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自分にあった人生モデルを選ぶべし2(現代の標準・4ステージ型)

自分に与えられた人生の時間が増える!
この長寿化の恩恵を受けるために、大きなスケールで時間の使い方が問われています。それはシニアだけでなく、ミドルやジュニアの時代から考えるべき問題です。
その際、自分の自由な発想を縛っているのが、学び→仕事→引退という「3ステージ型の人生モデル」。人生モデルとは、生き方のロードマップのようなものですが、画一的な人生モデルは無意識に自分の選択の幅を狭めます。まずは、そこから自由になる必要があるようです。

そこで、異なるタイプの人生モデルを紹介していきます。それぞれに独特の時間区分があり、それを参照することは、自分の人生において別の生き方を選択する可能性をもたらしてくれます。

まず、紹介したいのが「4ステージ型」です。齋藤孝さんの「人生四区分」と、五木寛之さんの「四住期」を順に紹介していきます。


齋藤孝さんの「人生4区分」

教育学者の齋藤孝さんは、1960年生まれの62歳。
『人生後半の幸福論』は50代で書いた本ですが、そこでは人生100年時代を見据え、自分の人生と照らし合わせたオリジナル人生論を提唱しています。

人生を4区分する
まず、人生100年を4等分します。
生まれて25歳までが第1期(成育期)。親や社会から庇護を受けて育つ時期です。今は自立が遅く社会人の自覚が備わるのは25 歳くらいからでしょう。

25歳~50歳が第2期(活性期)。重要な働き手となる時期で、多様なキャリア形成で経験や実績を積み上げ社会的な立場も上がっていきます。選択にもよりますが、結婚して子どもを産み育てる時期です。

50歳~75歳が第3期(円熟期(黄金期))。人生の折返し地点で、定年を迎えたり、子どもが独立して孫ができたりして仕事も家庭も節目を迎えます。従来の価値観が重要でなくなり、人生の黄金期(ゴールデンタイム)です。

そして75歳以降が第4期(自由期)。社会人の責務を果たして、この年齢を迎えます。それぞれの価値観のもと余生として自由に過ごす時期です。

第3期は黄金期(ゴールデンタイム)
このように、人生を25年刻みに区分して、その時期のあるべき姿を描いてくれています。その中でも、とりわけ「第3期」の重要性を説いています。

まず齋藤さんは、定年前、定年後という発想から脱却すべきといいます。そして第3期を定年からではなく、50歳からスタートさせると考えます。
すると75歳までの25年間は、第1期、第2期と同じ時間があるわけで、「25年かけて何かをなす!」と思い立てば可能性は大いに広がります。
そのため、自分の意識として「まだ老境に非ず」という意識を持って、75歳までリタイアしない生き方を勧めます。

これまで、人生の黄金期(ゴールデンタイム)は壮年期にあるといわれてきましたが、齋藤さんは第3期こそが黄金期だといいます。
「人生を豊かなものにするため、自分の衰えと上手に付き合いながら、自分の価値観に即した生き方、魂が喜ぶ生き方を目指す」べきといいます。

人生100年時代の新モデルだが少し物足りない?
そして、『人生後半の幸福論』の後半分には、「① 最近感動していますか?」「② 心が動いたことを何かに書きとめていますか?」から始まる50のチェックリストがあり、いかに魂が喜ぶ生き方を実践するか具体的な方法が示されています。

このように、齋藤さんのモデルは、これまでの3ステージ型に代わる人生100年時代の新たな人生モデルといってよいと思います。
しかし、少し物足りないな、と感じるのは私だけでしょうか。
そこに並んでいるのは生き方の工夫といったもので、常識的な大人の教養といった感じです。

人生モデルを参照するのは、時間の使い方に関して、人生を左右するほどの変化をイメージするためです。
そのため、より大胆な時間区分の提案や、それぞれの時期の特徴が示されてもよいのですが、この人生モデルには「How(方法)」が豊富ですが、「Why(目的・理由)」が少ないと感じます。

五木寛之の「四住期」

次に、紹介するのは五木寛之さんの「四住期」です。同じ4ステージ型の人生モデルですが、少し宗教的な色彩を帯びたものです。

「下り方」が問われる超長寿社会
五木さんは、1932年生まれの90歳ですが、以前から様々な人生論を提唱されてきました。
最近は、人生を「山登り」に例えています。50歳までの前半生 が「登山」なら、後半生は「下山」。登りと下りでは見える景色も、心持ちも異なり、下山して初めて山行が完結します。長寿化に伴って「下山」の難易度が高くなり、「下り方」が問われるようになりました。

そこで五木さんはヒンドゥー教の教えである「四住期(アーシュラマ)」の生き方を提案します。
四住期とは、ヒンドゥー教独特の人生観です。人生を4区分して、それぞれの時期に目標と義務を設けています。

「四住期(アーシュラマ)」の生き方
入門式を経てヒンドゥー教徒の一員になると、学びの「学生期」に入ります。現在の修学期間と同様、様々な学びを通じて社会に出るための準備をします。

学生期を終えると結婚して家業に務め、祭祀を司り、大家族を支える「家住期」に入ります。家住期は概ね25~50歳で、人生で最も忙しい時期なのは現在の日本の壮年期と変わりません。

しかし、この後の後半生は、今の日本では考えられない経路をたどります。
家住期を終え、孫の誕生を見届けると、家を離れ独りで荒野や林に住み、質素で禁欲的に暮らす「林住期」に入ります。これは家住期が、最終目標である「解脱」に向けた準備段階と考えられているからです。

その後は、家との関係を絶ち、住まいを捨てて遍歴行者となって放浪し、この世のすべての執着を手放す「遊行期」に至ります。当時は寿命が短く、遊行期を生きられる人のはほんの一部でした。

明るく楽しい孤独を
このように四住期は、後半生の生き方に特徴があり、そこに五木さんは生き方のヒントを見出しています。

一言でいうと、それは「孤独」です。
「四住期」の後半生は、家から離れて独りで暮らします。日本では世間との繋がりが重視されますが、五木さんはそれでも、後半生は孤独でいるべきといいます。
孤独は孤立とは違います。一匹狼ではなく「みんなと一緒にいても一人」と考え、他者との関係を保ちつつ、おもねらない生き方を勧めます。

また、孤独には、家族の世話にならないことが含まれています。今は多世代同居で一家団欒は難しく、早く家族から離れて介護の負担をかけないことが求められます。

さらに、歴史や文化への関心や、目に見えない精神的な世界の探求など人が思索を深め、豊かな感情を醸成するために、孤独の時間が必要といいます。
社会的な責務という荷物を下ろし、独りで過ごす時間は、年齢を重ねた者の特権で、人生を豊かにしてくれるボーナスのようなものです。

このように五木さんは、「孤独=寂しい」と否定的にとらえるのをやめ、「四住期」の生き方が参考に、明るく楽しい孤独を目指しておられます。

直線的な4ステージ型モデル

2つの4ステージ型モデルを紹介しました。どちらも人生を25年刻みに4区分しており、後半生は50歳を節目にしている点が共通しています。

齋藤さんのモデルは、第3期を黄金期(ゴールデンタイム)としてこの期間の充実を唱えているのに対して、五木さんは、後半生を社会から少し距離をおいて孤独を楽しむ新たな生き方を取り入れることを勧めます。いろいろな考え方があるもので参考になります。

ただ、人生モデルはこれだけではありません。
4ステージ型は3ステージ型に比べ時間の使い方に優れていますが、どちらかというと直線的なロードマップを前提にしており、それが自分の考え方に合わないという人もいると思います。

そこで、もう少し幅広く別のタイプの人生モデルを紹介していきたいと思います。次に紹介したいのは「静岡県人生モデル」です。

(丸田一葉)

参考)
『人生のレシピ 人生100年次代の生き方』五木寛之、NHK出版、2022年
『林住期』幻冬舎、五木寛之、2007年
『人生後半の幸福論~50のチェックリストで自分を見直す』齋藤 孝、光文社新書、2018年


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