涙のファーストクラス 2018年ロシアW杯

「旅とサッカーを紡ぐwebマガジン」OWL magazineが始まり、そろそろ1年が経とうとしています。

ところで、旅の乗り物といったら、やはり飛行機ですよね。

僕は人生で一度だけ、ファーストクラスに乗ったことがあります。でも今回は自慢話ではありません。みんなが大好きな不幸の話です。どのように不幸だったのかは読んでいただければわかるかと思います。


・最悪なタイミングでのファーストクラス

それは2018年7月2日、フランクフルトから成田までのフライトでした。
航空会社はルフトハンザ。世界の航空会社トップ10の一つだそうです(何をもって順位をつけているのだろう)。

ところでこの日、サッカー界では何があったか覚えているでしょうか?
そう。ロシアワールドカップ、決勝トーナメント一回戦、日本vsベルギー戦の日でした。

僕はロシアワールドカップを現地観戦しましたが、何とこのベルギー戦の日に帰国するスケジュールだったのです。

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この試合のキックオフは、日本時間で午前3時
そして僕の飛行機のフライト時間は11時間で、日本時間だと1:05フランクフルト発、昼の12:15に羽田空港着の予定でした。試合時間と完全にかぶっています。

日本のサッカーファン全てが固唾をのんで見守ったベルギー戦ですが、僕はファーストクラスの飛行機で泣きながら(嘘)寝ていました。つまりあのベルギー戦を見ていないのです。今回はその時のこと、涙のファーストクラスについての話です。


・ぜんぶ田●が悪い

どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか。
それは悪の黒幕、●嶋会長に全ての原因があります。

ロシアワールドカップは、僕にとっては南アフリカ、ブラジルに続く、3回目のワールドカップ参戦でした。サッカー旅の経験を重ねて手配も慣れてきたので、万全の準備をして臨みました。
本大会の組み合わせ抽選会が2017年の12月に行われ、その日は友達4人で合宿を行いました。合宿の目的は、抽選会の様子をリアルタイムで見守りながら、日本の日程や試合会場が決まった瞬間に飛行機や宿、電車を抑えることです。翌日になると旅行代理店が動き出して宿などが抑えられてしまうので、「組み合わせ抽選会の直後」に予約しないと値段が一気に跳ね上がってしまうのです。

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4人で手分けするとものすごくスムーズに事が運びます。1時間ほどで一通り手配を終えました。時間は確か、深夜2時ごろだったと思います。そして日本代表の健闘を祈るべく、オーパスワンを開けて乾杯しました。どうだ、すごく楽しそうだろう。

僕の準備は万端でした。2018年に入り、日本代表は強化試合ではパッとしない感じはありましたが、本大会までにはそれなりに帳尻を合わせてくるだろうと思っていました。
しかし2018年4月、まさかのハリルホジッチ監督解任。

僕は4月までは「勝っても負けても、ラウンド16までロシアにいる」つもりでした。仮に日本代表が敗退したとしても、その後のワールドカップを楽しもうと思っていたのです。日本の2戦目から4戦目までロシアに滞在する日程で、モスクワ往復の航空券を買いました。試合のチケットもTST4(日本の1戦目から4戦目までを見れるチケット)を買っていました。

まさかの監督交代が起きました。何だそれ、ふざけるな。ジャパンズウェイの重力に魂を引かれた俗物どもが。僕は、「勝っても負けても3戦目で帰る!」と方針を変え、飛行機なども取り直してしまいました。

そして結果は、皆さんもご存知の通りです。日本代表はグループリーグを通過し、ラウンド16に進出しました。


・後悔はしていない、といえば嘘になる

日程を変更したこと自体は、後悔していません。というか冷静に考えてみると元々、2週間以上仕事を休むのは割と無理のある計画でした。もし強行していたら、その後いろいろと支障が出ていたでしょう。変更して良かったと思います。ありがとう田嶋さん(でも早く辞めてほしい)。

その時に「ラウンド16をテレビで見る」ことを一切考慮しない旅程に変更してしまったのが失敗でした。帰国を一日早めていれば……。あの時点ではまさか日本代表が勝ち進むとは思いませんでした。いやサッカーなので、まさかは全然あり得るのですが、「勝ってもこんなの見なくていいや」とひねくれてしまったのです。

初戦のコロンビア戦は出発前で、日本で(テレビで)見ていました。勝ったのは素直に喜びましたが、それでもまだ「開始1分で相手が1人少なくなるなんて、なんてラッキーだったんだ」みたいな冷笑的な態度でロシアに入りました。

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そして2戦目のセネガル戦がやってきます。2度のリードを許しながらも、その度に追いつき、2-2の引き分けでした。日本としては勝ち点を4に伸ばし、十分な結果です。冷めていたはずの自分も、実際現地に行ってあの試合展開を見ると「応援するのもいいものだな」と考えを改めかけました。

日本の同点ゴールが入ると、スタジアムのBGMでウカスカジーの「勝利の笑みを君と」が流れました。ものすごい大音響と、興奮でした。

コロンビア戦から現地にいたサポーターは知っていたのでしょうが、僕は急に聞き覚えのあるイントロが流れてきて驚きました。慣れない土地で知ってる曲が流れると、非常に勇気づけられます。それまでこの曲は、何もいいことのなかったブラジルW杯の記憶と紐づけされていて、浮ついたサポーターどもが歌っていたというイメージがありました。でも今回すっかり逆転して、今ではいい歌だなと思っています。

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3戦目のポーランド戦は0-1で敗戦しながらも、グループリーグ勝ち抜けは決まりました。その試合後も、FIFAが日本の勝ち抜けを祝ってなのか、スタジアムでこの歌がフルコーラスで流れました。途中の歌詞が「どんなに強い相手でもゴールを奪いに行くぞ日本!」みたいな内容(JASRACが何か言ってくるかもしれないので正確な歌詞は引用しない習わし)になっています。0-1で負けているのにゴールを奪いに行かなかった試合の後でこの歌詞も皮肉だなというか、桜井さんもこの歌を作った時にまさかこんなことになると思ってなかっただろうなというか、いろんな想いが湧いてきました。でもいいんです。やや自虐的に、でも勝ち抜けたことは喜んで大声で歌いました。最後に他力本願になったのはよろしくないですが、勝ち抜けのために攻めないことを選んだのは全く批判される筋合いはないと思います。


・悪あがきして手に入れたファーストクラス

さておかげさまで、運命のベルギー戦を前にして、帰国のフライトです。ロストフに行くどころかテレビですら試合を見れません。

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