episode 1 「余計なことしないでください」 〜自身がまったく実務経験をしたことがない組織のマネジメント〜【前編】
営業でマネジャーになって1年半ほどが過ぎた頃でした。
42歳の元リク・エグゼクティブ・ダンディズム社長から異動の辞令を受けました。
「オマエの営業力を生かして、人事を担ってほしい」
「・・・え?人事??」
まさかの異動でした。
当時の私が経験してきたのは営業のみ。
営業チームのマネージャーとしてとても充実していた時でしたので、その辞令は一言で言うとショックでした。
「人事に営業力いるのか…?」
ノッてきた環境から突然外れることになった寂しさもあったと思います。
人事・総務のメンバーはそんな私をとても歓迎してくれました。優秀な現場のマネジャーが来てくれたと言って。彼ら、彼女らの気持ちは嬉しかったので、その気持ちに応えたいという思いはありました。
とはいえ自分が実務を経験したことのない、人事・総務という仕事に対して、マネジャーとしてどう向き合えばいいのか、答えが見つからないままのスタートでした。
営業では、自分がそのチームのエースでした。
だから、メンバーには自分が経験したことを教えればいいし、悩んでいることも経験があることばかり。
できない子にはやって見せれば尊敬されるし、要はみんなができるだけ早く自分のようになればいいんだと思っていました。
しかし、実務を経験したことのない、人事・総務ではその技は一切使えません。
なんとかして彼らに信頼され、いいチームを作りたいという想いは、懇親会でご馳走をする、部会で独自性のある論展開をする、来客商談の場で交渉力を披露してみる、などという涙ぐましい行動に現れます。
しかし、
「馴染んでない・・」
居にくさは日々増してゆきます。
そもそも異動自体に釈然としない気持ちがあった私は、異動当初から営業時代の仲間とばかりつるんでいました。お昼ご飯を食べたり、相談に乗ったり、乗ってもらったり、夜飲みに行ったり。
徐々に日が陰るように、空気がグレーになってゆく人事・総務部。
異動して1ヶ月が過ぎたある日のことでした。
ある案件で人事部のメンバーと机をまたいで話をしていた時のこと。話し始めからちょっとイライラした感じだった彼が言ったのです。
「いや、もういいですよ。というか、余計なことしなくていいですよ。なんか失礼なんですけど、わかってないのに色々勝手に進められるのはやめてほしいっていうか・・」
彼は人事経験が10年の新卒採用のエースプレイヤーだけあって、顔に張り付いた笑顔は微動だにしませんでしたが、言い放った言葉は辛辣でした。
同じ頃、定例の部会では、こんなことも発生。
私:「じゃあ、次は〜〜について、Aさん共有お願いします。」
Aさん:「・・・。」
私:「あれ、共有事項お願いしていいかな?」
Aさん:「別にここで共有することはありません。・・・はぁ。て言うか、ここで共有する意味がありません。竹田さんは私の上司じゃないです。私の上司は前任の○○さんだけです。」
重苦しい部会が終わって席に戻った私は、隣の席の社長秘書兼労務担当の女性社員に話しかけます。
「さっき、どうしたのかな、彼女。」
でも、話しかけたその女性はキレイな顔のまま無反応でした。
困った状態になってしまいました。
鼻が、ツーンとします。
悶々とした日々は、長引けば長引くだけ、脱却しようとする力を減らしてゆくようです。そのうち、着々とマインドも堕ちてゆきます。
「そもそも人事に異動なんて自分で望んだものでもないし。」
「そもそも飛ばされたようなものだったし。」
わかりやすくダークサイドに堕ちてゆく私を見かねたのだと思います。
中途採用を担当していた肝っ玉女性社員が言いました。
「ごはん、行きましょう!」
(つづく)
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