最終バスにて海岸へ
21時過ぎ、スナックのお姉ちゃんに延々と注がれるアルコールにやられた僕は街の喧騒を離れ、一人で静かな海岸を訪れる決心をした。最終バスに乗り込むと、窓の外に広がる景色が徐々に都市の灯りから暗く静かな風景へと変わっていく。バスの中はほとんどが空席で、乗客は僅かだ。それぞれが自分の思い思いに窓外を眺めたり、スマホを眺めたりしている。
バスはゆっくりと海岸へと近づいていき、海の匂いが漂い始めた頃、何年も前からこの海岸を訪れることは夢見ていたが、いつも何かに邪魔されては実現できなかった。
具体的にはあの震災のせいだ。
しかし今日、この最終バスに乗ることで、ついにその夢を叶える時が来たのだ。
海岸に到着すると、最終バスから降りたのは私一人だけだった。静けさと同時に、強い風が海から吹き付ける。空はすでに星がちりばめられ、波の音だけが静かな夜に響き渡る。砂浜に足を踏み入れると、冷たい砂が裸足に心地よい。目を閉じて深呼吸すると、塩辛い空気が肺を満たす。
こうして、僕は星空の下、海岸線をただひたすらに歩いた。時折、遠くに見える漁船の灯りが孤独感を演出している。この時間、この場所で感じることができる平和と自由は、日常生活では味わえないものだ。最終バスに乗って、ここまで来てよかったと心から思った。
今津波が来たら初めの行方不明者は僕になるだろうなと思い、更に歩を進める。
夜が更けていくにつれて、少しずつ寒さが増してきた。しかし、その寒さもこの特別な夜の一部であると感じ、僕はそれを受け入れた。海からの風、星の光、波の音、これら全てがこの場所の魅力を形成している。
最終的に、僕はこの海岸で何時間も過ごし、鬱屈とした気持ちから解放された。海岸での時間は、僕の何かを変えたようで、それでもそうでもないような気もする。
さてと、どうやって帰ろうかと思い、近くのコンビニで500mlの発泡酒を買い、かなり遠めな家路へとつく。
最終バスにて海岸へという旅は、忘れがたい記憶となり、心の中でいつまでも色褪せることはないだろう。
あの頃は自転車でここを通っていた高校生、今では酒を飲んでフラフラと歩く中年……
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