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【読書録46】折り重なる4つの物語で描くものは?~永井路子「炎環」を読んで~

 今年の大河ドラマ「鎌倉殿の十三人」が面白い。
大河ドラマの舞台と同じ、鎌倉幕府成立から承久の乱により武家政権の確立までの時代の物語であり、直木賞受賞作である。

 武士の時代の到来の物語であるが、本書では戦闘シーンは全く出てこない。またこの時代の主人公ともいえる武家の棟梁・源頼朝は、登場はするが、彼の心理描写は一切描かれていない。

 本書は、4つの物語が、別々に独立しているようで折り重なって進んでいく。

 頼朝の真意を読み取ろうとする、阿野全成、梶原景時。彼らと頼朝の間に明確な会話はない。

 しかし、彼らの目線を通じて頼朝の人物像が描き出される。

 また北条政子と妹・保子もお互い本音に触れないまま、物語が進むにつれて、その行動によって本音が浮き彫りになる。

 その究極として最終章「覇樹」で登場するのが、四郎義時。出来の悪い息子と父・時政に言われ続けた彼がいつの間にか父を出し抜き、2代目執権に。

 一話一話が連鎖し重厚感ある小説となっている。

 司馬遼太郎の時代小説も好きだが、心理描写を中心に各人物の思惑を積み上げていく本書も名作である。

 昭和39年に描かれたのに臨場感を持って読むことができた。

 人間の浅はかさ、醜さ、そして視界の狭さを感じさせる。また四郎・義時の描写をみて、勝者とは意外とこういう人物なのかなという気もした。

 大河ドラマも頼朝の時代が終わり、御家人間の争いが激しくなる時代へ。こちらも目が離せない。

 

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