うらとおもて
夕方、一人きりの部屋の空気はしんとしている。鼻をすする音が部屋中に響きわたる。3コール目で友人の声が聞こえた。聞きなれた声にせきを切ったように涙があふれだした。
自立した女性が好きと言った彼。結婚後も自立して生きたいわたし。考えがぴったりだと思っていた。
『君は僕の結婚相手にふさわしくない。母もそう言ってるし、僕もそう思う』
結婚したら家庭に入り夫を支えるのが女の務めだと、母親に苦い顔をされたという。親の説得は一緒に乗り越えていけばいいと思っていた矢先にふられた。わたしはわんわん泣きながら失恋の悲しみを訴えた。
すぅっと友人の息を吸う音が聞こえる。
「母親に口出しされたくらいで、あなたの良さを欠点にすりかえてしまう人なんて別れて正解だと思う。自立心が強いのはあなたの良さだよ」
はっとした。どうして忘れていたのだろう。自立して生きたいというのは、わたしの良さなのだ。元恋人がなんと言おうと、わたしの良さであることに変わりはないのだ。失恋ですべてを否定されたような気持ちになっていたけれど、それは思い違いだ。失恋は、存在の否定じゃない。求めるものがちがうことが明らかになるだけだ。
「一緒に歩いてくれるか、むしろあなたがぐいぐい引っ張ってくれるのを心地よく思ってくれる人を見つければいいよ」
湯たんぽを抱いてるときのように、おなかのあたりからじんわりと体温が上がる。辛い食べものが、辛いものが苦手な人を喜ばせなくても、辛いもの好きを喜ばせるのと同じで、わたしの長所は、元恋人とその母親にとって短所だったかもしれないけど、だれかにとっては長所になるかもしれない。結婚後も自立して生きたいというわたしの長所を、長所として考えてくれるひとを探せばいい。それだけだ。
すっかり日は暮れた。部屋の空気は、一日の終わりにほっと胸をなでおろすときの、いつも通りの夜の静けさに満ちていた。
📕寺地はるな『彼女が天使でなくなる日』
子どもを育てることの重圧と苦しみを「親」の視点から描いた物語。
親は子を、子は親を、無条件に愛さなければいけないなんて、呪いだ。「親子」を取り巻く呪いを解いていける人になりたいと思った。
返事がはっきりしているところがいい、とかつて麦生は、千尋に言った。いらない。行かない。やりたくない。あいまいな物言いをしないところがわかりやすくて好ましいと。
もうちょっとやわらかいものの言いかたができないの、と社会に出てから注意されてばかりいた千尋の言葉遣いは、麦生の前でのみ美点となる。
🫖カレルチャペック紅茶店 メリークリスマスティー
ディンブラ×ヌワラエリヤ×アップル×キャラメルの香り🍎
クリスマスを心待ちにする子どもたちの気持ちを表現したような、いろいろな香りがする、楽しい紅茶です。ストレートもサイダー出しもとっても美味しいです🎄
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