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父との切ない思い出

私は6歳の頃、七五三に向けて髪を伸ばしていた。
幼稚園の日は、母が髪を結ってくれた。母は髪を結ぶのが得意ではなかったと言うが、写真に映る私はいつも可愛らしい髪型をさせてもらっていたと思う。

その日は休日。父と二人で出掛けることになった。
「今日はお父さんが髪を結ぶよ。」
私の記憶の中では父に髪を結ってもらったのはその日が初めてだった気がする。
どのくらい時間が掛かっただろう。母がやってくれるよりは遥かに長い時間が掛かった。
出来上がったのはお団子結びだった。

「やだ!!こんな変なの!解いて!」

私はいつも、母に三つ編みか二つ結びかポニーテールをしてもらっていた。
生まれて初めて見る髪型に違和感を覚えて、激しく嫌がった。誰かに見られたら恥ずかしい。そう感じたのも覚えている。
父は困ったような、悲しいような顔で髪を解いた。朧げな記憶だが、思い出すたびに胸が苦しくなる。あの日父がしてくれた髪型は、今思えばとても可愛かったのに。

そんな記憶が何個かある。
父が、「これが可愛いんじゃない?」「格好良いんじゃない?」と勧めてくれたものを「そんなの可愛くない!」「格好良くない!」と否定したこと。
例えばバスケットソックスはクルー丈が可愛いと父は言ったが、私は頑なに踝丈のものしか履かなかった。バスケットシューズも、父は私にアシックスのつま先が丸みを帯びた形をしているモデルを勧めたが、私はシャープなモデルの方が格好良いと、父の言うことを聞かなかった。
大人になった今、父に感性が寄ってきたのか幼い頃否定してしまった父の言い分にすごく共感する。今はクルー丈のソックスを好んでよく履くし、つま先が丸くなった靴が可愛くて好きだ。

私が一番大切にしている、特別な日にだけ履くスニーカーをみる度に父もつま先が丸い靴が好きだったなと、思い出す。

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