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episode 1 「余計なことしないでください」 〜自身がまったく実務経験をしたことがない組織のマネジメント〜【後編】

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中途採用担当の肝っ玉女性社員がした指摘は、いま考えると当たり前なことなのですが、当時悩みまくっていた私にとってはとてもインパクトのある言葉でした。

竹田さん、Aさんがこの前あんな反応したの、どうしてか分かってます?
竹田さんはどこの部署のマネジャーなんですか?
人事に異動してきたんじゃなかったですっけ?
お父さんが外の子供とばかり遊んでる息子や娘がどう思うか、わかりませんかね?

そう、私は人事・総務のメンバーではなく、それまで慣れ親しんでいた営業のメンバーとばかりつるんでいました。

その場で私は、1日2時間、毎日人事・総務のメンバーと会話するための時間をブロックしました。
そして、メンバー一人一人にじっくり話をする機会を欲しいとお願いしました。
中にはメールで、どうして話をしたいと思ったのか、反省の弁を書き連ねて時間をもらったメンバーもいたと思います。

思い返してみると。
私は、人事・総務の実務経験がない、わからない、と思いながら、分かろうとすること、知ろうとすることから遠ざかっていました。
それでいながら、自分の観点で思っていることや自分の経験ばかりを披露していたのです。
メンバーからすれば、私は自分たちの事情を聞いてもくれない、理解しようともしてくれない、しかも関わりの薄い人でしかなかったのだと思います。
そんな人から何かを言われても、腹落ち感があるはずがありません。
ましてや、そもそもの実務を知らない私の指摘は、ズレていたりもしました。
チームとしてうまくいかないのは、当たり前だったのです。

意識して関与する時間を増やし、とにかく彼ら、彼女らのことを知ろうと務めた結果、実に様々なことが分かってきました。
みんなは、確かに人事や総務のスペシャリストです。採用実務全般や、採用計画の立て方、エージェントとの交渉などは非常に長けており、経験も豊富です。

しかし事業や顧客に対する理解や、営業の組織課題、事業戦略や現場ではどんな日々を過ごすものなのか、そういった構造や状況の理解は当然ながら現場にいて経験をしている人ほど深くはないのです。
そのため現場との関係性に課題を抱えていました。

・現場の人材ニーズが正直よくわからない
・必死にいい人を集めて採用しても、現場でアンマッチが起こる率が高い
・気持ち的には採用後の初期研修まで見に行きたいが、時間がつくれないし、壁もあり議論も難しい
・現場からは、無理な要望と、否定が多い
・教育コストがかからない即戦力で、伸びしろもあって、最初からマッチするパーフェクト人材なんかまずいない

一方で、営業のメンバーからは、

・人事はただ頭数を集める機能なのか
・協力してくれと言ってくるばかりで負荷が高い
・現場を理解して、トータルに課題解決に寄与するのが人事なんじゃないのか

そんな不満の声が噴出していました。

このミスマッチを知ったとき、私はハッとしました。
これらの課題を解決するのに、人事、総務の実務経験は特段必要ありません。
むしろ私の今までの経験や、社内でのリレーション、培ってきたスキルで解決ができる内容ばかりです。

私のようなキャリアの人間をなぜ人事に異動させたのかがちょっとわかったような気がしました。

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みんなの思いや悩みに正対し、認識した課題に向き合って解決しようと奔走して数ヶ月ほどが経過すると、チームの雰囲気は見違えるようによくなっていきました。
現場と人事の関係も徐々に良くなり、比例して、様々な取り組みのスピードと質も向上していったのです。

そうして半年が経った頃でしょうか。全社総会で、マネージャーMVPをいただきました。
マネジャーMVPは、マネジャー自身というよりも、チームの成果を表彰されるものです。喜びはひとしおでした。
受賞後の懇親会では、人事・総務みんなで喜びあったのはもちろんのこと、酔った勢いも手伝って、あの笑顔の人事部エースとも抱き合った記憶があります。

その夜の帰り道で思いました。

未経験で不得意な実務を自分自身が身につけようとしても、一朝一夕に極めることなんかできません。
むしろちょっとかじって分かったような気になるのが関の山でしょう。
でも、自分ができないその実務を極めていたり、バリバリできるメンバーはいるわけです。

そしたら私のすべきことは一つ。
その彼ら、彼女らがもっと活き活きと、持っている力を全開に発揮できて、さらに進化してゆける環境をつくること。
それこそがマネージャーの仕事なのではないか。

その考えに至ってみると、営業マネージャーだった頃の「自分のようになればいい」という考え方は、未熟だったと恥ずかしくなりました。
本当に新人に、基礎を教えるフェーズではまだいいのかもしれませんが、そもそもだいぶ思い上がった思考ですし、そんな考え方では、優秀なメンバーの芽を摘んでしまったことでしょう。
マネジメントの全てが見えていたようなつもりでいた営業時代の私は、せいぜい全体の半分か、1/4も見えていなかったと思いました。

「マネジャーの仕事は、メンバーの力を120%発揮できる環境をつくること」

この貴重な経験と気付きをくださり、そして時に助け、一緒にやってくれたみなさん、人事・総務のメンバーに、今でも感謝しています。

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