夏の風景
柏島へと接続する橋のあたりは現在、海水浴場として有名らしく、観光客で駐車場はごった返していた。
柏島の集落は島東に位置し、地図でみると島面積の6分の1ほどを占めるか。港に面した集落の入口で、正面に出迎える稲荷神社の境内には幾本かのアコウの巨木が広い木陰をつくっている。
アコウは別名締め殺しの木、鳥糞に混じって範囲を広げ、そのうちのどれほどかは別の木の窪みに落ちる。発芽したアコウは地表を目指して気根を伸ばし、やがて根を張るが、こうして成長するうちに着生した木はアコウに包まれ締め上げられて枯死する。一見、寄生植物かと見まがうが支持体となる木から養分はとらないらしい。幾条もの気根はそれ自身絡み合い、筋張っていて筋肉繊維や血管が絡み合っている様を連想させ、いささか不気味でなにか霊魂の宿っているようにさえ思う。時に融接するのだろうか、一度溶けた金属が冷え固まったような液体的印象も見る者に与え、他の植物種ではあまり見かけない異様さを醸し出している。
この稲荷神社のアコウは、いずれも地表で発芽したもののように見える。支持体となる樹木をもつものは大抵その樹高に倣って高く上空へと伸び上がっているものだが、周囲に高木もなく日当たりが良いこともあってか、低くその太い枝を頭上近くの中空にのたくらせ、水平に面積を広げている。葉の茂りのあたりに虫の野太い羽音も聞こえ、ひとつの環境相を形成している。
島の、おそらくは漁業が主な職業かと思われる地区の産土神が稲荷神であるのはなぜなのか、とここへ来るたび思う。
稲荷神社のあたりは島の要衝として、鳥居の前は車を回せるほどの広場となっていてバス停があり、郵便局や商店が並んでいる。それより奥へすすむと民家が並び、車一台が肩を擦るようにしてやっと通れるような路地が張り巡らされている。
しかし、大月町を代表する観光地のひとつとして、観光客が海やのどかな田舎の漁村の景色を味わえるテラス付き宿泊施設もあったりなどして、鄙びと都会的趣向とが混交しており、この辺ではほかではあまり見かけない戦略の景観を呈している。
柏島を出て、道の駅に立ち寄るとそこも観光客でいっぱいだった。ふだんは空いている売店で行列に並んでアイスを買い、ベンチで食べる。
人がごった返す場所のゴミ箱は趣があってよい。
別の日、盆が近くなって地区の盆行事に参加した。
浜というのは放っておくと漂着物でいっぱいになる。台風の影響で多くの流木や容器などがあったらしく、地区の人が処分しているのを見かけた。浜の管理は大変だ。
一説によると、この地方では鰹をたたきにするときには藁でなく流木を利用したというが、現在では漂流物はこうして焚き火にしたり焼却所に運んだりする切りになってしまっただろう。かつての燃料は、迷惑なゴミになってしまったのかもしれないなどと思ったりする。
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