最後まで泣き笑い

今朝、父は逝った。

父の周りでは大勢の人が泣き笑いしていた。

朝起きてすぐはまだいつもの浪曲のような唸りが聞こえていて、

呼びかければなんとなく頷いたり、反応があったけれど

訪問看護師さんが来てバイタルを測ると、昨日まで、お手本のようだった血圧が、もう、上が62で辛うじて測れるほどだった。


「…おそらく、24時間もつかどうか…」
会わせてあげたい人などにお声かけ下さいとの事だった。


父の兄弟が来て、孫が来て、従兄弟や父の親友が駆けつけた。

その頃には浪曲はもう聞こえず、呼吸の間隔が長く、大きく息をすって吐いていた。

たくさん、お父さんと呼びかけ、楽しかった事や感謝を私たちは絶え間なく伝えた。

人が亡くなる時、最後の最後には喉元からゴロゴロとたんの絡む様な音がするらしい。

その音が聞こえる時は、もう、ほんとに最後の最後なんだと聞いていた。


呼吸が消えそうになり、本当にゴロゴロと喉がなり始め、1呼吸ごと、大きく、だけど静かになっていく。


親戚。家族。孫が、グシャグシャに泣いて父の名前を呼ぶ。


呼吸が止まった。

時がとまるってこういう事かとおもった。


母は、ずっと父の手を握っていて、その手に頬ずりしながら、「みっちゃん!ありがとう。わたし、幸せでした」と普段物静かな母からは信じられない声で泣いていた。


すると、亡くなったと思った父が大きく息を吸った。


えぇ?!!


みんながどっと笑った。



母の泣き声に、心配になって戻ってきたのだと笑った。

また、その間に呼吸しなくなり、今度こそ亡くなってしまったのだとまた、みんながワンワン泣き出し、
父の姉が「きつかったねー。。みちお、みちお!目を開けてくれ。」と顔を撫でると


すぅーーーっと、また大きく息を吸った。


えぇーーー?!!!笑←


おばちゃんが呼び戻すからぁ〜!

お父さん、心配で行くに行けんやん!!笑

と、


また、みんながぐしゃぐしゃな顔で笑い出す。



ドリフのコントかと思った。


最後まで父らしくて、私の家族らしくて、


悲しいけれど、嬉しくて、可笑しくて。


お父さんはもう、十分頑張り抜いてきた。

家族のために孫のために、満身創痍で戦い抜いた。

「もう、よかよ。なんも心配せんで逝ってよかよ。」


泣き笑いながら、嗚咽しながら姉と私がが話しかけると、


もう、戻って来ることは無かった。


往診医が来てくれるまで、ずっと泣いて笑ってまた泣いて。


病院の先生から引き継いで新しく往診して下さっていた先生が死亡確認を丁寧にしてくださり、帰り際、もう、亡くなっている父の肩に優しく手を置いて

「〇〇(苗字)さん、お疲れ様でした。とても良い御家族ですね。ゆっくりやすんでくださいね。」と声をかけてくださって、嬉しかった。

亡くなった父の尊厳のようなものを大切にしてくれたから。

とても良い先生たちに恵まれて嬉しかった。


看護師さんと、最後の清拭をし、私は父の髪をいつものように刈り、髭を剃った。

介護士の妹が手際よく父の体を整えて、

黄疸が酷く、真っ黄色の肌をヘアメイクの私がエンゼルメイクを施す。


「お父さん。ごめんね。補色の下地、パール入しかない笑」

父の黄色い肌をパープル系の下地で補色をするも、内側から輝くようなパール入りしかなくて、それを薄く塗ることにし、暗めのファンデーションでも父には明るくて、私たちがローライトで使うまっ茶色のパウダーでおさえた。

思ったほどパールは出なくて安堵するも、あまりにも上手く行きすぎて肌ツヤが良すぎるほどだった。

亡くなっているのにとても健康的な父をみて妹がわらいだす。

父ならこう言うよね、と父になりきって真似ると、
より可笑しくて、お父さん、めっちゃ綺麗よ、人生初のお化粧だね、などたくさん話かけた。

最後に薄くオレンジのリップを塗ると、ほんとにただ寝てるだけのように見えた。


笑顔

最後の呼吸で大きく息をした後は、口を開けていたので妹が口腔清掃をした。

そのあと、枕を高くし、顎の下に丸めたタオルを挟む。

そうすると硬直してしまう前に口を閉じることが出来るらしい。

父のお気に入りの服を着せ、身支度も完璧になった。

訃報を、聞いてたくさの人が駆けつけ、

私たちが驚くほど、知り合いのおじさん達がみんな男泣きしていた。

改めて知る、父の人としての存在。

こんなに泣いてくれるお友達がたくさんいたのか、と

感動した。


時間が経つにつれ、父が微笑み出した。


人生の中で親戚や知人の葬儀で亡くなった方を拝見したけれど、こんなに安らかで、穏やかに笑う顔を見た事はない。

贔屓目ではなく、ほんとに、笑っている。

ユーモアに溢れ、どんなときも真っ直ぐで、豪快で、お茶目で、機転の利く頭の良さ、博識で、愛情深い、私たちの自慢の父は、最後まで笑顔でした。


本当に父の望みを叶えてあげられたのか。とか、
あの時こうしていれば…の後悔も、
父の笑顔が全て帳消しにしてくれた。


こんなに幸せな最後を迎えられた父が誇らしく、
この人の娘に慣れたことが幸せで、
また必ずいつの世かで会いたいと思う。




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