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映画ターミナルのような話し Part3 ③


飢え

クッキーがこんなに美味しいとは!
クッキーと言うか、サブレみたいなサクサクしたお菓子だった。

ジョンは甘いものが大好きらしく、いつもおやつを持っていると言っていた。

それからジョンが不思議そうに、「いつもはちゃんと食事が貰えるけど今日は何故か来なかったね。」と言う。

なんですと? いつもはでるのか!
(絶対、当番の引き継ぎができていないと勘が働く)

偏見でもなんでもないないけどモルディブ人は、可愛い。
長年ここで暮らして思うのは、良くも悪くも可愛いのだ。

私のワークビザの切り替えも、再三 伝えていてもギリギリなわけで、動いたかと思えばこんな具合なわけで。

食事当番の引き継ぎができてないことくらい絶対ありうる。

ジョンにそういうと笑って「そうかもしれないね。たまには空腹もいいよ。」と、神父さんらしい感じのことを言う。

夜が更け、それぞれ部屋に戻る。


私も起きていてもお腹が空くだけだから部屋に戻って本を読み寝落ちしようと思った。


ハッサン再び

目論見通りに寝落ちしていた。
カーテンの無い窓から朝日が差し込む。
リビングに水を取りに行くとジョンが起きていて長い足を組み優雅にコーヒーを飲んでいた。

「Good Morning Marry」

(わぁ! なんかホームステイしてるみたいだ)
おはようを交わす。

同じくコーヒーを作ってテーブルに着くと、マリーの日本の名前は何なのかと尋ねられる。

「まゆだよ」
「Ma…you」


顎に手を当て上を見ながら英語っぽい発音の「まゆ…まぁよう まあぃゆぅ」をくりかえし、「I like your name 」と気に入ったらしい。

「君は誰もが君を特別だと思える名前をもっているんだね。だってほら、My…you」そう言って自分と私を順番に指を指す。

「僕の、君」

(ほほう。その発想はなかった。)
(だいたい眉毛とか弄られる名前だしw)

「ありがとう、素敵な意味を作ってくれて。でもさぁ、日本語でまゆは、眉毛のことでもあって~…」 と説明をしていると、メインのドアが開き知った顔が入ってきた。

キョトンとしていると、「Hiマリー!!」と朝から絶好調のハッサンだった。


この前とは違ってスーツにネクタイをしてて、ちょっとかっこいい。

ハッサンはイマッドと同じ部署だったらしく、日本人のマリーがあの部屋に昨日からいるぜ と噂を聞いてやってきたらしい。

「まさかあの約束がここでになるとはね!」と笑う。
(あぁ、今度あったらお茶しよーねって言ったね )

昨日からの私の状況を話すと「マリーは直ぐにでられるよ、だって僕が帰ってきたからね!」とウィンクをする。

(やめろよハッサン 笑)

笑いながら うぇー😱の顔をすると

ハッサンも笑って「本当だよ。マリーのスタッフが今日の昼には書類が手に入るって言ってたから。」と、心強い情報。

突然ディベビ語の会話が始まって驚くジョンにハッサンが私のことを紹介しだす。
(いや。ハッサンとも今日で2回目だし)

他愛のない会話をして、ハッサンに「昨日からクッキーしか食べてないからなんかくれ。お腹すいた」と言ってみる。

急にハッサンが怒り出す。
直ぐにどこかに電話をし、「アワスクレ」(急げ)と言う。
なんか、食事のオーダーをしていたようだった。

ジョンが部屋に戻りハッサンと2人になると、この部屋にいる人達について教えてくれた。

バングラデシュ人のおじさん達はタイル職人らしく、モルディブの工事現場で働くはずだったけど、私と同じで書類に不備があって、受け入れ側に連絡するけど繋がらないから保留になってる人達らしい。

ジョンはキリスト教を布教しに来たかもしれないからここに留めているのだと。


スーツケースにたくさんの新しい聖書が入っていたからだと言う。

でもジョンはアジア圏を旅してたから、そこで聖書を仕入れただけなのかもしれないし、分からないから聖書を破棄するなら入国出来るとしたけど破棄を拒否したのだと。

(わぁ、難しい。)

私が言えるのは「でも、ジョンは、とても優しい人だよ。他の宗教も理解しているっていってた。」


ハッサンもうんうん、と頷く。


「ジョンは良い奴だ。だから困るんだ…」


餌付け

空港のカフェの制服のお兄さんが入ってきて、大量のナイロン袋がテーブルに置かれる。


揚げたてのポテトのいい香りがする。

「みんな、食事だ、たべて」


ハッサンがバングラデシュ人のおっちゃん達に声をかける。
ジョンも出てくる。

ナイロン袋にはペットボトルの水、フライドポテトとハンバーガー、サンドイッチ、オレオがそれぞれに入っていた。

「昨日は食事がでなくてごめんね。」丁寧に謝るハッサン。

(なんか、なんとなく…実は ハッサンって凄い奴な気がしてきた)

(仕事が早い!早いぞハッサン)

(飛行機の感じとはなんか違う)

(ハッサン良い奴 凄い奴)

(ハーッサン ハーッサン わっしょーい ハーッサン)

私の中でハッサン急上昇だった。

食べ物を貰っただけで、犬かと思っていたハッサンが急にイケメンの出来る男に見えてくる。

餌付けされている私のほうが犬なのかもしれなかった。

みんなそれぞれの場所でもぐもぐタイム。

ハッサンは「じゃ。またくるね」とにこやかに帰っていった。

昼になるとみんなそれぞれ会話をしていてなんだか昨日よりも随分と和やかだった。

私は翌日のリゾートから依頼されているはずのウエディングの仕事がとても気にかかっていて、部屋でずっと先輩のスタッフと状況について話していた。

「明日は雨だからリゾート側は多分キャンセルだと言ってるし、万が一、雨天決行で、そこから出られなくても私が代わりに行けるようにしておくからね。頑張ってね」

とっても優しい先輩。
こちらで結婚して旦那さんはリゾートで働いているから、彼女と彼女の子供と私とで一緒に暮らしている。


家族のような人だ。

普段は子供が小さいから私がリゾート出張担当で、彼女はサロンワーク担当だ。

少し安心して、ふとこの状況を、書き留めておこうとスケジュール帳に出来事を書き出す作業に没頭する。

色んなことを思い出す…

何故かやっぱり また あの2:8の爽やかお兄さんが浮かんだのだった。


本編 最終所へつづく

(ラストいっぽーん!)

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