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The Adventure of the Witanhurst Ghost by Peter Swanson よむよむ

*The Christmas GuestとEvery Vow You Breakのネタバレが少しあります。何も情報なしで読みたい人はお読みにならないでください。

Sherlock Holmes:A Detectives Life (2022年)という短編集に収められている、スワンソンが書いたホームズ話!です。オーマジュとかでもなんでもなく、どストレートにホームズとワトソンの謎解きです。出版社はロンドンのタイタン・ブックス。編者はマーティン・ローゼンストック(日本では訳されていない方みたいだ)。スワンソン含め十三名のシャーロキアンの作家が、ワトソンがこれまで発表していなかったホームズのお話、という体で短編ミステリを寄稿しています。

一目で職業を当てるくだりもあったり、美しい女性に弱いワトソンくんも描かれていて、よかった。始まり方もめちゃくちゃかっこいいです。形式美というのか、読んでると安心する。人の心の中にどうしてこういう心があるんだろうな?つまり時代劇とか火曜サスペンス(まだあるのだろうか)で安心するあの気持ちです。

シャーロキアンじゃないので、たぶんこのトリックは何かのオマージュなんだろうけど、まだ思いつかない。見たことあるような気がするけど、なんだろう(あれ?これはもしかしてミルンのにも似ているといえば似ている)ホームズ・シリーズは新潮文庫で出てるの、だいたい昔読んだはずだがほとんど思い出せない。装丁がやたらかっこいいですよね。集めていた。

ホームズとワトソンの今回の依頼人は、美しい女優のモード・キャラダイン。ミス・キャラダインといえば、ミルンの『赤い館』にもミセス・キャラダインが出て来るな(やっと読んだのです)。でも、こっちのお話では、女優なのはルース・ノリスでキャラダインではなかった。

物語の舞台はウィッタンハースト館。モードが一人で住んでいる(日中は使用人が通っている)、赤れんがと白い柱の家で中には演劇で使う大道具や小道具がが置かれていたり、ポスターが貼られていたりするのが特徴だ。彼女が最近出演したという、シェイクスピアの『リア王』の演劇を見たことのある人はきっともっとおもしろいだろうと思う。どうも戯曲って入り込めないんですが、あるいはトレーニングがいるものなのかな。

アーサー・コナン・ドイルは熱烈な帝国主義者であったらしい。それからアガサ・クリスティの作品も、帝国主義はかなり表出している(研究書もあるよね)。とにかく、この働かなくても生きている人たちの生活が、大英帝国の植民地政策(もしかはその前の中世的な身分制度)によって支えられていることを考えると、お話しに「使用人が〜、働かないけど〜、株が〜」と出て来るたびにこの生活なあ…帝国主義、と思うものだ。

ハイスミスの作品だってアフリカ旅行が出て来るけど、アフリカ人のキャラクターがいるわけじゃなかったもんな。とにかく、この方たちのお話は有色人種が背景として出て来ると思う。複雑な心を持ったキャラクターじゃないのだよね。批判的に読むってどういうことかなと思うけど、たとえば自分の中にある帝国主義に照らし合わせるということかもしれないと思う。なぜかっこいいと思うのか。それは歴史的にどうしてかっこいいとされたのか、自分の中にけっこう内在化されているものだなあと思う。ないことにされてるものはなにか、とか。

かっこいい、といえば、そりゃあホームズは常にかっこよく?自信たっぷりの(でも変わり者だよね?)に書かれていると思うんだけど、スワンソン作品の男性はみんな失礼ながらダメダメな(人間的な、というかマッチョタイプではない)人が多いよね。ジョージとかヘンリーとか。

かっこいい人もいるけどかっこいい人はいつも…(自粛)。かっこいい登場人物といえば、まずThe Chrismath Guest のアダム(誰でも惚れさせることが簡単にできる、ちょっとしたプレゼントやキスで)とか『そしてミランダを殺す』のテッド(別荘の部屋はいくらでも作っていいとかいう億万長者)とか Every Vow You Breakのブルース(愛する人の借金は即日で払うし、夢のために仕事をやめたら、両親のビジネスも応援するよとかいう億万長者)とか、スコッティー(寒いと言ったら自分のセーターを脱いで貸してくれる元俳優)とか?かっこいいけど絶対に近づいてはダメな人ばっかりだ。甘い…展開があったとしてもあとですべてひっくり返ってるかも…ロマンティック・ラブ全滅(アイラ・レヴィンの『殺意』のような、 『そしてミランダを殺す』  のリリーの後の思想でもある)。つまり、自分がやすやすとかっこいい、と思うような人及び思想には気をつけろというメッセージがある(のかもしれないよ)。

この本の寄稿している人はスワンソンのほかに、ディレク・ビーランジャー、カーラ・ブラック、エリック・ブラウン、デービッド・スチュアート・デヴィース、スチュアート・ダグラス、アンドリュー・レーン、ジェイムズ・ラブグローブ、デービッド・マルコム、フィリップ・パーサー・ハーランド、ケイヴァン・スコット、エイミー・トーマス。
まだまだ死ぬ前に読む本はたくさんあるみたいだ。

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