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映画ターミナルのような話し Part3 ④


運命の日

昼をすぎた。
誰からも何の連絡もない。

昼には書類が出来るんじゃなかったのか。。。

あぁあ。

これは今日もダメそうな予感。

少し落ち込んでいると開けたままの部屋のドアをきちんとノックするジョン。

「出られそうかい?」

自分のことも分からないのに私の心配をしてくれる優しいジョン。


「分からないけど、ちょっと無理かも。仕事の件も手が打てたし、待つよ」

笑うと、うんうんと頷いて去っていく。


ハッサンの正体


今日はお昼ご飯がでた。


フライドヌードルかビリヤニのどちらかが選べる贅沢さ。


部屋がカビ臭いこと以外に不快な思いもなく、快適と呼べた。

お昼のプレイヤータイムが終わった頃に、またハッサンが現れた。


サーボーンのおやつを沢山持ってきてくれた。

「マリーのマネージャーから書類は貰ったけど、ガバメントのスタンプがないから再提出だ。早ければ夕方、遅ければ明日の昼までにはここを出られるよ」との事。

マネージャー…あいつめ。

ほんとにドジっ子のマネージャー。

でも憎めない優しさとか明るさとか、そういうのがある人。


「あー。だろうね」とハッサンの説明に驚きもしない自分が憎い。

(あれ? でもなんでハッサンはこんなに情報通なんだろね。)

「ハッサンはなんでそんなに詳しいの?」尋ねると

「あれ?言ってなかったっけ?僕はここのナンバー2だよ」と。

(え? 偉い人じゃん)

急にハッサンが遠くに感じる。(近くもなかったけども)

「あ、そ…そうだったんですねっ、へへへ」急に媚びへつらう。


普通なら冗談言いながら肩を叩けるような人ではない。

「僕が帰ってきたら大丈夫って言ったでしょ」と笑うハッサン。

でも、そう言ってくれてありがたい。
何かわからないけど、私に好意的なハッサンはきっと今後、困った時に頼れそうだと腹黒くなる。

その後、サーボーンをしながら他愛のない話をし、ハッサンが仕事に戻る時に「ナンバー2ならさ、ジョンの写真だけ返してあげたり出来ないのな?」と聞いてみる。

「探してみるよ」と部屋をでる。


新しい名前


シャワーはあるけど体を拭くものがない。
仕方なく、冷房対策で持ち歩いているブランケット(綿)で体を拭き、

また着ていた服を着る。
(下着はちゃんと手洗いしました)

濡れた髪をお団子にまとめると、コーヒーを飲みにリビングへ。

ふと後ろから視線を感じ、見るとジョンがわたしの首の後ろにある古いタトゥーを見ていた。

「Oh! you are マリポッサ!」

訳の分からないことをいう。

まりー?ポッサ?なにそれ?

「Mariposaはスペイン語で蝶と言う意味だよ。君はマリーだからMarrypossaだね。」

(へぇーー。そうなんだねぇ。いいね。マリーポッサ♪ )

新しい名前を貰った。

モルディブで1番初めにお世話になった家族に マリアンと呼ばれた。

それからその近所で※ドン マリアン、ドン マリーと呼ばれた。 

 ドン=白い

今日はまた新しい名前を貰った。
そして凄く気に入った。

夕方、セキュリティと空港スタッフが来て、名前を呼ばれる。
はいはーいと出ていくと、「VISAの許可が降りたからでられる」との事。

急にくるんだね、こういうの。

飲んでいたコーヒーを慌てて片付け、荷物を取りに部屋に戻る。


バングラデシュ人のおじさん達が片手を上げてサヨナラをしてくれた。


みんな頑張れと両手をぐっとしてジェスチャーで答える。


海外のサッカー選手がゴールを決めた後に天に向かってお祈りをする感じのジェスチャーで無事を祈ってくれた。

ジョンが静かに傍に立っていて、「全部持っていかれたから君に渡すものが何も無いけど、これは僕のメールアドレス。」


どこかのアジアの子供たちが笑う写真のポストカードに 短いメッセージとアドレスが書かれていた。


私もカバンの中から名刺をだして、私のアドレスと番号はこれだからね!と渡す。

急にに悲しくなって目が潤む。


「I Really lucky to meet you here. thank you so much.」とハグを交わす。

離れる時に「またどこかで。God breath you」と言ってくれる。

咄嗟に「God breath you too」と伝えた。


娑婆に出る

セキュリティ達はもう腕を掴むことも無く、私を自由に歩かせ、またあのカビ臭い部屋を抜け、入国審査のロビーに出る。


いつものカウンターではなく、別のルートでパスポートにスタンプがおされた。

抜けた。
やっと抜け出せた。

やっと空港から出られる。


手荷物受け取りの奥に仕事中のハッサンの姿があった。


ぴょんぴょん飛んで手を振ると、お!って顔でにこやかに手を振り返す。
Goodのサインをしてまた手を振る。


私もGoodを返して晴れてメインのEXITの扉を開いた。

~完~


後日談

それから数週間後、ジョンからメールが来た。
わたしが出ていった後、ハッサンが家族の写真を持ってきてくれた事への感謝と、今はもう南アフリカの自宅に居ること。
結局、モルディブへは入国出来なかったことが書かれていた。
私との出会いは神からのプレゼントだったと言うメールだった。

モルディブの新聞に「キリスト教を広めようとした男、強制送還」

的なことが書かれていたり、ちょっとだけニュースにもなっていた。

私は翌日からいつものようにヘアメイク出張で空港を行き来し、あの日以来、また「Hi マリー!」と声をかけられることが増えたのでした。

あとがき的なもの

この話は確か2013年頃の出来事です。
この日以来、Marrypossaを名乗ることが増えました。
何故か今でもハッキリ思い出せる2:8の爽やかお兄さん。笑

ハッサンは今でもfacebookなどで繋がっているし、ハッサンのブライダル撮影では奥さんにメイクもしました。
彼はほんとに面白い男です。

先日、アンマドおじさんとの車内での会話の動画を久々に見つけて、Instagramに上げたところ、この話もちゃんと残しておきたくなり、その思い出からその後のハプニングまで描き始めたら、なんとまぁ、長いこと!!
読みづらくてごめんなさい。

人生の記録のようなものなので、軽く読み流して

「Marrypossaってほんと変なやつ」と、時折笑って頂けたら嬉しいです。

それから。

ここまで読んでくださったあなたは勇者です。

あっぱれ!

ありがとうございました。


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