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【倒産エピソード】10年生存できない会社の経営者たち

10年間生存する会社は26%だとか、1割以下だとかいろいろ言われている。
20年以上経営者をやっている私の体感としては、フリーランスや個人事業主を含めると10年生存率は多くて1割だと感じている。

経営者仲間が廃業や倒産をしていくのは、とても辛い。
明日は我が身。
身が引き締まる想いになる。

つい先日も1件、取引先が倒産した。
手付金として支払っていた費用は、返ってこなかった。
こういう時は、清算代理人として弁護士から電話が掛かってくるのだが、過去に清算が終わって1円でもお金が返ってきたことはない。
こんな時、経営者に成りたての頃は、腹の中が煮えくり返って怒っていたものだが、経営が長くなれば随分慣れる。
先日のケースでは、清算代理人の弁護士を通して「大変だと思うけど頑張って!」と倒産した企業の経営者へ伝えてもらうようお願いした。
一度は一緒に戦った仲間だ。
失った金より、彼を失ったことの方が痛い。

さて、ここからは私が出会った倒産エピソードの一部を書き綴っていく。

学習塾コンシェルジュを名乗っていた20代男性の話

20年ほど前、私も独立開業したばかりの頃。
同じく独立開業したばかりの20代男性と出会った。
彼は、自社のビジネスを学習塾コンシェルジュと名乗っていた。

ビジネスモデルとしては、各個人に合う学習塾を提案することで報酬を得るというもの。
本人は自信満々のようであったが、私にはどう足掻いても採算が合う事業とは思えなかった。
BtoC、つまり個人相手の商売は難しい。
学習塾の提案に対して、事業収支が成り立つレベルの報酬を個人からもらえるような気がしなかった。

BtoB、つまり企業相手の商売に変えたとしても、学習塾へ生徒を紹介するエージェントとして、学習塾から報酬をもらうビジネスモデルが簡単に成り立つとは思えない。

案の定、1年も経たずに廃業してしまった。
取引をしていたわけではないので、私の会社は無傷だ。
しかし、これが私の最初の倒産エピソードとして深く記憶に残っている。

マッサージ店のFC本部を運営していた30代男性の話

出会った時、彼は2店舗のマッサージ店を直営していた。
そして、ちょうど3店舗目の店舗のオープン準備をしていた。
マッサージ店のFC化も進めていて、忙しそうにしていた。

その彼の会社と私の会社は取引をした。
合計360万の契約し、前受け金として60万をもらった。
商品が完成し、無事に納品し、300万の請求をした。
が、しかし、なんと彼の会社は倒産した。
私の会社は300万を回収できなくなった。

どうやら彼は、FCの加盟金を使って自転車操業のように資金繰りをしていたらしい。
しかし、FC本部としての能力がまだ未熟で、FCオーナーと揉めまくっていた。
裁判も抱えていた。
そんなFCに新たに加入するFCオーナーはおらず、加盟金が入らなくなった。
そして、加盟金を燃料に自転車操業をしていた会社は倒産した。

これが私が初めて未回収金に苦しんだ倒産エピソードだ。
当時20代の私にとって、300万は大きかった。
忘れもしない倒産エピソードだ。

ちなみに、彼は会社は閉めた後、同じ名前のマッサージ店を再び始めていた。
店舗名が同じであっても、倒産した会社とは別会社が運営する店舗なので、私はその会社に未回収金を請求できない。
法律と人間の恐ろしさを学んだ。

学習塾・英会話スクールを経営していた30代男性の話

彼は学習塾、英会話スクールなどを複数店舗運営していた。
それほど大きい店舗ではないが評判はそれなりに良かったようだった。
私が彼と出会ったのは、某経営者団体に彼が入会してきたからだ。

彼は、その某経営者団体が甚く気に入った。
それ自体は悪いことではないのだが、その団体の中でも特に金を浪費するのが好きな派閥の連中と仲が良くなった。
それが運の尽きだったのかもしれない。
本来自分が自由に使える金の範疇を超えて、その派閥の連中と同じ気分になって金を使い始めた。

その後は早い。
2年ほどで悪い評判が立つようになった。
生徒から現金で徴収した月謝袋の金を抜いていくこともあったらしい。
アルバイトに給料未払いとの噂が流れたすぐ後、倒産した。

ちなみに、彼はその後、外国人を多用する製造業の会社へ就職し、通訳や英語のマニュアルなどをつくっているらしい。

IT企業を経営していた40代男性の話

彼と出会った時、彼は自信に満ちており、若干横柄な態度にすら感じた。
特に携帯電話用のシステム(当時はガラケー)が売れており、事業も順調だと言っていた。
夜な夜な後輩を宴席へ連れていき、気前よく奢っていたと聞いている。

しかし、数年もするとIT業界の事情はすぐに変わってしまう。
今まで売れていたものが売れなくなった。
だからと言って、新しい商品を開発したという話も聞かなかった。

その後は、何だかよく分からない怪しげな商品を代理店として扱ってみたり、マルチ商法を採用した商品を扱ってみたりといろいろ試したようだ。
しかし、その甲斐もなく、間もなく倒産した。

ちなみに、彼はその後、幅広く事業を展開する会社へ就職し、何やら情報部門っぽい働き方をしている。

某商工団体をやめて健康食品販売をはじめた40代男性の話

彼は出会った時、某商工団体の職員として働いていた。
経営を指導するという役職についており、会社を始めたばかりの私に随分と崇高な言葉を上から降らせていた。

しかし、上司とウマが合わなかったようで退職。
その後、ネットで健康食品を販売する事業をスタートさせたとDMが届いた。

さらにその後、商品を売るためのコツを私に聞きに来た。
広告費を掛けずして商品を売るための手法という、これまた崇高なテクニックをお求めだった。
残念ながら、私が ”無償” で元経営指導員様にご教授できることはなかった。

それから随分経って、次に彼と合ったのは、某FCうどん屋だった。
オープンキッチンの中で必死に麺を裁いていた。

10年生存できない会社の経営者の特徴

前記の他にも、多くの倒産エピソードがある。
というか、ほとんどの会社とその経営者は消えていった。
そこから、10年生存できない会社の経営者の特徴が分かってきた。

まず「体裁を気にする」ということ。
泥臭い営業なんてしない。
恥をかくことを極度に嫌がる。
必要以上に表面をキレイに整えることに必死になる。
背伸びして高級品に手を出す。

次に「役職が大好き」ということ。
いろいろな団体へ所属し、役職を欲しがる。
団体への貢献はせず、役職だけを楽しむ。
やがて役職に溺れ、自分の会社を放置する。
従業員はあきれて、会社へ貢献しなくなる。

あと「人に投資をしない」ということ。
自分を勉強させるために金と時間を出さない。
従業員の教育に金と時間を出さない。
自社商品のクオリティUPのために金と時間を使わない。
外注先が利益を出す金額を許さない。
しかし、なぜか高級車は買ってしまう。

最後に「心が弱い」ということ。
嫌な決断から逃げる。
人のせいにする。
社会のせいにする。
追い込まれても火事場のクソ力を出さない。

こんな人たちは、すぐに会社を倒産させる。
上手くいっても一発屋止まりだ。
経営を10年続けるのに特別な才能と特殊な能力は必要ないが強いメンタルと人柄を重視するマインドセットは重要だ。

番外編:外注先が倒産して困ったケース

外注先に倒産されると非常に困る。

例えば、Webサイト制作業者はよく消える。
連絡が取れなくなり、その業者がつくったWebサイトに修正や更新を掛けることができなくなる。
ゼロから他の業者へ制作を依頼するとその分のコストが掛かる。
ゼロから打ち合わせして、意思疎通を固くしていくのにはコストも時間も掛かる。

サーバ業者が廃業した時も困った。
そのサーバを使って提供しているサービスが止まってしまう。
そのサービスが止まったら、売上へ多大な影響を与えてしまう。
半年前に廃業の通知をしてくれたのが唯一の救いだ。
10年以上、増築・改築を続けてきたサーバとその周りの仕組みをゼロから再びつくりなおさなければいけない。
この件は、かなり胃が痛くなった。
同じ痛みを再び食らったら立ち直れないと感じ、自社でサーバを構築・運営・管理することにした。
本当に重要なものは、外注に頼ってはいけないと学んだ。


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