生徒に教えながら「?」が浮かぶ、”男”と”女”の基準値
スポーツ栄養士×アスレティックトレーナーの後藤優子です。
現在フリーランスで仕事をしていて、そのうちの一つがトレーナー養成専門学校での講師業でスポーツ栄養学を教えています。
スポーツ栄養学の授業では、消費エネルギー量や摂取エネルギー量について学ぶのですが、特に最近教えながら「?」が浮かぶことが多くあります。
こちらの基礎代謝(量)の参考値を表にしたものをご覧ください。
※基礎代謝(量)とは、心身ともに安静な状態の時に生命維持のために消費される必要最小限のエネルギー量のことです。ぼーっと過ごしていても消費される(燃える)カロリーのことだと考えてOK。
基礎代謝量を用いて1日のエネルギー消費量を算出します。
数年前までは何の疑問も持たずに教えていたのですが、ここ1年ぐらいでYouTubeでもLGBTQと言われている方たちの動画を見たり、直近で言えば『ミッドナイトスワン』を観たことが影響して、「そういえばスポーツって”男女”でしかエントリーできないよな」とか、「男性ホルモンまたは女性ホルモンの注射をしている方たちはどちらの数値を使うの?」と、この表をそのまま活用することに疑問を持つようになってきました。
元々、スポーツの”男女”について薄っすらとですが疑問を持ち始めたのは、2009年に南アフリカ代表の陸上選手・セメンヤ選手のことを知ってから。
セメンヤ選手は2009年の世界陸上で金メダルを獲得した際に「女性ではないのでないか」との疑惑を持たれ、検査をしたところ”性分化疾患(DSD)”であることが判明しました。
子宮と卵巣がなく、体内に精巣があったことから(外から見てもわからない)女性として育てられていましたが、通常の女性より3倍以上多いテストステロン(男性ホルモン)の分泌があり、筋骨隆々な体格をしています。
もうこうなってしまっては、男女をはっきりと区別することは不可能です。
そこで、授業中に生徒に投げかけました。
「もし、自分がサポートする選手やお客様にLGBTQと言われる方や性分化疾患の方がいたらどうする?」
突然の投げかけにほとんどの生徒は戸惑っていました。
生徒の中にはもしかしたら該当者がいるかもしれない。
「やめてくれ」と思っていた生徒もいたかもしれない。
ですが、いつか直面するであろうことが大いに想像できたので問うことにしました。
結局、生徒たちからは何の発言も得られませんでした。
ですが、この問いかけをした瞬間、明らかに教室の空気は変わり、前を向いて真剣に話を聞いてくれる人数が増えたように感じました。
そして、「あくまでも私の個人的な意見です」と前置きをしたうえで以下のように伝えました。
まず、お客様や選手から女性ホルモンや男性ホルモンの注射を定期的に打っていること、性分化疾患であることを伝えられたらという前提になりますが、身長や体重などの体格から判断して男性用の数値を使うか女性用の数値を使うかを決めます。どちらともとれない場合は両方の数値で基礎代謝量やエネルギー消費量を算出し、真ん中の値を使います。
すると、生徒から質問があがりました。
「先生!そしたらKABA.ちゃんは”女性”の数値を使いますか?」
鋭い着眼点だと思いました。
彼女は男性として生まれましたが、心は女性。そして、性別適合手術を受け、戸籍も女性へ変更しています。なので、女性向けの数値を使っても何ら問題はありません。
こちらもあくまでも個人的な意見ですが、彼女はわりと体格がいいんですよね。だから、「両方の数値を使うかな」と回答しました。
何が正解かはわからないし、基準を明確にする必要もないかもしれない。
ですが、”男と女”の2つにしか分けられないものは時代とマッチしないなという感覚は持っておく必要があると思います。
近い将来に、スポーツは現状の”男女”とは別のカテゴリが生まれるかもしれませんね。もちろん、あえて現状のままという可能性だってありますが。
こういった問いかけを通して、生徒たちにはあるがままを受け入れるだけでなく、疑問をもって考える時間を作ってほしいなと思うのでした。
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