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ネット物販で南の島暮らし 18

 でもまだまだ、これだけで暮らせるほどの売り上げにはなっていないので、今は一度東京に帰る前に話をしていた国仲さんのペンションで住み込みの仕事させていただいている。

 こちらの仕事もお給料は東京での収入の半分以下ではあるが、家賃や光熱費はかからないし、食事も二食は出してくれるので、生活するには充分だ。 また、お客さんも毎日いるわけではないので、暇な時は暇だ。(苦笑)

 そして、国仲さんも私がネットショップをやっていることは知っているので、空いた時間に作業をすることも許可をもらっている。

 私がネットショップで得た経験を活かして、国仲さんのペンションのホームページなどの編集の手伝いもできるようになった。…一石二鳥とか三鳥といったような…いい感じなのだ。
 
 気がつけば、東京の家を引き払って石垣島に戻ってきて三ヶ月ほどが経っていた。もう季節は秋から冬になろうとしている感じだ。

 夏の間は南風で島の北側のビーチは波も穏やかなのだが、冬が近づいてくると北からの風が吹くようになり、気温も下がり海水温も下がり始める。

 十月くらいまではまだ普通に水着だけでも海に入れる日があったりするが、さすがに十一月にはもうウェットスーツなどを着込まないと海に入りたい気分ではなくなる。

 それでも観光客の人たちは喜んで普通に海に入って遊んでいたりするのだけど…(汗)。


 働いているペンションに訪れる観光客も減ってきて、仕事も暇になってきた。お客さんのいない日は、リネン類の洗濯や掃除、施設のメンテナンスなどが仕事になる。特に草刈りは頻繁にやらなければならない。

 地元では「ビーバー」と呼ばれるガソリンエンジンの力で丸ノコが回転する草刈機を使って草刈りをするのだが、いったん綺麗に草刈りをしても、油断しているとすぐに草が伸びてきて二〜三週間で元の状態に戻ってしまう。(苦笑)

 よくS F映画などで、荒廃した未来の地球…みたいなシーンで砂漠のような風景が映される事があるけど、実際は砂漠なんかになるところはほとんど無くて、絶対に植物で覆われてしまうんじゃないかと思う。
 南の島では植物の持つパワーがハンパじゃない。

 ブーゲンビリアなどは、南国を象徴するような花として知られているけど、枝にはトゲが結構怪我するほど尖っているので、伸びてくると枝をカットすることになる。枝は2〜3メートルは伸びていたりして、それをほぼほぼ根本から切ってしまうのだが、2年もするとまた同じくらいに伸びてしまうらしい。そして枝が切られても、メインの幹や根っこは成長し続けるのでどんどん太くなっていき、道路や塀などの近くに埋まっているとそれを崩してしまったりするらしい。
 自然のパワーの凄さを感じる。

 自然破壊なんて事が叫ばれているけれど、それは人間が暮らしやすい自然ということで、もし人間が本当に滅んでしまったとしたら、人間が作り出したものなんてすぐに自然に飲み込まれて、何事もなかったように生命に満ち溢れた世界に戻ってしまうのではないかと思う。

 でも、そんなパワフルな自然を身近に感じていると、私たち自身にも、それと同じだけのパワーがあるのではないかと思えてくる。

 だって、元を正せば人間だって、この地球上の自然から生まれた命なのだから。

 きっとどんな状態であっても、それを切り抜けて、くぐり抜けて、したたかに自分の命を成長させることができるんじゃないか…って思えて来る。

 よく知られた沖縄の方言「ナンクルナイサ」のように、「なんとかなるさ」と思えて来るのだった。

 宿泊客もいなくて、ペンションの仕事もお休みの午後、サンセットカフェでアイスコーヒーを飲んでいると、いつものようにプーさんがやってきた。

「お、智恵ちゃん、最近どう?」

「あ、おかげさまで、ちょっとずつですけどご注文いただけるようになりました。」

「そう。よかったね。」

「でもまだ、それだけで食べていけるような売り上げにはなってないんで、早くそのレベルまで持っていきたいですね。」

「まぁ、そうだねぇ。でも、売上ってのは少しずつ伸ばしていくのがいいんだよ。世の中ってさ、やっぱりバランスなんだよね。『ゼロから始めて翌月に百万円の売り上げ!』みたいな売り上げのたつビジネスもあることはあると思うんだけど、結局それって流行り廃りがあるような話だったりするんだよ。時代の流行っていうのに乗れれば、ドカンと一気に売上を上げるなんてこともできるんだけど、その時代の流行はパタっと終わってしまうことがあるわけ。だから流行なんだけどさ。そうすると先月は百万円、でも今月はゼロ…とか、下手すると振り子が逆に触れるようにマイナス百万円!なんて事になったりもするんだよ。だから、慌てずにじっくりと売上の規模を育てていく…そんなイメージの方がいいんだよ。」

「そうかぁ、じっくりですね。」

「うん。でも、もちろん売上を伸ばしていく努力はし続ける必要はあるので、ちょっと販路を増やすなんてことをやってみようか。」

「販路を増やす?」

「そう、今のネットショップ以外でも売ってみるって事。」

「たとえば、Amazonとかでも売ってみるって事ですか?」

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