奇跡を知る

父はもう、かれこれ10年以上、肝臓癌と戦い続け

満身創痍ながらも勝ち続けている。

初めて見つかった時に余命宣告を受けるも、熱心な先生に出会えたことで15時間に及ぶ大手術をし、3分の2の肝臓を取り見事に回復した。

手術室に運ばれながら、色んな管を通された手で

Vサインを高く掲げながら扉の向こうに消えた父がかっこよくて、愛おしかった。

手術が終わり、集中治療室の窓越しに弱々しくもまたVサインをだした父。

そんな父も今年70歳になり、

○年生存率とかいう、癌患者の寿命の指標を裏切り、10年以上、

トカゲの尻尾切りのような次々でてくる癌と戦い続けてきた。

手術はもう出来ないのでカテーテル療法でしばらくは

戦ってきたのだけど、今回、新しい治療法に出会って

昨日、3回目の投薬と、経過確認をした。

例の迷路のような大学病院の6階で父が投薬を受ける間、

私は迷子にならないように3階でじっと終わるのを待っていた。

方向音痴|marrypossa #note https://note.com/marrypossa/n/nf493ada6c008

大雪のせいで人が少なく、昼時で誰もいなくなった広い待合室で本を読んでいると担当医が声をかけてきた。

この人は、ちょっといわゆる"医者”らしくなくて、屈託なく素直に言葉を伝える風変わりな医師だ。

父とよく気が合うらしい。

「今ね、CT画像確認してきたよ。…ちょっと俺、あんなの見たことないわ」

と前置きをして

「消えてる。」

「 3つのうち2つはもう、どこにあるかわからん。」

「3つめの大きいのも、ほぼ消えとる。すごいやろ? 俺、びっくりしたよ、お父さん頑張ったね!」

今、みてきたらしいその結果を、たまたま一人でいた私に教えてくれた。

先生の方が嬉しかったのだろう。

この所、何かにつけて涙腺の弱い私はポロポロと泣きながら

先生に感謝を伝え、喜びを分かちあった。

「良かった良かった。でも、まだまだこれからやけんね!a頑張りましょう!」

そう言いながら私の方をポンポン叩き、
ニコニコして去っていった。

その後、帰ってきた父と二人できちんと説明を受けた。

CT画像も、素人目に見ても、元々あったものが消滅していて、

ほぼ消えているものが1つ確認できた。

これは、「免疫療法」というもので、認可が降りたばかりの新薬らしい。

もちろん、高額医療になるし、3週間おきに投薬をうける。

様々な副作用が出る人もいるし、まだ未知の症状もある。

幸い、父は副作用もなく、むしろ、なんなら頭の毛が増えてきた。

(笑い話になるほど、禿げていた頭頂部に毛が生え始めたのだ。)

まだ、ぬか喜びにならぬよう、これからも続けなくてはならないけれど、

こんなに成果が出たのは長い闘病生活の中でも初めてで、

手術で切る以外に癌が消えることがあるのかと、信じられない思いだ。

奇跡って、本当にある。

そう、知った日だった。

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