夏の夕暮れ 《詩》
そこに聞こえる声はだれだ?
微かな笑い声
ふと振り返ると、紺の着物を着たあなたがいつの間にか階段に座り、シャボン玉を吹いている
結いあげた髪がほつれているのも気にせずに
わたしはあなたから目が離せない
路地裏を歩くときは気をつけて
わたしはあなたに言い聞かせるが、あなたは一笑に付す
わたしの心配など余計なことのようだ
学校のチャイムが鳴る
そろそろ行くわ
あなたは腰をあげる
じゃあね
留める術をしらないわたしは、だまって見送る
あなたが歩くと道に筋が残る
細いうなじの後れ毛
そうだ、玄関先に水を撒こう
もう日は暮れるけど、真夏の空気は濃く重たい
玄関をくぐると、階段にかんざしが残されていた
もう、すべては遅かった
あなたに恋をしていたのか、夏の陽気に恋をしていたのか
いまとなってはわからない