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巨乳のタートルネック戦線

はじめまして。 山道あられ と申します。

今日は、わたしがとある男性から 

“ お前の存在価値など、デカい乳しかない”

といわれた、ハートフルなお話をしようと思います。

***

 寒さも本格的になってきた、12月のとある昼下がり。仲の良い会社の同僚と、いつものようにランチに出かけました。

同僚は、身なりのきちんとしたギャル。きれいに巻かれた茶髪が映える真っ青のモヘアセータに黒いスカート、ショートブーツ。
わたしは赤いタートルネックを紺色のスカートにインして、ショートブーツ。信号カラーの双子コーデだね、なんて2人で笑いました。

仕事の話。人間関係の話。恋の話。将来の話。パスタをフォークにくるくる巻きつけながら、くるくる変わる女子のおしゃべり。たのしい。おいしい。

 そんなとき、同じお店で食事をしていた男性がスッと近寄ってきて、「もしよかったら連絡ください。とてもすてきだなと思って」とわたしにメモを渡し、去っていきました。10cm×2cmほどの小さなメモには、走り書きで、名前とLINEのIDが書かれていました。

「やまもとしょうた(仮名)です! LINE:XXXX00」

残されたのは、とっさにメモを受け取ってしまったわたし。

「えーこんなことあるんだね!ねえねえ、どうするの??せっかくだし、ご飯くらい行ってみたら?優しそうな人だったし」

思いもよらない場所で、連絡先を渡される。そういった経験は、今までにも何度か。駅、本屋さん、献血ルームなんて、思わぬ場所で。でも、まあ正直下心しかなさそうだしこわいし。実際に連絡をしたことはありませんでした。

でも今回は、大きな目をキラキラさせるかわいい同僚に背中を押され、好奇心に負けて「まぁ、それもいいかもね。」とうなずき、連絡をとってみることにしたのです。

 あ、そうそう。チラッとだけ見た男性は、同僚が言うように物腰が柔らかくやさしそうで、同年代くらいの、塩顔の人という第一印象でした。

***

 さて、それから数日後の同じく昼下がり。わたしは「やまもとさん」とJR中央線の某駅で待ち合わせをしていました。わたしはピンクのアイシャドウをひき、紺色のタートルネック、チェックのロングスカート、ショートブーツにチェスターコート。冬のわりとお気に入りコーデです。

しばらくしてやってきたスーツ姿のやまもとさんと合流し、連れられたイタリアン。「今日はきてくれてありがとう」からはじまる、はじめましての会話。

年齢、仕事、大学、ペット、趣味、仕事、大学。会話はあっちにこっちに、いったりきたり。なかなか上手く巻けないパスタは、フォークからするするほどけて、おいしいけど、おいしくない。

2時間後、へとへとになりながら、ようやくお別れの時間になりました。

「ラインするけど、無理に返さなくていいからね」という改札際の別れの言葉をわざと真に受けて、失礼を承知で、別れてから一度もメッセージを開きませんでした。

 また行きましょうの挨拶も、その後も送られてくるおはよーのスタンプも。すべて未読にしていました。『自分のなかの違和感を大切にすべし』。数少ないわたしのなかのマイルールと、協議した結果です。

こうして、早くもわたしのなかで過去の思い出となったランチから、2日後の早朝。やまもとさんから、長い長いラインが入っていました。

***

転記するのは野暮なので、概要をまとめるとこんな感じ。

“そのデカい乳以外を好きになってくれる彼氏ができるといいな。俺はお前を端から性の対象としか思っていなかった。胸が大きい女は、男にヤリマンとしか思われないし、いままでもこれからも、大学でも職場でも、おまえは胸しかみられていない。嫌ならタートルネックなんか着てゆらして歩くな。お前は一生男から内面をみられることなどなく、性の対象としかみられない。ご愁傷様。”

 空気が凍っているかのような寒い朝。起きぬけのベットのなかで布団にくるまりながら、通知欄で読める範囲だけ読んだ後、不思議とわたしのなかにあるのは少しの戸惑いだけでした。

ひどい内容だなと思うのに、なぜか心はこの冬の朝のようにしんと静か。
寒さと朝の目覚めで、心が麻痺しているのか…ともぞもぞと起きだし、ミルク多めのコーヒーをいれ、ダイニングチェアに腰を落ち着けて、考えを巡らせました。

さて、こんなときはどうするべきだっけ?…おこる?…かなしむ? 友人に愚痴のラインを送る?あぁでも、やっぱりわたしよく知ってるな、この気持ち。久しぶりだけど、何度も感じたことがある。

かすかな失望と、煩わしさ、諦念。

 推測されるやまもとさんの心境はいたくシンプルで、カモにしようとしていた女にコケにされ、プライドが傷つく。自分がこれ以上傷を負わないように、そもそも自身の傷などなかったことにするために、わたしを攻撃して自分を守る。自己防衛の一環。

メッセージから推測するに、彼のわたしへのイメージは、デカい乳へのチヤホヤを「モテ」と勘違いしながら生きてきた、自分のカモにふさわしい能天気な女だったのでしょう。

***

 わたしの外見は、どうも隙があるように見えるらしく、小中学生の頃は幼女趣味の男性に追い掛け回されたことがありましたし、本屋や道端でナニを見せつけてくる方やら、すれ違いざまに写真を撮ってくる人もいました。
高校も大学も社会人になってからも、わたし自身に関心があるふうにして、わたしの乳とだけ会話していく人も山ほどいたのです。

通りすがりに胸に関する野次を飛ばしてくる男性が。酔いを理由に触れようとしてくる人が。ヤマモトさんのような、わたしを性的にしかみない男性がこれまで何人いたことでしょうか。

この世には、道端ですれ違っただけの女に対し、自分の性的欲求をぶつけてもよいと思っている男が山ほどいるです。

ヤマモトさんのメッセージの、そのタイミングと長文に驚きこそすれ、懐かしさをすら感じたのは、それがわたしにとって、最近会っていなかった地元の友人に、偶然道端で再開したような程度のことだからでしょう。

***

さて、ここまでつらつらと体験を上げてきましたが、さりとて別に、男性の存在そのものが嫌いなわけではありません。幸いなことに、周りには尊敬できる男性がいて、比較的ニュートラルに生きていけています。

そして、自己防衛だとしても「男性の性欲が刺激されない格好」をしようとは少しも思わないわたしがいます。胸をつぶし、厚手の服を着こみ、足を出さず、顔を隠したところで、自分の欲求を押さえられない種類の男性がいなくなるわけではないのですから。

さて、今日は東京に雪が降るかもしれないそうです。寒いので、意気揚々とタートルネックを着込みました。あたたかなカシミヤが体にしっくりフィットするグレーの一着。お気に入りです。

デカ乳目当ての彼らが一生ふれることのない、わたしのりっぱなデカい乳を、逃がしも隠しもせず、今日もゆらして歩きます。

グッバイ、やまもとさん。
あなたにいつの日か、愛に満ちた乳のあらんことを。

                                以上


#日記 #熟成下書き #エッセイ

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