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純資産が分からない経営者たち

「純資産」というのは、経営者にとって非常に重要な数値だ。
経営者でなくとも「純資産」という単語から、誰でも重要なことは分かるはず。
しかし、嘘みたいな話だが、自社の純資産金額が分かっていない経営者は意外と多い。
今回はこの辺りのことについて書き綴っていく。

資産と純資産の違い

乱雑に説明すると、資産は会社が持つ全ての財産のこと。
これに対して、純資産は [ 資産-負債 ] という計算式で表す。
[ 負債 + 純資産 = 資産 ] と表しても同じことだ。

もっと乱雑にしてしまうと [ 全財産 - 借金 = 純資産 ] と言うことだ。

――― なぜそれが分からないのか?

以後、この不思議な現実を解き明かしていく。

純資産を見失う理由

まず、会社を経営していると「融資」を受けることがある。
当然、「返済」をしていく必要がある。
これだけなら、単純なことに思える。

しかし、実際には「複数の融資」を受けることがある。
そうなると「複数の返済」が並走することになる。
これが経営者を麻痺らせて、純資産への意識が飛んでしまう。

麻痺した経営者は、現金主義になる。
毎月の売上(利益)と返済額の数値に意識が集中して行く。
キャッシュフローにばかり目が行って、純資産のことを忘れてしまう。

――― これで純資産を見失う経営者の出来上がりだ。

たしかに、会社を経営する上で最も重要なのはキャッシュフローだ。
支払いができない事態にさえならなければ、どれだけ借金をしても会社は倒産しない。
どれだけ高額な役員報酬をとっても、倒産はしない。

しかし、問題はいろいろとある。

純資産の重要性

純資産の中にはいろいろな項目がある。
私が個人的に最も重要だと思うのが「利益余剰金」だ。

これもまた乱雑に説明してしまえば「会社の累計利益」ということになる。
だから、私は「利益余剰金」が経営の成績の根本を表す数値だと思っている。

利益余剰金は、内部留保と密接な関係がある。
というか、利益余剰金から内部留保は生まれる。
だから、利益余剰金が増えない限り、会社の自己資金が増えることはない。

――― 利益は最小に抑えて、必要な金は銀行に借りる。

こんなことを勧める経営者や税理士もいるが、私はそれに異論がある。
「ある程度の内部留保」が貯まるまでは、役員報酬や節税対策への投資を抑えるべきだ。
ある程度の税金を払ってでも、現金を持ち越し、内部留保へ回すべきだと思っている。

内部留保のデメリット

内部留保のメリットは説明するまでもない。
しかし、内部留保にはデメリットもある。

その最もたるものが「相続税」というもの。
内部留保の源は、利益余剰金であり、純資産だ。
純資産が多いということは、相続する時の相続税が高くなる。
その最高税率は55%だ。

だから「会社に金を残しても意味が無い」と言う人がいる。
しかし、これは極論に過ぎない。
「ある程度の内部留保」が重要であることに変わりはない。
決して「内部留保がない」という経営を続けても良いという理由にはならない。

私も「ある程度の内部留保」を確保したら、役員報酬、節税商品など、自由にしたら良いと思う。
しかし、極論を宗教的に崇拝している経営者を見ると、残念な気持ちになる。

そもそも、そんな残念な経営者は、相続税を気にするほどの利益を出していないように思える。
例えば、1億くらいなら、退職金として消化できる。
仕事を辞めた後も幽霊会社として存続させ、少しずつ消化するのも良い。
会社を売却して2割の税率で済む可能性もある。

正直、よほど生き急いで事業を拡大する人でない限り、内部留保は優先すべき項目だ。

真の資産は決算書外にある

今回は「純資産」というテーマで書き綴ってきた。
しかし、実は「純資産」と現実の「真の資産」は違う。

例えば、資産には現金以外のものも含まれる。
これが数値通りの価格で売却し、現金化できる保証はどこにもない。
ルールに沿って、数値化されただけのものだ。

簡単に説明すると、2000万で買った不動産が2000万で売れる保証はないということ。
特に建物は数値と感覚のズレが大きい。
1000万の価値があると計算された建物が1000万で売れる可能性はかなり低い。
むしろ、撤去するなら解体費が掛かることになる。

自社のこういったことを全て把握するのは難しい。
そのため「決算書」というものが重要になる。
事業がある程度の規模になり、複雑化したら、最低限「決算書」を読めるようになること。

そして、さらに重要なことは「決算書外」の項目を考えることができるようになること。
決算書はルールに従って算出された参考値でしかない。

例えば、数値化されない資産もある。
社内で働く人。
定期的な売上をくれる顧客。
開発中の商品にも価値はあるはずだ。

このレベルまで来ると、税理士にも計算はできない。
つまり、本来、経営者が知る必要がある「真の資産」は、誰も教えてくれない。

――― 知りたいなら、勉強すること。

残念ながら、これしかない。


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