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映画ターミナルのような話し Part3 ②
知らない世界
連れて来られた空港の裏側にはいくつかの扉があり、セキュリティが待機をしていた。
最後の扉を抜けると、物置きみたいなカビの匂いのする部屋だった。
そこから更に奥へと進むと広いリビングのような場所にでる。
真ん中にリビングがあり、その部屋を囲むように各小部屋があるらしい。
「ここに居るように」ベッドとシャワーとトイレがあるだけの小部屋をあてがわれ、こっちへ来いとセキュリティは私をリビングのソファに座らせ、どこかへ消えていった。
リビングにはテレビがあり、小さなキッチンがある。
窓もある。
端に置かれたダイニングテーブルと、反対側にもいくつかソファがあり、そこには見た感じバングラデシュ人かな?と思うおじさん達が5~6人、静かに小さく座っていた。
しばらくすると空港スタッフが入ってきて※サーボーンをしだす。
※サー→お茶 、ボーン→飲む 、すなわち 「お茶を飲む」おやつの時間である。モルディブの習慣で1日に何度もある
(なるほど。ここはスタッフの休憩所にもなってるのね)
また少ししてイマッドが他の顔見知りのスタッフを連れて入ってきた。
「マリー!笑 なにやってんだよー」笑いながらこれからの話と、
ここが何なのかを説明してくれる。
「ここは、入国審査に問題のあるゲストを審査するまで留めておく場所でジェイル(刑務所)ではないから安心して」
「マリーはビザが書き直されたらすぐ出られるから大丈夫だ」と慰めてくれる。
それからまたイマッド達は仕事に戻り、私もあてがわれた部屋に戻ると、「なんとかなるよね」と、ベッドに仰向けになった。
バングラデシュ人のおじさんたち
さっき飛行機で中途半端に寝たからか、いつの間にかうたた寝をしていたらしい。
我ながらよくこんな状況で眠れるなと呆れてしまう。
リビングにはコーヒーや紅茶が置いてあって、好きに飲んでいいからねと言われていたことを思い出した。
コーヒーでも飲むか。
リビングに行くと、さっきのバングラデシュ人のおじさんたちは緊張の面持ちのまま、さっきと同じ場所に座っていた。
空港でゲストを待っている時、よく見かけていた光景。
モルディブには出稼ぎのバングラデシュ人がたくさんいる。
彼らは劣悪な環境で寝泊まりし、ひたすら辛い労働をしている。
私たちには考えられないような長い契約期間で滞在している。
そして、遂にその長い契約期間を終えて国に帰る日が来る。
髪を整え、真新しいシャツを着て、でも足元は安いビーサンを履いて、
紙袋ひとつとボストンバッグひとつ。
仲間に見送られてキラキラ晴れ晴れした顔で帰っていく。
そして、その時 新しく到着する者もいて、彼らは緊張した顔で着の身着のまま薄いボストンバッグひとつ。
でも、足下は真新しい皮のサンダルを履いていた。
きっと彼らの一張羅なんだろう。
私はその風景をいつも切なく思っていた。
この部屋の入口には真新しい皮のサンダルが置かれていた。
バングラデシュ人のおじさんたちは、私のように何かの間違いのためにここにいるのだろう。
言葉もわからず、何が起きているのかわからないままここにいるのだろう。
なんだか可哀想になってくる。
思い切っておじさん達に「お茶はいかが?」と声をかけてみる。
ドキッとした顔でみんなは私を見ると顔を横に傾ける。
なんだ。いらないのか。
(ん?まてよ?これはインド人がよくやる動き。どっちだろ。Yesなの?Noなの?)
お茶のカップをもう一度掲げて (飲む?) と聞くと、首を横に一振傾ける。
(面白い。どっちよ?どっちなのよ? バングラデシュもインドと同じなの?)
カップを掲げて飲む仕草をして (どうよ?) の顔をする。
おじさん達が笑いながら首を振る。
(80パーくらい、Yesだと思うけどやっぱりわからん)
最終的に口頭で「Yes?」と聞くと「Yes」と首を振る。
(あー やっぱり Yesだった )
みんなの分お湯を沸かして不揃いのカップに紅茶を用意すると、ここの主かのようにおじさん達に配った。
さっきまでの強ばった顔はもうどこにも無い。
よかった。
自分はコーヒーを淹れてダイニングテーブルに座り、携帯でマネージャーに電話をかける。
でない。
しかたなく持っていた小説の続きを読んでいると別の小部屋の扉が開き、中から背の高い白人のおじいさんが出てきた。
ジョン神父
おじいさんと言うには少し若く、おじさんと言うにはすこし年配のその人は私に向かって明るく挨拶をしてくれた。
私と一緒にテーブルに着くと明るい青い目で私をまっすぐ優しくみつめ、色々尋ねる。
綺麗な英語だなぁ。なんだか諭されている気分になる。
何故ここにいるのかをお互い話し始めた。
彼の名前はジョン。南アフリカから来たらしい。
もう2日もここにいるらしい。
「どうしてここに居るかはわかっているの?」尋ねると深いため息を着いて「Yes…」と言う。
彼はキリスト教の神父さんだった。
モルディブへはアジア圏を旅した後に立ち寄ったらしい。
手荷物検査で何冊かの聖書がみつかり、宗教的な容疑がかかっていて拘束では無いがなぜか軟禁されているのだという。
モルディブは他のイスラム教の国より自由に見えるけど、100%ムスリムだから、少し難しい問題だよね。と慰めてみる。
ジョンは、「私はキリスト教の神父ではあるけれど、他の宗教を侮辱したりはしないよ」と静かに話す。
それからジョンとしばらく、この件についてや、彼の国の面白い話、私がモルディブで働く事になった経緯や色んなことを話た。
家族の話になった時に、とても悲しい顔をして「没収された聖書に、家族の写真を挟んでいたけど、それも返して貰えないんだ」と言う。
にこやかにしているけど、さすがに疲労を感じるジョン。
少し休んだ方がいいよと言うと、そうだね、と部屋に戻る。
結局、夜が来た。
今日で何とかなるかと思っていたけど外も暗く、お腹も空いた。
みんな、いつからいるのか分からないけど少し慣れてきたのか部屋に戻ったりソファに寝転んでいたり、それぞれの時間を潰していた。
ふと、バッグにサンドイッチがあることを思い出す。
でも。
みんなと分けるほどはない。
でも。
とてもお腹がすいている。
(神に試されているのか)
悩んだ末、サンドイッチをバッグに戻す。
ちょうど着信がありマネージャーからだった。
「ごめんねー。わはは。パスポートの番号間違えちゃってたよ。あはは。今日は受理されなかったから明日の朝イチで申請し直して出来上がったら直ぐに書類を届けるからね。頑張れ」との事だった。
ふつふつと湧いてくる怒り。
軽すぎる。
コノヤローと思いながらも、書類を受け取った時にちゃんと隅々チェックしてない私も悪いと思い直す。
行き場のない怒りが、お腹が空いているからだと気づく。
「お腹がすいたよー」
口に出したらなぜか涙声になった。
自分でも驚いた。
お腹が空いて泣くなんて人生初の経験だ。
「NO problem!Don't worry」と電話が切れた。
くっそーぅ、あんニャロメ!!
目が潤む程度半泣きして、そのまま不貞腐れてベッドに横たわると
開いたドアをジョンがノックする。
「クッキーあるよ。おいで」
「………… ジョーーーーーーン」
リビングに出ると、クッキーの箱にみんなが群がっていた。
やっぱりみんなお腹が空いていたらしい。
よかった、サンドイッチ独り占めしなくて。
本編 下 につづく
(ゴールは目前よっ)
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