マガジンのカバー画像

家族のはなし

9
うちの家族の日常
運営しているクリエイター

記事一覧

母を看取った。

令和4年 11月25日 午後5:58 母の呼吸が永遠に止まった日。 私は朝から病室にいて、鎮静剤が入っていても、 眠気と戦い起きていようとする母に、いつものように他愛ない話をし、身体をさすり、顔を撫で、手を握り 休んでいいよ、少しねむっていいよ、と話しかけていた。 眠りたくない、起きていたい、と、うわ言を繰り返しながらも、母が目を閉じ眠ると、突然 溢れ出した。 涙を拭うことなく「お母さん、今まで私たちの為に頑張ってくれてありがとう。もう、私たちは大丈夫やけん、心配せず、お

最後まで泣き笑い

今朝、父は逝った。 父の周りでは大勢の人が泣き笑いしていた。 朝起きてすぐはまだいつもの浪曲のような唸りが聞こえていて、 呼びかければなんとなく頷いたり、反応があったけれど 訪問看護師さんが来てバイタルを測ると、昨日まで、お手本のようだった血圧が、もう、上が62で辛うじて測れるほどだった。 「…おそらく、24時間もつかどうか…」 会わせてあげたい人などにお声かけ下さいとの事だった。 父の兄弟が来て、孫が来て、従兄弟や父の親友が駆けつけた。 その頃には浪曲はもう聞

父を看取った

父の希望を叶えるために、お世話になってきた病院から自宅に連れて帰ってきた。 昔から「俺が死ぬ時は延命はしなくていいからな」と何度も聞かされてきた。 なんなら、死んだ後に体を洗ったり、 豪華な花を棺にも入れなくていいと。 理由は、「死んでからでは意味がない」だった。 今が1番大切だと常に言っていて、 花を送りたいなら今送れ。 手を繋ぐなら今繋げ。 感謝は今しろ。 そう言って母の手を取り 周りの人を大切にする人だ。 最後は畳の上で父は自宅に帰って畳の上で、 母の

柔らかな人

無機質な部屋に機械音がリズムを刻み、 握りしめるマシュマロのようにふわふわした手は 力なく、温もりだけ帯びている。 体を起こし、話しかけると 1呼吸ずつ、ゆっくりと答え 子供の頃から大好きで堪らない 柔らかい笑顔で私を見つめる。 よく似た目によく似た口元。 あぁ、私はいつでも鏡を見れば、 あなたに会えるんだ。 邪魔になるからと 猫の毛のようなふわふわの髪を梳かし 2つに編み込む。 「女学生みたいね」 笑いかけると可愛く「うふふ」と笑う。 こんなに

ドクン ドクン 体の中を走る音は 時計のように 休むことなく 私の命を知らせている。 いつかその音が 飛び跳ね、狂った時を刻み出すと あなたの命の終わりを知らせる。 あなたの胸に耳を当て そっと目を閉じる。 無限の世界が広がりだす。 私があなたの一部なのだと理解する。 ありがとう。 ごめんなさい。 愛しています。 私の中を走る音が 強く、 強く、 そう、告げている。

温度

夜の病院の待合室で 車椅子に座る母の背中が小さくて 手を握るととても冷たい。 暖かいお茶を買ってきてあげると 父が 母の傍らに座り ゴツゴツした不器用な手で 母の冷たい手を 息をかけながら包んでいた。 2人ともお揃いの白髪頭で シワの増えたお互いの手を 少し照れたように 笑いあってた。 私はそっと踵を返し トイレに駆け込むと 嗚咽を殺して泣けるだけ泣いた。 不安と 絶望と その中で見た 暖かい温度が 胸に痛くて 苦しくて この二人の子

来世の婚姻届

#あなたに出会えてよかった このハッシュタグを見て真っ先に両親が浮かんだ。 この2人の子でよかったなと思った話。 少し長くなるけれど、記録のためにも書いておきたい。 ある日、家業を手伝ってくれている叔母から面白い話を聞いた。 若い頃の父がどれだけ母に迷惑をかけてきたかと言う話だった。 父 元漁師の九州男児 若い頃の破天荒さは今でもネタに困らないほど。 キラキラした目で率先して動物を拾ってくる人 子煩悩で少年の心のままの人。 現在) 孫曰く、頭から赤ちゃんの匂いが

奇跡を知る

父はもう、かれこれ10年以上、肝臓癌と戦い続け 満身創痍ながらも勝ち続けている。 初めて見つかった時に余命宣告を受けるも、熱心な先生に出会えたことで15時間に及ぶ大手術をし、3分の2の肝臓を取り見事に回復した。 手術室に運ばれながら、色んな管を通された手で Vサインを高く掲げながら扉の向こうに消えた父がかっこよくて、愛おしかった。 手術が終わり、集中治療室の窓越しに弱々しくもまたVサインをだした父。 そんな父も今年70歳になり、 ○年生存率とかいう、癌患者の寿命

日々夫婦 日々親子

父と母今日、退院した母の髪は根元から6cmくらい真っ白で 入院した時よりおばあちゃんになっていた。 それを見た父が 「真っ白になってしもうて 笑 竜宮城の生活はどうだった?」 と冗談を言って、そこに居たみんなが笑ってた。 「お陰様で快適でした。鯛も平目も美味しかったです」 母も恥ずかしそうながらも、ユーモアで返す。 我が親ながら、いい夫婦だなとほっこりする。 私と母帰ってきてすぐ、母の髪を染めてあげて お風呂で洗ってあげる時、 一生懸命、ギューッと固く目