ビューティフルグッバイ
あの頃の僕らは何も考えず、ただ毎日をなんとなく過ごしていた。僕の家は仲間たちのたまり場になっていて、いつも放課後や休みの日になれば自然とみんな集まった。
とくに部活に入ることもなく学校も気が向けば行く。やりたい時にやりたいことをして、何に縛られもせず、どこまでも自由な日々。
みんなが思春期特有の葛藤や悩みを抱えていて、やりようのない気持ちや焦燥感を寄り添い合うことで、何とか消化していた。
深夜まで続く無意味な会話、コンビニで買ったお菓子を頬張りながら笑い合い、いつも夜明けが近づく頃に眠りについた。
何もかもが自由で、未来なんてものを考えることさえしない。あの頃の僕らは、ただ純粋にその瞬間を生きていた。
* * * * *
彼女は長い黒髪をなびかせながら、みんなに交じってよく無邪気に笑っていた。色白の肌に少し前に出た前歯がチャームポイントの彼女。女優の夏帆に似ている、と誰かが言っていたことを覚えている。
彼女と付き合い始めたのは、お互いが別の相手に失恋した直後だった中3の冬。お互いが失恋の痛みを紛らわせたくて、ただ流れで何となく付き合った。
年齢相応に未熟で幼い彼女は何でもないことに笑い、度々わがままを言った。けれど、その無邪気さが当時の僕には心地よかった。
でも、大学進学が決まった頃、僕たちの道は少しずつ分かれていった。あんなに近かった仲間たちとの距離も、気づけば遠ざかっていた。
ーーー成人を手前にして彼女との関係は終わりを迎えた。別れは僕から切り出した。嫌いになったわけじゃない。ただ、もうそれまでと同じような時間を過ごしていけないと感じた。
* * * * *
あの頃の自由で無邪気だった時間は、もう二度と戻らない。
僕たちが集まっていたあの場所、彼女の笑顔、そして仲間たちと過ごした無為で自由な日々。今思えば、あの時間こそが僕の青春の全てだった。
30歳を迎え、結婚して子供もいる今の生活は幸せだ。それでも、時折あの頃の記憶が胸を締め付ける。彼女との未熟な恋愛や、仲間たちとの何気ない時間。そのすべてが、もう二度と手に入らないものになってしまったことが、どうしようもなく切ない。
ビューティフルグッバイ――その言葉が、胸の中で響く。あの頃の仲間たちとの別れ、彼女との別れ、そして無邪気だった自分との別れ。でも、それは同時にあの頃の日々の美しさを忘れないための言葉でもある。
どれだけ時間が経っても、僕の中で消えることはないだろう―――。
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