被害者なのに笑いものになった日
インド洋に浮かぶ小さな島国モルディブ共和国でヘアメイクの先生をしていた頃の話
赴任してすぐの、首都マーレ(マレ)にいた頃、
OBの方との懇談会のようなものが開催された。
そこで出た美味しそうな食事に興奮した私と同期は、
地方島にいけば、食事も限られてしまうだろう。。
「食べられるうちに食べておかなきゃ」
OBや現地調整員、モルディブの教育省、青年省、スポーツ省の偉い方達の会話が弾む中、私たちはもぐもぐ食べた。
私ももちろん、ハムスターみたいに詰め込めるだけ口の中いっぱいにして食べていた。
(本当にお腹すいていた)
しかも、美容師なので、食べるのが誰よりも早かった。
※主観だけど、美容師さん達は時間勝負なので、ほんのちょっと空いた時間で食べられる時にガーーーーッと早食いしがち。
あっという間に自分の皿が空になり、今度はたくさんデザート後が並べられた。
…おや?…なんだか…ゴロゴロしだした?。。。
調子に乗りすぎた。
食べすぎて胃腸が怒り出したようだ。
もともと、胃腸が弱いので、すぐさまトイレに駆け込み、一安心して座っていると、ザワザワと私の第六感が何かを察知した。
なんだろう、胸騒ぎのような、腑に落ちないような。
記憶を辿りながら、トイレに入るまでを思い出す。
ドア開けて、「なんで個室に窓あるんやろ?」って思って、用を足して…
と、思いながら上を見ると、窓が開いていた。
私が入った個室は、恐らく男性トイレと隣り合わせで、何故かその仕切られた壁にはね上げ式の小窓があった。
はっっ!!?
さっき、駆け込んだ時は閉まってたよね?
そんなことを考えていると、その開いた窓のヘリに褐色の手がにゅーっとでてきて、コソーッとカールヘアの頭がおでこまででてきた!
え…えぇーーーー?!!
窓から1ミリも目が離せない。
だけど怖くて体が硬直してパンツさえも上げられない!!
tシャツの裾で下半身を隠せるだけ覆って、上半身を前傾するも、そうするとおしりがバッチリ出てしまう。
おしりを隠せば前が…前を隠せばおしりが…
あぁぁぁぁ。
どうしろと言うのか!
究極の2択!
窓から目が離せなくて、でもこれ以上動けない。
(結局真っ直ぐニュートラルにして前後満遍なく隠した。 どちらも半分丸出しだけど)
身体中の血の気も引いてきて、これは色々やばい。
脳内でJAWSのテーマが流れだす。
どうする?どうする?!
と思っていたら、見事?おでこが窓から出産された。
若いモルディブ人男性の頭部がでてきて、その瞬間、
バッチリ目が合ってしまった。
私、下半身まる出しで便座に座ってますねん。
どないせいっちゅうねん。
この状況。
人のう〇こみてなんか得があるんか?
う〇の投げたろか?
この変態窓あたま野郎め!
次第に怒りがフツフツと沸き上がるが、やっぱり怖くて体が動かない。緊張で震え出すほど力が入らず、この状況どうしたもの…と思っていると、
「Hey! What are you doing! ! !」と咄嗟ながらも声が出た。精一杯の大声のつもりだったか、甲高い悲鳴に似た声だった。
窓あたま野郎は慌ててあちら側に戻ろうとして窓に引っかかって窓を壊した。
はね上げ式の窓が外れて私の便座横にガシャン!と落ちてガラス割れた。
ガラスで太ももうっすら負傷。
どーゆー事や!
何してくれよるんか??!
冷静さがもどり、一瞬で身支度を整えて一目散にトイレを出ると変態窓あたま野郎はどこにも居なくて、
このぉ…逃がすか!とフロントに駆け込む。
まだあちら側のトイレに隠れてるかもしれない。
フロントでこんな事があったんだけど、って緊迫した様子で伝えようとしたけど、話し出したそばから、
「覗き魔」って言葉も「変態」って言葉も「痴漢」って言葉も知らなかった。
キョトンとするスタッフたち。
当時、英語もディベヒもほとんど話せなかった私は、
コミュニケーション力だけはなんとか強くて、
出川哲朗のように、一生懸命、身振り手振り、それっぽい単語の羅列で、時にはデモンストレーションを混じえて、さっきの屈辱を伝えた。
こうしてたら、こっからこう。
ね?
わかった?
とフロントをみると、みんな面白そうに笑っていて、
なんならロビーにいるインド人客みんな笑っていた。
パフォーマンスと思われたのだろうか?
色んなことがショックすぎて涙目になる。
「Someone see my toilet!」
と狂ったように連呼し、私の方がおかしな人みたいな目で見られ始める。
「Wait!」
と言い残して、食事の間に戻ると同期たちが
「大丈夫だった?(腹痛)」と声をかけてくれる。
ほっとしてボロボロと泣き出すと、みんながどうしたの?と心配してくれ、やっと、今しがたのトイレ辱めの話と、その後のフロントでの辱めの話をすると、みんなが爆笑しだす。
ごめんごめん、と言いながらの大爆笑。
お前らもかっ!
そんな中、私たちと一緒に赴任したホンワカ癒し系の調整員のOさんは、冷静に聞き取り、すぐさまフロントに抗議して、警察を呼んでくれた。
そして、「咄嗟の言葉が英語なんて、すごいよ!怖かったけど良く頑張りましたね」と慰めてくれた。
ありがとうOさん。
この恩は忘れないっっ!
ウワァンウワァン泣いた。
でも、その後来た警察さえも、私の話を聞くと笑っていて、何とも飲み込めない思い出となった。
なお、未だ、犯人は捕まっていない。
余談
もし、あなたが英語圏でこのように痴漢と遭遇した時のために…
イギリス英語圏
I was molested in the bathroom
(アイワズ モレスティッド イン ダ バスルーム)
アメリカ英語圏
I was molested in the toilet
(アイワズ モレスティッド イン ダ トイレット)
どちらもトイレで痴漢にあいました、となります。
In the のあとを 痴漢にあった場所にすれば、大丈夫。
電車でならin the trainです。
また、単語の発音は
痴漢 molest (モレスト)
変態 pervert(プぅァーヴぅァーt )
※ぷわーぶわーでも行けると思う。
覗き魔 peeping tom(ピーピングトム)
私が言えばよかった咄嗟の一言は
「You! Pervert!!?」(この変態!!)でした。
できるだけドスの効いた太い声で言いましょう。