東京家族~夫と娘~
我が家の構成員の一人である娘は一風変わった小学生だと思う。顔や性格は母親である私に似ているが、性格の根幹は父親に似ていると思う。普段は隠しているのかほぼ私だが、ふとした瞬間に夫の片りんが見える。
夫はいいか悪いかわからないが、人に執着がない。そういう人に限って相手から執着される。けれども夫は興味のない人に対して冷たい。見ているこっちがヒヤヒヤするほどにだ。そして娘はそれを軽く引き継いでいる。まだ子供だからそこまでではないが、大人になった時を考えると少し怖い。
娘はのんびり屋だ。幼稚園のお友達と鬼ごっこなどをしているといつも鬼にされる。そして頭のいいお友達からいいように扱われる場面を多々見た事があった。それでも子供の輪の中での出来事なのでなるべく口を出さないでいた。すると子供同士で乱れそうな輪を修復し始める。突如と湧き出た正義感で娘の鬼に対して異議を申し立てる子がいたり、それに同調して楽しめる鬼ごっこをするために話し合いが始まる。けれども頭のいい子は少しとびぬけていて、言葉も達者だ。子どもなら言いくるめてしまう。そして娘は再び鬼をしている。
はじめの内は様子を見て、しばらくしたら声をかけようと思っていたが鬼の途中で娘が急に足を止めた。逃げ回っていた子どもたちは何が起きたかと、娘に声をかけた。「どうしたの?」「なんで捕まえないの?」娘はそれらの質問に一切答えなかった。すると、さすがと言えよう、頭のいい子がいち早く気が付き娘の元へと駆け寄った。そして、甘えるように腕を組み、言葉巧みに機嫌を取るような行動を見せた。それに続く様に他の子ども達も娘に寄って来た。いよいよ親の出番かと見ていたら、娘は腕を動かし組まれていた腕を振りほどいた。その後ろを追いかけるように、子ども達が追いかけて行った。そして鬼ごっこが再開されることはなかった。
家までの帰り道、私は娘に何があったのかを聞いてみた。「鬼ごっこを途中を辞めてたけど、何かあったの?」「えっ、何が?」「鬼ごっこして遊んでいたんじゃないの?」「ああ、あれね。」「あれは何してたの?」「何もしてないよ。」娘の中では鬼ごっこではなかったようで、鬼をしていたつもりもないらしい。だから、鬼を押しつけられていた感覚もなかった。ふと夫を思い出した。夫は人から嫌味を言われても全く平気で、むしろ気が付いていない。なぜならその人に興味がなく気にも留めていないからだ。
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