見出し画像

#25 身度尺

今日、大型デパートに行けば、ありとあらゆるものが、オシャレかつ安価で並んでいる。

そこでは、自分の欲しいものが「何でも選べる」ように感じるが、実は「選ぶこと以外できない」という側面もあるのではないか。



工業デザイナーの秋岡芳夫は、身度尺による日本のものづくりの知恵を社会に再認識させた。

つまり、人間は一人一人、身長・体重・身体のパーツなどのサイズが 異なっており、それぞれサイズにあったものを作り、使うことが大切なのではないか、昔からその手法を使ってきたのが日本のものづくりだ、ということである。

当然、一人一人に合わせて作れば、必然的に同じものはひとつもなくなる。

既にあるものの中から選ぶだけでなく、手仕事で作り出すという行為自体が尊いのである。



一方で、一人一人にあったものづくりという点は、AIの得意分野ではないか。

AIの1番の良さは、商品の均質化を図ることでも、生産過程の自動化・効率化を図ることでもなく、「一人一人に合った商品を提案できること」である。 

パーソナルな情報を入力すると、膨大なデータから直ちに答えを導き出す。

それは、一見すると手仕事と同じことをやっているのではないか。



では、手仕事はもはや必要ないのか。

それは違うと思う。

AIによる商品提案は、「選ぶ」という過程さえも失われる。

確かに使い心地や機能性は間違いないだろう。

だか、いくつもの工程が省かれ、最短・最省エネで渡された品物に、私達は価値を感じるだろうか。

それはただ、消費していくだけの「モノ」に過ぎず、大切に使われるためには、手間暇がかかっていることや出来上がるまでのエピソードなどの「コト」が加わって初めて、価値が生まれるのではないか。

もっと言えば、「誰から買うか」も重要な要素のひとつである。

結局、どんなに世の中が便利になり、賢く買い物ができるようになったとしても、僕達は人と人との間で生きていきたいし、人と人の間に価値を見出すものなのだと思う。



この先、社会が発展する中で、手作業は非効率で非合理的であるという風潮が強まると思う。

だからこそ、手作業の価値が生まれるのではないか。

大切なのは、その行為によって何が得られ、何が失われているのかを理解することなのだと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?