【自伝小説】第4話 高校編(1)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島
FIRST LOVE(初恋)
何だかんだあった中学校生活(あり過ぎやっ)、
入試直前に「深夜徘徊」と「無免許運転」で補導されたにも関わらず、奇跡的に県立Y高に入学する事ができたのは、これが初犯であった事と、先生方へのウケが良かった事などが上げられよう。
昔からよくトラブルに巻き込まれてはいたものの、平和主義で揉め事が嫌いだった少年。それを先生方はキチンと見抜いてくれていたのだ。
ただ、そんな先生方への感謝の気持ちも、次第に忘却の彼方へと追いやってしまう辺りが、少年の残念なところであった。
そんな少年が入学後、最初に訪れたのは当然と言えば当然の場所、「空手部」であった。
元々空手道場に通っていた訳ではなかったが、独学で功夫の修業を(かなり濃厚に)積んでいただけあって、空手部でも直ぐに頭角を現した。
初めて出場した県大会の団体戦でも、1年生チームの中で唯一勝利を収め、憧れの先輩方に称賛されたこともあった。
こうして幸先の良いスタートを切った少年だったが、同級生部員から手渡された1冊の漫画本が、彼の人生を一瞬でひっくり返す事となる。
その漫画の冒頭に書かれてあった僅か数行の文字に、少年は一撃で打ちのめされた。
当時、全国の少年だけでなく、大の大人たちをも虜にした大ヒット空手漫画。梶原一騎原作の「空手バカ一代」である。
その日から、彼の頭の中は寝ても覚めても極真一色となり、他の何ものもその隙間を埋める事はできなくなっていた。
そう、まるで初恋のように。
決別
「事実を事実のまま完全に再現することは、いかにおもしろおかしい架空の物語を生み出すよりもはるかに困難である(アーネスト・ヘミングウェイ)」
この一節だけで思春期の少年を虜にするには十分であったが、そのあと、更に追い打ちを掛ける言葉の羅列が続く。
「これは事実談であり、この男は実在する。この男の一代記を読者に伝えたいという一念やみがたいので、アメリカのノーベル賞作家ヘミングウェイのいう困難に、あえて挑戦するしかない。私たちは真剣かつ冷静にこの男を見つめ、そしてその価値を読者に問いたい。(極真会館空手三段・梶原一騎)」
とにかく幼い頃から感化されやすかった少年。千葉真一、李小龍、成龍と、少年の心を鷲掴んだスターは枚挙に暇はないが、所詮それは銀幕の中にだけ存在する架空の人物。
しかし、空手バカ一代の登場人物たちは実在するのだ。これほどまでに興奮したことは過去になかった。
漫画に出てくる実在の空手家同様、こんな自分でも極真さえ学べば強くなれるかも知れない。
そう考えると、もう蛇拳や酔拳をしている場合ではなかった。当然、「笑拳」なんて以ての外だ。
一瞬の気の迷いが勝敗を決する闘争では、如何に相手に心を読ませないかが勝利のカギとなる。
張り詰めるような緊張感の中、いきなり泣いたり笑ったり、挙句の果てに怒りだすなんて言語道断だ。
これを実戦で使ったら蛇拳の失敗どころではない。否、善良な市民によりツーホーされるのがオチだ。
少年はそう思ったが、そんな拳シリーズの中で最もお気に入っていた作品が、この「クレージーモンキー笑拳」であったのは皮肉な話しである。
それからというもの、少年はありとあらゆる情報を駆使して極真空手を身に着ける作業に没頭した。
ただ、そんな極真との出会いにより、必然的に一つの別れが生じる事となる。
空手部・・・つまり伝統空手との決別である。
劇中では、伝統空手や柔道など、他の武道や格闘技を敵対組織として描いており、それらを極真空手家がバッタバッタと倒していく様が痛快に描かれていた。
勿の論、善悪をハッキリと描く事で、より面白さを増幅させる狙いがあっての事だろうが、少年はその全てを信じ切ってしまった。
思春期にありがちな純粋さが故の過ちであったが、その間違いは後々解決する事となる。
それから12年後に彼が立ち上げた極真空手の道場が、発足当初よりその伝統空手と手を取り合い、八重山空手界の発展に貢献している事でもそれは伺えよう。
そう、色々な考え方があり様々な流派が混在しようと、空手は空手であり、親戚だということに気付いたのだ。
ただ、それもまだまだ先の話しである。
こうして「空手バカ一代」に感化された少年は、程なく空手部を退部。主戦場を町道場に移す事となった。
入部から僅か3ヶ月後の事である。
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この記事を書いた人
田福雄市(空手家)
1966年、石垣市平久保生まれ、平得育ち。
八重山高校卒業後、本格的に空手人生を歩みはじめる。
長年に渡り、空手関連の活動を中心に地域社会に貢献。
パワーリフティングの分野でも沖縄県優勝をはじめ、
競技者として多数の入賞経験を持つ。
青少年健全育成のボランティア活動等を通して石垣市、社会福祉協議会、警察署、薬物乱用防止協会などからの受賞歴多数。
八重山郡優秀指導者賞、極真会館沖縄県支部優秀選手賞も受賞。
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