスも、そして顧客自身も難しい状況にあるので、社員の安全を確保するという大前提のもと、まずは売り上げではなく、Facebook Japanとして顧客やパートナーの皆様の何をサポートできるのかにフォーカスするよう明確に伝えました。また、それを、機会を見て繰り返し伝えることも重要でした。

人はどうしても従来のやり方や考え方に戻ってしまう傾向があるものですし、また混乱している状況でもあるので、やるべき事をシンプルに、かつコンテキストをつけてコミュニケーションを図ることに留意していました。

入社直後にFacebook本社のエグゼクティブの方々とミーティングをした際に、Facebook社には優秀な社員が集まっており、現在あなたがいない状態でも組織はまわっているので、まずは四半期、あるいは半年ほどは人の話を聞き、学ぶことにフォーカスすべきだというアドバイスをもらい、当初はそのアドバイスを実践しようと考えていましたが、新型コロナウイルス感染症への対応が急務となり、そのアドバイス通りに過ごすことは叶いませんでした。

しかし、この未曽有の危機に多くの方々の協力を得ながら適応していくことで、新たな学びと信頼関係ができたとも感じています。一方で、Facebook Japanが現在コロナ禍で導入している完全リモートワークという運営方法からは、新しい課題も見えてきました。この課題については改めて書いてみたいと思います。