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ステップ(東証プライム/9795) 2023/9 Q2決算精査+新たな経営方針

 東証プライム上場(9795)のステップが2023/4/27に23/9期Q2決算を開示しました。また、2023/5/17に「今後の経営方針に関するお知らせ」を開示されました。これに伴い、今期業績予想を修正(利益の下方修正)に至る事となりました。
 決算説明資料がされた本日、一連の状況を確認していきたいと思います。
 なお、当記事に記載している内容は、私の主観により記載されております。従いまして、誤認や事実と反する点が介在する可能性があります。また同社株式の売買を推奨するものではありません。必ずご自身の投資判断に基づき投資行動をとって頂くようお願いします。

1.参考情報

 まずは冒頭で同社に関連する過去の記事を再掲しておきます。
 前回のQ1決算の記事と、昨年12月に開催された株主総会レポート記事になります。株主総会レポート記事は超長文になっています。ご容赦下さい。特に今回は、株主総会の場での対話の様子を受けた対応もあったことから、改めてご覧頂ければと思います。

2.決算の状況

 まずは決算短信上から伺える状況でみておきます。
 PLの状況としては以下の通りです。(株価は決算開示日の終値)
会計基準の変更等の影響も考慮しないとなりませんから、この推移だけで詳細の凹凸などは正確に推し量れませんが、大きなトレンドとして何ら変調もなく堅調という事になろうかと思います。但し、処遇改善等の作用があり、ボトムラインについては伸びが弱くなっているようにみえます。
 短信の中でも記載のある通り、生徒募集の状況も合格実績はもちろん、信頼の蓄積によって益々岩盤な状況が持続しているようにみえます。特にこのQ2期は新年度に入れ替わるタイミングですが、前年比でも増加ペースは続いています。
 一方で教師職を中心とした処遇改善や教育設備の増強などを検討しておりその概要を別途開示するという予告もありました。そもそも、既にインフレ手当の支給やベースアップ等を粛々と進めてきている中でのこの収益を確保出来ていることは秀逸だなと感じています。その上で、この予告にあった通り、更なる予算を超える積極投資投下に振り向ける旨の「新たな経営方針」を掲げるに至りました。予告を経ている辺りも丁寧なIRだなと感じます。

 BSの推移についてもキャッシュが100億に迫るところまで積み上がっており、株主総会の場でも、株主還元を含めた使途明示化を議論してきたところです。その際に、第一に従業員と生徒に振り向けられる事は強調した上で、その先での還元という事は一貫して訴えてきたつもりでした。結果、後述する方針において、その内容を見事に踏まえてくれた開示に至っています。想いが通じ、会社と共にその歩もうとしている方向性に共感が持てる事は、投資の大きな醍醐味だなと感じます。
 まぁそもそも運営として100億ものキャッシュを常に留保しておく必要性にも議論があると思います。ただ、自社が神奈川県に特化しているリスクや今回のコロナ禍における対応等を鑑みて、1年間くらい安定的に運営できるようにという想いからでもあります。確かに有事の際には金融機関からの調達も十分可能と思われますが、そういう外部を当てにするという要素を可能な限り排除しておきたいという事でもあろうかと思います。同社らしい考えだと思います。過去の大震災の際にも1年程度影響を受けた学習塾もあったようで、そういう部分からも1年程度の運転資金という発想があるようですね。

 2023年にはキッズを含めた5校が開校されました。上場後の開校の軌跡は以下のような感じになっていますね。長い年月を経て特に積極的な出校となったこともありましたが、総じてみれば堅実に一歩ずつ歩まれてきたことがわかります。同社が大切にされている「ゆっくり急ぐ」の方針の下に、決して無理をして歪みを生まぬように運営されてきたわけです。

 その他費目別の詳細などは、決算説明資料をみていくと確認出来ますが大きな論点はありません。従来通りでありつつ、特に処遇改善を積極的に進めてこられてきている、ということがよくわかりますね。よい傾向だと思います。とはいえ、全く言及しないのも、あれなので少しだけ取り上げておきたいと思います。

 まず今期の見通しの部分です。

 新たな経営方針に基づく減益の部分は置いておいたとして、生徒数の推移の中で学年毎のバラつきが大きいという点で中2生の伸びが課題と評されています。昨年の中1生は元々生徒募集も相対的に弱かったのですが、その傾向は学年が上がってもあまり変わっていないようです。これで新中1生も伸長が弱いとなると気になる所ではありますが、現状では中2生のみのようですので、まぁあまり気にしなくてよいかもしれません。ただ、単価がもっともあがる来年に生徒数が相対的に伸びが抑制されているとすると、収益面でも合格実績面でも課題になるかもしれませんね。この辺りは、再来年の春には念頭に置いておいてもよいかもしれません。

 次に経過年数区分別の生徒数の動向についてのスライドです。かねてから10年超の区分の教室でも前年より伸長という傾向がありましたが、今回ごく僅かですが減少に転じています。もっともこれまでも伸長といっても僅かだったので誤差なのかもしれませんけどね。ただ、10年超の教室というと、今注力しているエリアというより県央から県西にかけての教室が多いわけです。いわゆる人口減少が顕著なため、マクロな影響を受けている可能性があります。だからこそ、都市圏に進出する横浜・川崎戦略なわけですし、全体として堅調な伸長が今後も期待される事に変わりはありません。となると、この区分別の情報がどこまで有用なのか、何を判断することができるものなのかという所もあるのかもしれません。
 10年超の人口減少エリアは人口シェアで高シェアを維持していればいいわけですから、絶対数の人数の増減に一喜一憂する必要もないわけですし、経営もそこを求めているわけではないと思います。むしろ横浜・川崎戦略をより岩盤なものとする事に邁進しているわけですから、その地域のブランドこそが大事なものです。そういう意味ではこの区分分けも一役を終えているのかもしれませんね。

3.業績予想修正・配当修正

 さて、ここからは2023/5/17に開示のあった、業績予想修正及び配当予想修正についてみていきたいと思います。

 まずは業績予想修正の部分からです。

 売上は若干ですが増加する見込みです。この水準であれば敢えて修正しなくても良かったような気もしますが、生徒募集の状況も堅調という事の表れなのでしょうね。
 そして利益は下方修正です。元々Q2決算短信内に、今後の処遇改善や設備投資についての考えを別途示すとあったように予告はありましたから、相応のコストを投下していくという事だとは思ってましたが、それは方針を示し、来期以降の業績予想に反映されるものだと勝手に思っていました。ですが、敢えて、今期の業績予想を下方修正しての対応となり、びっくりしました。
 何がびっくりかということ、同社の業績予想は実績で若干の差分が出る事はあったとしても、これまでに業績予想の修正に至るような大きな変化はなかったわけですが、ここまでダイナミックな方針変換をしなやかにできるんだ、ということです。そもそも利益の開示基準は30%なので、開示基準にも抵触していないのですけどね。この辺りは配当修正をセットで示す必要があったということなのでしょうが、期中で当初予算を組み替えて丁寧に投資家に向けて理解を促すという姿勢には好感を感じます。しかもその内容は、見事に、生徒本位、社員処遇に資する内容であり、とてもいいわけです。

 確かに一般論として、処遇改善を理由に減益予想や下方修正をする経営への賛否がある事も承知しています。ですが、自分の投資先企業だからというバイアスがあるとはいえ、こういう道をより強固に歩むという意志決定は尊重したいなと思っています。

 配当については、70円に増配です。配当性向は50%となります。

 私が株主総会用に用意していた、質問原稿は以下のようなものです(再掲)。

従業員のベアや新校舎展開など資金使途は引き続き高位であると理解している。そんな中で配当性向3割を目安として様々な状況下でも増配基調を維持されていることに敬意を表したい。一方で、現在の100億弱の潤沢なキャッシュやキャッシュフローが毎年30億程度出せるような状況下であれば、同業他社の平均的な水準(当方の試算)は配当性向も4割程度であり、当社もこの水準の拠出も十分可能ではないかとも思える。金額換算すれば拠出額は現状より3億程度増加となる11億程度と試算でき、現状の財務状況からはフィージビリティもあると考えます。もちろん第一に生徒のため、第二に従業員のために資金を投下していただきたいと思うが、一方でRS付与や持株会の加入で社員株主も多くある中で、配当そのものの享受というだけでなく、資本政策によって当社株式の価値向上にもう一歩踏み込むことで、エンゲージを高められるのではないかと考えるが配当政策への今後の思いを聞かせて頂きたい。

 そして以下のようなスライドも用意しておりました。要するに配当性向を40%程度まで上げてよいんではないですか、ということです。もちろん大前提として生徒のため、社員のために十分な投下をした暁に、という事で伝えていました。

 会社側の回答としては、今回配当50%で応えてくれたということになります。もちろんこの場合の配当拠出額は概ね12億弱ということになりますが、CFからもBSからも何ら問題ない水準です。

 自己株買いなど様々な株主還元の在り方を株主総会閉会後の立ち話に至るまでご提言をしてきたわけですが、今回の意思決定においてそれがどこまで会社側を動かした契機になったかはわかりませんが、しかし、私だけではなく、多くの株主さんがこういう声をあげてきたことが会社側を動かしたひとつのきっかけになったという事であれば、それはとても感慨深いものです。

 単に自分が株主としてこれを享受できるという金銭的なものだけでなく(もちろん、それは大変ありがたいのですが)、持株会等で株式を保有している社員の方からしてみれば、処遇改善に加えて大幅な増配となるとよりそのコミットメントを高める事になりますし、それが生徒さんへ向き合う好循環に繋がるかと思うと、幸せな世界がここに創られるのだなと思うわけです。

 そしてこの配当性向50%は当面の間続けられるということです。少なくても利益率を21%程度に抑えて(抑えるといっても業界としては驚異的な高利益率なのですが)投資を継続していく最中は配当もこの方針を貫くそうです。ですので、今回下方修正した利益率21%水準をベースに、ここから増収分の利益成長分が当面50%で還元されていくということでしょう。
 その上で、再び横浜・川崎へ自己勘定で投資をするとなった頃には利益率は再び25%水準に回帰し、ここで内部留保との兼ね合いを踏まえて配当性向を必要に応じてやや抑制し、しかし成長分+利益率回帰分でEPSが伸びる分で配当は増配基調を維持できるという事なのかなと想像します。いずれにしても、同社の姿勢からして、大きなハードランディングになるような凹凸を作るようなことはしないでしょう。

 そもそも100億という内部留保が常に必要としているのか、そこを超える分を考慮するとより積極還元できるのではないかとか色々なツッコミもありそうです。そしてこの政策によってROEは更に下がり10%を割り込む事が想定されます。この辺りの水準は一般的な資本コストからみても魅力度の観点で危惧される所でもありますから、今後の資本政策にはより関心を持つ必要もありそうですね。

4.さいごに

 やはり考え方があまりにシンプル過ぎるんですが、その当たり前の発想が中々実践できない(することができない)という事なのだとも思います。

 授業の質を徹底的に磨き、その質を落とさずに継続させていくことが最も大切で、だからお金の使いどころは人材と設備、というわけです。業界内で圧倒的な処遇と最新設備でもって、子供達にとっての学力向上が必然となる状況を創っていくということこそが、学習塾に求められるので、そのセオリーに徹底して従っていくのです。
 ありがたいことに、利益率も年々増加し、有報上でも目安として表記されている20%程度の営利率も気が付くと大きく上振れているわけです。そのマージンを漫然と儲けていますと内部留保していくフェーズから、より将来を岩盤なものをとするための投資をより強化するとともに、上場会社として株主還元にも意欲を示したという事だと思います。

 処遇改善をしていく事は環境を整備することです。士気を上げ、働きやすさの整備が進む中で、今後は中長期的にこの整備した環境に、真の高いスキルを持った人材を宿らせる事ができるのかという事が問われてきます。処遇を改善し魅力的な環境とすることは必要条件ではありますが、十分条件ではないと考えます。

 新たに示した方針に基づき、今後も益々頑張って頂きたいですね。
 頑張れ、ステップ!

※(2023/5/25追記)IR照会

 IR照会を通して、その中で私が認識した点についていくつかメモを追記しておきます。あくまで私が印象として受け止めた内容としての記載です。従って事実誤認・齟齬が介在している可能性があります。正確な情報は、IR問い合わせ窓口もございますので、そちらからご自身でお問合せの上、ご確認下さい。

・自己株買いは適切なタイミングで実施したいものの、流動性の観点も踏まえると、慎重に検討しないとならない(同社はプライム形式要件として流動性の観点でぎりぎり充足している状況)。ROEの観点でも長期的な目線での投資が不可避という判断で一時的にやや低下するものの、利益成長を堅実に続ける事で維持・向上させていく事が本筋。

・今回の増配に際して、株主優待の扱いについては議論していない(つまり増配と引き換えに目先で優待廃止を目論んでいるという事はない)。もちろん、中期的には還元の在り方の議論の中で、他社事例のような配当還元に一本化という余地は常にあるかもしれないが、今回の増配方針とのトレードオフするという視点で優待をいじるという事はない様相と受け止め。

・利益率は今後も継続的かつより積極的な投資により、処遇面での教育環境面での圧倒する必要があると認識している。そのため、投資が当面続くという意味合いで、営利率は本来の目安である20%以上である21%程度の状況が続くという表記をしている。当然のことながら、今期、来期のその先ということでいえば、売上成長の牽引により、再び利益率が漸増していく姿を健全に作っていくイメージ。(つまり投資を一過性に留めず、圧倒するレベルにまで改善を行うものの、その間も有報上での目安としている利益率水準は意識して規律を持って対応していく、その暁には生徒さんへの付加価値を最大化する中で、利益率も再度高めて稀有な存在として益々輝いていきたいということですね)

・学年別の凹凸については、その背景等は分析を行っているものの、複合要因もありなかなか特定できない。収益上の影響が出ないように、また基本的には学年が上がる毎に解消していく傾向は過去にもあったので、注視をしながら安定化を図っていく。

・大学受験部門では多くの生徒さんにお待ち頂くという異例の状況が続いている。特にステップ卒業生ですら申し込みの時期によってお待ち頂くような状況は、道義的な面でよろしくない状況なので、校舎拡張等でなんとか工夫をして対応している状況。但しここも結局人材マターになってくるため、そこを補完しつつ、本格対処としては出校も検討していかねばならない。大きな需要がある中で、優先順位をつけつつ、現状の課題の解消と本質的な対処を図っていく必要性がある。

・経過年数の長い校舎の生徒数が前年割れという状況は、やはり人口動態の影響を受けている。この大きなマクロトレンドは変わらないため、よりわかりやすい開示方法は継続検討していきたい。

・投資有価証券の取得については、現預金よりは有利ながら、安全性が高く流動性が担保できる公社債の取得。今後も内部留保を厚くしている実情を踏まえて、趣旨を崩さない大前提を踏まえて一定の運用は継続していく。


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