リーダーとして重視していること

以前、Facebook社が考える今後の働き方について紹介した際、「リーダーが責任をもって具現化に向けて主導」することが重要なポイントの1つであると話しました。今回は、私自身がリーダーシップについてどのように考えているのかについて書いていきたいと思います。

自己紹介に書かせていただいた通り、Facebook社に入社前は広告代理店のオグルヴィ、Microsoft、Twitterに在籍し、オグルヴィではアカウントチームのリーダーとして、Microsoft、Twitterでは広告事業の責任者として組織のマネジメントを経験してきました。

組織が立ち上げ期にいるのか、あるいは成熟期にいるのかによっても必要となるリーダーシップは異なりますが、ポイントとなる点に変わりはないと感じています。何より重要なことは、チームメンバーとの信頼関係であり、その信頼関係を構築するためには、透明性が高く、フェアであり、正直であることが必要であるということだと考えています。

個性の掛け算が組織を強くする

Twitterでの話から始めましょう。私がTwitterに参画したのは日本法人を立ち上げて間も無い時期で、そこに集まってくる方は、それぞれバックグラウンドも異なり、また当時の事業規模から考えると、大企業で安定を求める志向を持つような方ではなく、一定のリスクを許容しながら働くことを志向する優秀かつ個性の強い方々でした。組織としてのプロセスに則って動くというよりは、環境の整っていない中でも自分なりの動き方で成果を出すタイプといえるかもしれません。

メンバーそれぞれのバックグラウンドも異なりましたので、様々な局面で意見の衝突はありました。そのような場面で私が最も意識していたのは、まずは話を聞くこと、そしてビジョンや信念をもとに議論を整理し、進むべき方向性の答えを導いていくということです。議論の初期から私自身が答えをだすこともできたとは思いますが、その進め方を継続していくと、私の能力の範囲内でしか物事が進まなくなりますし、組織としてのダイナミズムが失われてしまうと考えています。

異なる個性を掛け算してチームの力を強くしていくというアプローチは、代理店時代に鍛えられました。代理店ビジネスはクライアントの成功が最大のミッションです。そのためには、クライアントだけでなく、多様なスキルを備えた様々な部署からのメンバーで構成される社内チームをまとめ上げていく必要があります。当初は、スムーズに業務を進めるために、自分と似た考え方をするメンバーを集める傾向がありました。しかし、それだとどうしても「チーム」の力が発揮されない。失敗を繰り返しながら、途中から自分よりも能力が高い人、自分とは異なる考え方など様々な個性を集めてくと、マネジメントの難しさはあるものの、チームが掛け算のように強くなることを目のあたりにしました。

Ogilvyでは、「自分より優秀な人材を採用すべきである」と言われていました。リーダーとは、全ての仕事に誰よりも秀でていることではなく、優秀な人材を率いて組織として結果を出す仕事です。20代後半から実践を通じてこのような経験を学ぶことができたことが、その後の私の大きな糧になっていると思います。

オーセンティシティから生まれるメンバーとの信頼関係

立ち上げ期から急速に事業が拡大してくると、それに伴い組織も新しい機能、組織体系、プロセスを必要として成長していきます。Twitterでも、チームはforming(形成・結成)、storming(混乱・激動)、norming(安定・統一)、performing(機能・遂行)を短期間で繰り返し、組織は急拡大していきました。

そして、組織の規模が一定レベルに拡大すると、メンバーに対するニーズも変化します。このニーズの変化への対応も、マネジメントとして難しいかじ取りが要求されます。どういうことかというと、この段階では、組織はよりプロセスに則ってビジネスを進められる方が必要となり、そのようなキャリアを持った方々を採用していきます。一方で、早い時期に参画していた方々にもビジネスの進め方に変化が求められるのですが、その変化への対応をサポートすることもマネジメントとしての重要な役割です。

短期間で求められる能力、働き方が変わっていく環境の中で、この変化への対応は簡単なものではありません。情報やコンテキストを説明したうえで、メンバーができていない点についてはきちんと意見を伝え、進化を図ってもらう必要があります。そこで重要となるのは、やはりお互いの信頼関係なのです。信頼関係なくして、透明性高く、公正に、正直にメンバーに対してフィードバックを行うことはできませんし、透明性高く、公正なフィードバックなくしてチーム全体としての進化は無いのです。

そして、メンバーとの信頼関係を構築する上での土台となるのは、リーダーとしてのオーセンティシティ(真正さ、偽りの無い自分らしさ)なのだと思います。

リーダーシップを発揮するために必要なこと

組織の立ち上げ期に必要なリーダーシップと、そこから組織が拡大しある程度の枠組みができた中で成長を加速させていくためのリーダーシップは異なり、それぞれのフェーズにあわせたリーダーシップが求められますが、変わることなく重要なのがメンバーとの信頼関係であり、その土台となるのはオーセンティシティであると考えています。

3年前にスイスのIMD Business SchoolでAdvanced Management Programに参加しました。世界中の企業、行政機関から集まる様々な経営者や幹部と共に、戦略やリーダーシップについて話し合う、3週間の合宿プログラムでした。そこで、自分が考えていたマネジメントやリーダーシップに対する考え方が「型」になっていることが分かり、自分の考え方に対する自信にもなりました。

そして、今、私がFacebook社で求められているのも、このオーセンティックなリーダーシップであると認識しています。在籍した企業各社にもリーダーシップのフレームワークは存在していましたが、大きな枠組みでとらえるとそこに大きな違いはないと思います。Facebook社の考え方でユニークだと感じたのは、自分に向き合うことの重要さを説く割合が他社と比較しても多い点です。

Lead Within

Facebook社では「Lead Within(自分自身をリードしていく)」という表現を使用していますが、リーダーシップを発揮するうえで、自分自身の肉体的、精神的コンディションを整えることの重要性を強調しています。この考えには私も大きく同意するものであり、非常に意識するようにしています。

自分では無い誰かを演じているリーダーについていくのは、メンバーにとっても難しいことだと思います。リーダーは弱い部分も含めて自分自身であることで、目的に対する強いパッションをチームメンバーにも感じてもらうことができ、結果として自分の信念を実践することができますし、頭だけでなく心で組織をリードし、お互いに信頼できる関係性を構築することができます。まさに、作家オスカー・ワイルドの名言にもある「Be yourself, everybody else is taken」ですね。

このようにオーセンティシティに基づいたリーダーシップに終わりはなく、私も自分自身を磨いていくことで今後も継続して改善していきたいと思います。