料理人版M-1の、準決勝進出を決めた「口中調味トムヤムクン」はどう作られたか
いま、料理人版M-1と言われる「CHEF-1グランプリ2023」に挑戦しています。
TETOTETO Inc. の井上豪希さんが過去に出場していたので私も出たい!と挑戦したものの、昨年は書類落ち...。だから今年事務局の方から、書類通過の連絡が来た時は、「私でいいんですか!?」と思わず聞き返してしまいました。
日本全国47都道府県から集結した料理人が腕を競う、CHEF-1グランプリは、2023年1月の1回戦(書類選考)からスタートし、わたしは幸いにも、3回戦まで勝ち進む事ができました。
3回戦は、ジャンル別No.1を決める戦い。
「フレンチ」「イタリアン」「中国料理」「日本料理」「韓国&アジア」「スパニッシュ&中南米」「フードクリエイター」「ジャンルレス・その他」の8ジャンルから、2回戦を勝ち上がった各ジャンル5名で実施します。
私は「フードクリエイター」部門で出場です。
テーマは「海老料理に革命を起こせ」。
書類・2回戦のテーマは共通して、「地元を盛り上げるフェス飯」だったので、ここで初めて「革命」という言葉が出てきました。
実は結論から言うと、今回の戦いで、なんと「フードクリエイター部門No.1」を勝ち取り、準決勝へと進むことができました!!まさか自分が残れるとは思っておらず、名前を呼ばれた後、ずっと頭がほわーっとしていたのを覚えています。
そうした結果につながったのも、料理を組み立てる前に、私はこのテーマにとことん向き合ったから、だと思っています。
「海老料理」に「革命」を起こすって何だろう?
本記事では、テーマと向き合うにあたっての思考と、実際のレシピを公開します。
革命とは? 1. 辞書の表現と、今回の自分での定義
料理は、古くからの歴史の上に成り立っているもので、私含め、人が考えつくアイデアはほとんど過去に、誰かによって確かめられているのではないかと思います。残っていないということは、そんなに美味しくなかったのでしょう。革命なんて、そうそう起きません。
でもそんな中で、革命を起こさねばなりません。まずは、「革命」ということについて考えてみます。
辞書で引くとこう記載されています。
歴史的な記述が多く、そのまま当てはめるのは難しいので、今回私は
【革命=これまでの常識がひっくり返ること】
と定義しました。
ここから場合分けをします。
①世界の常識をひっくり返すアプローチ
②個人の常識をひっくり返すアプローチ
①の場合だと、この3通り。
①-1 誰も見たことのない調理法を開発する
①-2 誰も見たことのない組み合わせを開発する
①-3 誰も見たことのない見た目の料理を作る
今回与えられた期間は1ヶ月弱だったので、①-1 を開発しきるのは難しいと判断しました。
①-2 と、①-3 は、ともすると必然性のない創作料理になってしまう可能性があります。ただの思いつきでは、革命とは言えません。
いきなり世界の常識をひっくり返すアプローチでは考えが深まらなかったので、「②個人の常識をひっくり返すアプローチ」にフォーカスして考えることにしました。
今回は審査形式なので、個人=審査員さんの常識をひっくり返せば、②のアプローチが成立して、きっと評価してもらえます。
それは一方で、「審査員さんの常識外」であるならば、自分は慣れ親しんだアプローチでも構わないということです(世界をひっくり返すには、自分も含まれるので、①と②のアプローチは、そこに大きな違いがあります)。
革命とは? 2. 自分の強い分野と、他ジャンルの常識を分析する
また、戦い方を検討する上で、他の料理人より自分が強い部分は何だろうと考えました。そこで活用したいと思ったのが、「日本酒ペアリング」。私はこの2年弱、日本酒ペアリングにとことん向き合ってきました。
特に、「相性のよいおつまみ」を越えた、「お酒と料理が合わさることで生まれる新たな味」を引き出すことに注力して研究を重ねてきました。
日本酒ペアリングだけは、2023年のシェフワンに挑戦している料理人の中で、誰にも負けないだろうという自信を持てる、唯一の分野でした。
一方、今回の審査員の方々は、「フレンチ」16年連続でミシュラン三つ星「ジョエル・ロブション」総料理長の関谷シェフ、「イタリアン」日本人として初めて、イタリア版ミシュランで星を獲得の「リストランテ・イ・ルンガ」堀江シェフです。
(料理人としては、こんなに素晴らしいシェフの方々に自分の料理を食べてもらえること自体が感無量なのです…)
言わずもがな、ワインに造詣が深いでしょう。
ワインでも、日本酒でも、「料理とお酒のペアリング」は行われますが、そこには大きな違いがあります。
ワインのペアリングは、口の中の料理がなくなった後にワインを口に注ぎ入れます。日本酒は、口に料理があるうちにお酒を流し入れます。
これは、国による文化の違いです。欧米では、口の中で異なるものを混ぜるのは行儀が悪いとされています。一方、日本人は小さい頃から、白米におかずを乗せて一緒に食べることが一般的です。
だから、料理とお酒を口の中で混ぜることにも抵抗がありません。
私は日本酒ペアリングに向き合っていて、そういうことに特化しているシェフたちの料理を食べたことがあり、自分でレシピもたくさん生み出しています。かなりたくさん試しているので、成功体験も、失敗のストックもたくさんあります。
けれどもフレンチとイタリアンの料理人の方は、日本酒ペアリングの体験はないかもしれないし、ましてやワインに関する造詣が深ければ深いほど、お酒と料理を口の中で混ぜるなんて、言語道断だと考えるのではないか。
この方向性でちゃんと美味しいものを作ることができれば、食べた方の中で、革命が起きるはずです。
「どんな革命を起こしたいか」の筋書きができたので、後は、あっと驚かせ、納得させられる味を作り上げるだけ。
「海老料理」に着目
次に、「海老料理」という部分に着目しました。
「海老料理」というからには、蟹や白身魚でも成り立つ料理ではなく、海老だからこそ成り立つものにしたいです。
また、料理人の特性かもしれませんが、食べたものの材料、作り方は、過去に1度でも触れたことがある食材・調理法であれば、おおよそ頭の中で紐解けます。
初めて食べる味でも、ジャンルや国を越えてあの味に似ているなぁと似たものを探し、この人はこういう思考でこの組み合わせに辿り着いたのかな、とアタリをつけるでしょう。
(他の人はどうか分かりませんが、私は何を食べるときでも無意識にそうしてしまいます)
それならば逆に、「誰もが知っている味」かつ、「絶対に海老が必要な料理」を、「初めて体験する方法で味わえたら?」。
そこで、世界三大スープにもあげられる、「トムヤムクン」を作ることにしました。
トムヤムクンが大好きなのですが、「海老」自体がおいしいトムヤムクンって少ないよな、と思ったのも、今回題材として選んだ一つです。
大きな革命ポイントにはなりにくいけれど、海老がおいしいトムヤムクンって、嬉しいちょっとした革命ですよね。
私は、「日本酒ペアリング」の手法を用いて、口の中で料理と日本酒が合わさったときに誰もが知っている「トムヤムクン」(おまけに海老もおいしい)が生まれる料理を作ることにしました。
トムヤムクンを作るにあたって、その魅力や印象を探るべく、数件食べ歩きました。その中で改めて感じた、トムヤムクンらしいと認知するポイントは、「酸味」「辛み」「ハーブ(バイマックルー、レモングラス、パクチー、ココナッツ)の香り」。
それではここからは、具体的なレシピです。
口中調味トムヤムクンのレシピ 1. 材料
口中調味トムヤムクン 2. 作り方
1.海老の殻を剥き、背ワタを取り、背開きにする。脱水シートに包み、真空パックして、42度で15分加熱する。加熱が終わったら氷水で軽く冷やす。
今回チョイスしたのは、ニューカレドニア産の「天使の海老」。元々は国産の海老を使おうかと思い、数種類取り寄せて試したのですが、試した結果、トムヤムクンの風味に負けない「旨みの強さ」「プリッとした食感」が最も強かった、天使の海老を使用しました。
42度で15分の加熱では、火はほとんど通りません。様々な温度帯・時間で実験をしてみた結果、生の食感は残しながら、脱水を早めてプリッとした食感と生臭さが減少できると感じたので、この調理法を適用しました。
2.レモングラス1本分を輪切りに、バイマックルーを適当な大きさに千切り、鷹の爪は種を取り除いておく。日本酒にレモングラス、バイマックルー、鷹の爪を加え、42度で10分間加熱、そこから90度まで上げながら加熱する。
今回は、Tsuchida 99という、群馬県の土田酒造さんのお酒を使いました。
製法について語り出すとキリがないのですが、普通の日本酒からは想像しにくいくらい、「甘くて」「酸っぱくて」「濃厚」。でも不思議なことに、後味は「軽い」お酒です。
このお酒で、トムヤムクンのスープの「酸味」「甘味」を表現しようと思いました。
また、日本酒を熱燗にすることで、料理と合わさったときに、海老に絡めたタレや、混ぜ込んだパクチーの香りが溶け出し、口の中でスープが完成する仕立てを企みました。
日本酒に漬け込んだハーブの要素は、元々、お酒と料理のどちらに持たせるか迷ったのですが、料理人としてはお酒を単体で出すよりも、お酒自体も調理したいと考えて、お酒にハーブの香りを移しました。
普通の日本酒は90℃まで温度を上げるなんで言語道断で、苦味や渋みが出てしまいます。でも、提供するまで温かさを保つには、このくらいまで上げたいです。そこに耐えうるお酒であった、というのも一つのポイントです。
でも、大会が終わった後に熱燗のプロ、熱燗DJつけたろうさんに試食してもらったら、お酒の苦味が出てしまっているとのこと。少しの苦味自体もアクセントになっていたので、「料理のソース」と考えるならば成功ですが、日本酒を美味しく味わってもらうという視点で考えると、少し失敗です。これは今後の成長ポイントだと思いました。
3.Aの材料をミキサーに入れ、撹拌する。
かんずりを加えたのは、日本酒と料理を繋ぐポイントの一つ。
4.パクチーを葉と茎に分け、葉は粗みじんにして米油をまぶし、茎はみじん切りにする。
5.氷水で冷やして置いたミニトマトを薄切りにする。
冷やしてパリッとさせた方が、薄く切りやすいため。
6.海老を食べやすい大きさに切り、④のタレを適量加え、混ぜ合わせる。
7.皿の上で、セルクルを使って海老とパクチーの茎が層になるように成形する。上にミニトマトを敷き詰める。パクチーの葉を飾り、レモンの皮を削る。
盛り付けは、ギリギリまで悩んだ部分。もう少しアップデートできるかも。
すぐ提供できる場面なら、生春巻きみたいにするのも良いかも。
8.ビーカーにレモングラスをさし、②を濾しながら注ぐ。料理の皿の上に乗せて完成。
最初に料理を食べ、口に料理が入っているうちに、温かいお酒を流し入れてもらいます。
結果
革命、起こりました!!!素晴らしい料理人のみなさんと戦った末、無事に準決勝へ進出することができました。
海老にもっと調理をほどこせたのではないか、とか、盛り付けとか、熱燗の加熱方法とか。まだまだ改善点はありますが、それは今後の成長の可能性として。
若い人の酒離れなどもある中で、日本酒も消費量が減ってしまっている産業です。でも、古くから日本で作り継がれている誇りの分野。
この戦いを通して、少しでも日本酒ペアリングって面白いかも!と思う方がいたらなにより嬉しい革命だな、と思います。
10/15(日)午後1時55分〜 テレビ朝日系列の地上波で、3回戦のダイジェスト版が放送されます。
また、3回戦の詳細の様子はTVerで公開中です。
ぜひ見てみてください!
また、今回の料理をよりアップデートしたものを提供するPOP UPレストランを企画しています。
Instagramからお知らせするので、フォローしていただけると嬉しいです。
ふだん、私は複数の企業と、食品の商品開発、レシピ開発、ケータリングを行っています。レシピ部分はもちろんのこと、届けるまでのロジックの設計や、工場で理想の味を実現するための調整など、商品を完成させるために必要な付随する部分までできるのが、私の強みです。
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さて、次は準決勝。各ジャンルのTOP8が集まり、しのぎを削ります。頑張ります。
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