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『コントが始まる』(#6〜10) にコロサレル!

このページは#6からのレビューです。
#1〜5までのレビューはこちらから↓


#6 コント『金の斧銀の斧』

導入のコント。
池に仕事道具であるチェーンソーを落としてしまうきこり(弟子)。そこに池の中から突然現れたイケノメガ美(バイト)は右手に金の斧、左手にアパートの合鍵を持ってきこりに尋ねる。「あなたが落としたのは金の斧ですか?それとも私のアパートの合鍵ですか?」きこりは正直に落としたのはチェーンソーだと答えると、女性は「あなたは自分の心に正直な方では無いようですね」と言って池の中に戻って行ってしまい…

今回はどストレートな“潤平(仲野太賀)と奈津美(芳根京子)の恋物語”でした。
そしてこの恋物語は“価値観”を巡る物語でもあった。

今回、奈津美の心情を吐露するようなナレーションがたくさんあったが、おそらく世の中の人は今作のキャラクターの中で奈津美に最も共感できる人が多いのではないだろうか。
普通に大学を出て、普通に就職して、6年目である程度の仕事を任されるようになって、周りからは結婚適齢期みたいな枠組みに入れられて、その日のメンタルでパートナーの子供っぽい所にイラついて...
周囲が連休明けに高級旅館だリゾートホテルだと言ってる中で潤平と足湯に言った事を言い出せない自分。
どこかそういう世間の“当たり前”を羨ましいと思う自分。
でもそんな中での奈津美の唯一のプライドは“売れない芸人の彼氏と一緒にいる事”だった。
鳴かず飛ばずの潤平を許容して支える事で“周りのみんなとは違う、自分は特別なんだ”と感じる事ができる。
だからこそ起きる葛藤。
「マクベスを解散して芸人を辞めた後の潤平を私はどう受け止めれば良いんだろうか。」

一方の潤平も奈津美を笑わせるために始めたマクベスを解散する事が決まった事で、奈津美との別れが頭をよぎる。
空っぽで自分には何も無いと思っている潤平の唯一の武器はマクベスだった。
しかしそのマクベスが終わる。
お笑い芸人を辞め普通の酒屋を継いだ自分を、キラキラした世界にいる(たぶん奈津美がいるのはごく一般的な普通の世界だが潤平にはそれが見えない)奈津美がまだ好きでいてくれるのだろうか?
いっそ嫌われるても良いように自分から保険をかける。
奈津美のために始めたマクベスが終わるのだから、奈津美との関係も終わるのが当たり前だと。

そんな2人の状況を見るに見かねて春斗(菅田将暉)は奈津美に会いにいく。
どれほど潤平が奈津美にとって特別な存在かを伝えるために。
「潤平がこの10年間変わらずに信じ続けたモノを一つでも成就させてやりたかった。マクベスでは叶えてやる事が出来なかったけど、この10年が無駄じゃなかったと思ってもらいたかった。高校時代の延長のように過ごしてきたこの10年が意味のある時間だったと思って欲しかった。」
それは春斗から潤平への“余計なお世話”であり“目一杯の償い”だった。
潤平への最高のサプライズが成功した後にアップになる春斗の嬉しそうな、どこかホッとしたような笑顔が目に焼き付く。


人間は歳を重ねてたくさんの経験をして環境が変わっていく中で、価値観が変化していくのは当たり前の事なんだと思う。
でも子供の頃にあんなに信じていた事が、何で大人になるとこんなにも信じられなくなるのだろう?
あの頃の真実とか、空想とか、愛なんかをすっかり忘れてしまって。
ルールとか、規律とか、倫理とか大人の物差しで生きていくようになる。
「子供じゃないんだから」って言い訳ばかり上手くなって、それが大人なんだって自分に言い聞かせるようになる。
それでも、変わらない事も必ずある。
必ずあるはずだと信じたい私はマクベスと同じように世間からは青臭い、未成熟な存在だと思われるのだろうか。
変わっていく事と変わらない事。
大人になっても変わらなかった事。
その価値観こそが人生において重要な事なのだと私は信じていたりします。



そしてまたいつもの公園での定番となりつつある春斗と里穂子(有村架純)の会話。
この“価値観”の問題は春斗と里穂子の次のステージへも繋がっていく。
頑張って傷つく事が怖くてなかなか先に進めない里穂子と、マクベスの中ではネタを書いて中心的存在のはずなのに芸人を辞めた後のアテが唯一ない春斗。
2人は今後、どのように自分自身と向き合い、どのような人生を選択するのだろうか?

ラスト、コントシーンに戻る。
きこり(弟子)は落としたのはチェーンソーでも、合鍵でもなく、カナヅチだと言う。
愛という名の海に沈んで浮かび上がってくる事の無いカナヅチ。
かたやイケノメガ美は落としたのは壊れたルンバではないかと言う。
ずっとあなたの後ろについて離れない壊れたルンバ。
帰り道で奈津美が潤平の後ろにくっついて歩いていたように。
本来なら「女性が男性の後についていくなんて前時代的だ」と批判したい所だが、今回ばかりは止めておく。
抱き合うメガ美ときこり(弟子)を嬉しそうな、どこかホッとしたような笑顔で見つめるきこり親方(春斗)に免じて。


前回の#5で解散を決めるまでずっと辛くてしんどいシーンが多かった分、今回は多幸感に溢れた回だった。
そう、宣言通りの卒業式の前の高揚感で光り輝いている。
これから先もラストライブまで、そんな幸せに満ちた回が続くのかと思うとニヤニヤが止まらない。


<#6の小ネタ>

※今回は“名前”が縦軸になって小ネタ満載でした!
・ハンドルネーム“ファンのほこり”
・“723”のナンバープレート
・イケノメガ美は本名です
・就職の事いろいろ教えてくださいよ里穂子先輩

・帆立と牡蠣の貝殻とパールのイヤリング(#5からの伏線!)
・めんつゆをすぐに冷蔵庫に戻す潤平(#4からの伏線!)
・折られたチラシの裏に書かれた文字
・100点満点中何点?...14点
・お前の選択は間違ってないぞ
(これに関して前回まで「麻婆丼」と「マクベス」の2択で話が進んでいたが今回のエピソードを見ると「奈津美」の事とも取れるような...)

<#6のパンチライン>

「最後“白”ツモったんですか?」「海底に沈む真珠ってとこかしら。」
「奈津美は指輪を無くした砂浜で潤平という渋い男を手に入れた。」
「何にもないから飲む酒もあるんじゃないの。」

<次回以降への伏線>

・「満員のそれも全員がマクベスのネタを楽しみにしている中でいつかライブがやりたい」ラストライブへの伏線?(#5から続けて)
・「私の人生にはあぁいうサプライズみたいな事一度も起こらないんだろうなーって思っちゃった。」つむぎ(古川琴音)の今後への伏線?


#7 コント『無人島』へと続く。


#7 コント『無人島』

導入のコント。
無人島に金髪の男が三人。どうやら暇を持て余した大富豪の見せ物で無人島に道具を一つだけ持たされて連れてこられたらしい。ライターを持ってきた男。真剣に考えず何もいらないと言った男。そしてなぜか国語辞典を持ってきた男。こうして三人の無人島生活が始まり...

今回のエピソードは“新たな旅立ちへの助走”のお話でした。

実家の酒屋を継いで奈津美(芳根京子)との結婚の話も進む潤平(仲野太賀)。
居酒屋の社員やプロゲーマーなど道はたくさんあるものの、未だに態度を保留している瞬太(神木隆之介)。
全く何のアテもなくて途方に暮れている春斗(菅田将暉)。
姉を助けるために同棲していたが、それが姉のためなのか分からなくなり家を出ていく決断をしたつむぎ(古川琴音)。
そして大好きなモノが全て自分から急に離れていく事で自分自身も次へ進まないといけないと感じながらも、なかなか実行に写すことのできない里穂子(有村架純)。
マクベスが解散する事が決まった事で5人の未来が動き出す。

今までのような大きな物事やテーマがあるというよりはそれぞれの人物にとってのラストへの助走の時間。つなぎの物語。

潤平は父親(金田明夫)から実家を継ぐ事に関して「覚悟を見せろ」と言われて気合をいれ、瞬太とつむぎは突然のキスから2人の恋が始まる予感。
春斗はバイト先の社長に正社員の探りを入れてみたりするものの、まだマクベスからなかなか先に進めない様子。
そんな中で里穂子は奈津美から大学時代の友人である就職エージェント(四千頭身/石橋)を紹介してもらう事になる。


日本の“就職”の在り方に関してずっと疑問に思ってきた。
戦後の終身雇用と年功序列に合わせた日本人のキャリアの在り方は現代にはとてもいびつに見える。
(中学や高校で就職する人、専門学校などに行く人など早くから道を決めている人は除いて)多くの日本人は18歳で大学に行き、大学3年生の時に就活をはじめ、22歳で就職して、次の転職先を見つけて会社を辞める。
決められた道を何の疑いもなく歩いていく。
日本の真ん中に国が「安全ですよ」と認めた大きな道路が通っているイメージ。
そして世間や社会はその道路から少しでも外れる事を許さない。
道路から少し脇道に逸れて、留学したり、専門分野の勉強をしたり、ボランティアをしたり、自分自身の心身の健康のために少しお休みしたり。そういう少しでも道を逸れる行為は「変人」「ダメなやつ」もしくは「意識が高くてめんどくさいやつ」という目で見られる。
24歳で大学を卒業しているだけで、前職の退職から半年期間が空いてるだけで好奇な目で見られる。
しかし私のようにその大きな道路の外側にある脇道を歩いていると、デコボコしていて歩きにくさはあるけど、意外とその道でも十分楽しく歩いて行ける事に気づく。
でも大きな道路を歩いている時はその事に気づかない。
むしろ上から見ているとそのデコボコの脇道は地獄へと続く道にすら見えてくる。
「あんな所に行きたくない」
それがまた大きな枷となってチャレンジもできず、失敗もできず、人生の身動きがどんどん取れなくなる。


里穂子がつむぎに言った「選ぶのはこっちじゃなくて先方なんだからね」というセリフ。
彼女は無意識のうちに社会に大きな枷をはめられているのかもしれない。
彼女の昔の負った心の傷がそうさせているのか。
しかし奈津美は「こっちからも選んでやるって気持ちでいいと思うんです」と彼女を励す。
そう企業や社会の奴隷になる必要は全くない。
2020年代の現在、働く事はもっともっと自由でいいはずだ。
もしもそれで就職できなかったり、職場で居場所が無くなったり、閑職に追いやられたりしたら、そんな会社や組織からはこちらからバイバイしてやればいい。
大きな道路からふり落とされても、別に気にする必要はない。
上からボコボコに見えていた脇道だって歩いてみればそんなに悪くない。
そんな事を思いながら里穂子にとって良い助走になる事を願うばかりである。

ラスト、コントへと戻ると金髪三人衆は見事イカダを作りあげ無人島から脱出する場面になる。
しかし無人島の厳しさの中みんなで力を合わせて楽しく支え合いながら生きてきた事で、この環境から飛び出すべきなのか悩んでしまう三人。
そんな時、国語辞書を持ってきた金髪がこんな言葉を見つける。

「“分かる”の後にくる言葉は“別れ”だ。物事を理解したり、誰かを深くわかった後には別れが来てしまう。」

私もこんなにもマクベスや中浜姉妹の事を愛おしく思ってきているという事は、
彼ら彼女らとの別れが近づいてきているという事なのだ。


本編とは全く関係ないのですが、就活している人やこれから考えている人、未来が見えなくて悩んでいる人にオススメの本があるので載せておきます。
一昨年亡くなってしまった投資家で経営コンサルタントの瀧本哲史が2011年に出した『僕は君たちに武器を配りたい』
このクソみたいな世界を生き抜くための武器について投資家目線で書いてあります。



<#7の小ネタ>

・ぷよぷよの得点ランキングの名前
・中浜さん、下の名前で読んでない(#6からの伏線!)
・何で笹かまなの?
・深酒の前にある言葉って何だったと思います?…不可抗力。深酒の人の前では人間は無力になるって事が辞書に書いてあったんですよ。
・「サプラーイズ」「ヘタクソ」(#6からの伏線!)
・24-24のナンバープレート=虹
・中古車の金額28万円=28歳

<#7のパンチライン>

「合わねーけど余ってるから仕方なく飲んでんだよ。人生ってそんなもんだろ。」
「そもそも年齢で人を判断するような会社好きになれないし。」
「ただの車じゃねーんだなって思って。この車の中にさ、マクベスの歴史全部詰まってんだぞ。4人目のマクベスだったんだなって思ってさ。こんな車にこんな感情抱くと思ってなかったわ。なんか生きてるみたいじゃない?変か。」

<次回以降への伏線>

・「満員のそれも全員がマクベスのネタを楽しみにしている中でいつかライブがやりたい」ラストライブへの伏線?(#5から続けて)
・店長恩田(明日海りお)の波乱万丈なカルロスとの旅の話。あまりにたくさん出てきたので終盤にかけての何かしらの伏線?


#8 コント『ファミレス』へと続く。


#8 コント『ファミレス』

導入のコント。
ファミレスに来た一人の男性客。彼の元にきたフルーツパフェにはバナナがのっていなかった。女性スタッフに尋ねると嫌いだと思って抜いておいたと言う。スタッフはここはお客様の未来の幸せまでお手伝いするファミレスこと“ファミリーレスキュー”だと言って...

今回のエピソードのテーマは“寄り添う事”と“離れる事”でした。

マクベスのマネージャー楠木(中村倫也)は4人目のマクベスとして四人五脚でやってきたが、なかなか上手くいかない毎日の中で徐々にマクベスとの距離が開いていってしまう。
マクベスを解散すると言われた時に感じた「マクベスを最初に諦めてしまったのは俺だったのかもしれない」という想い。

春斗の周りが劇的に動き出していく。
潤平(仲野太賀)は家業を継いで、奈津美(芳根京子)の結婚も近づいている。
瞬太(神木隆之介)はつむぎ(古川琴音)と付き合い始め、つむぎもやりたい仕事を見つける。
兄の俊春(毎熊克哉)も就職が決まって実家を出る。
そして里穂子(有村架純)も就職活動を始め、一度傷つけられた社会へと再び立ち向かおうとしている。
みんなが自分から離れていくような、自分だけが取り残されていくような感覚。
働く事に関して真面目に考えがちだった里穂子の口から出るラフに考えてもいいんじゃないかという言葉。
今はまだ真面目に考えてしまう春斗にもこの軽やかさが伝播すると良いなーと思う。

そしてついにつむぎの引越しの日が来る。
彼女は高校時代の栄光の野球部マネージャーみたいな仕事をすればいいという姉・里穂子からのアドバイスを元に芸能事務所のマネージャーになろうと動き出す。
誰かに寄り添う事だけを真摯に続けるつむぎ。
しかし彼女は一緒に暮らしていた里穂子の家からは離れていく。
物理的に近くにいることだけが寄り添うことじゃない。
彼女が最後に作り置きしていったタッパーの数々がそんな事を物語っているような気がした。


この間ラジオでナインティナインがマネージャーとの向き合い方について話していたのを思い出した。
岡村さんは「自分が言葉に出す前からどんな些細な事にでも気づいてくれるマネージャーが良い」と言っていたが、矢部さんは「自分が言葉にしてから動くくらいラフな方が良い」と話していた。
他人との距離感というのはとても難しい。
自分が良かれと思ってやった事が相手もそう思うとは限らない。
自分が寄り添っていると思う事でも相手にとっては負担になることもある。
でもきっとその相手の事を想う気持ちは伝わるはずだ。
結局、他人である自分が誰かのために出来る事というのは“相手に対して真摯に向き合う事”しかない。
世界中の人がそれを実行するだけで今より幾分かは幸せな世界になるのではないかと、勝手な妄想をしてしまう。


ラスト、コントへと戻り男性客は妻から離婚届を渡されないようにアドバイスを受ける。
素直に謝る事。そして「今日はこれから手料理が食べたい」と伝える事。
物理的に離れていても、いつも隣にいなくても大丈夫。
また集まればいいだけだから。
家族が幸せになるための食事を囲みに。

<#8の小ネタ>

・会社の受付に飾ってある生花(#6から!)
・ベッドで寝る里穂子
・ラストライブのネタ順
・マクベス部の部長

<#8のパンチライン>

「他人からの与えられたきっかけをいかに大切にするかで、人生って劇的に変わるんだよなー。」
「知らね。普通が何かもわからないんだから。」
「お前らがサービスだと思っている事はなー全部余計なお節介なんだよ。」
「人によって紙の価値って全然違うんすねー。」

<次回以降への伏線>

・「満員のそれも全員がマクベスのネタを楽しみにしている中でいつかライブがやりたい」ラストライブへの伏線?(#5から続けて)
・店長恩田(明日海りお)の波乱万丈なカルロスとの旅の話。あまりにたくさん出てきたので終盤にかけての何かしらの伏線?(#7から続けて)


#9 コント『結婚の挨拶』へと続く。


#9 コント『結婚の挨拶』

導入のコント。
東洋一の頑固親父ザ・グレートタロウと羽毛より軽いチャラ男ブルーハワイヨシオ。結婚の許しを得るための2人の戦いのゴングが実況者の絶叫と共に今鳴らされる。

最終回へと続く今回のエピソードは“人生の勝敗”についてのお話でした。
人生の勝ち負けというのは一体どこで決まるのか。

劇中で春斗(菅田将暉)と兄・俊春(毎熊克哉)の会話の中に『蜘蛛の糸』の話が出てきた。
芥川龍之介の『蜘蛛の糸』は、極悪人の主人公カンダタが唯一の善行として蜘蛛を助けた事を思い出したお釈迦様がカンダタを助けてやろうと一筋の蜘蛛の糸を地獄に垂らす。
カンダタはその糸を登って地獄から這い上がろうとするが、気がつくとたくさんの罪人が後を追うように糸を登ってくる。
このままでは糸が切れてしまう。
「この糸は俺のものだぞ。下りろ下りろ。」
するとその瞬間に糸は切れてカンダタはまた地獄に落ちてしまう。
カンダタは極悪人だけど善い行いもする。
私たちもまた同じで、善いも悪いもどちらも内包している。
悪人とか善人とかで割り切れるほど、人間はそんなに簡単にはできていない。
カンダタは最後自分だけが助かる道を選ぼうとしたけど、みんなが助かる別の道を選ぶ(実現しなくても努力する)事もできた。そういう世界線もあったはずだ。
「自分を満足させるのは難しいけど、周りの大切な人を満足させる事から始めてみようと思った。」
俊春の出した答えを春斗は笑って誤魔化した。

高校の担任・真壁(鈴木浩介)の息子から
「夢って追いかけない方がいいの?」
と問われた瞬太(神木隆之介)は
「負けたって事が失敗したって事じゃないと思う」
と答えていた。
そして自分たちは勝ってさえいる。
素晴らしい人間関係をいくつ築けているかが人生の勝敗を決めると。
しかし春斗は「別な競技な気がする」と浮かない顔をしている。


人生に正解なんてない。
あったとしても誰にもわからない。
そんな人生の中で、もし勝敗みたいなものがあるのだとしたらそれは“いかに自分の人生に納得するか”なのかもしれない。
嫌な事も理不尽な事も辛い事も、もちろん楽しい事も全てに(全ては無理でも大部分を)納得して先へ進む。
途中で止まったり休んだりしてもいいから、自分の言動をじっくり腑に落とす。
大切な事は曖昧にしたりうやむやにしたりしないで、しっかり自分のフィルターで噛み砕いてから心の底に落とす。
そうやって先に進む事だけがこの蜘蛛の糸のように細くて不確かな人生の中で、勝ちと呼べるものなのかもしれない。


周りがどんどん自分を納得させて先へ進もうとしているのに、春斗だけはまだ自分に納得できていない。

最後コントへと戻って、
父親とチャラ男はついに和解して無事に結婚できる事になる。
実況者が叫ぶ「この戦いに敗者なんていません」
そして2人が実況者の元に来て声をかける。
「あなたも立派な勝者だよ」

最終回、ラストライブで春斗は人生の勝者になれるのか。

<#9の小ネタ>

・“はいしゃ”が休み
・“723”のナンバープレート(#6から)
・着いたら電話しろよメールじゃダメだぞ(#3から)
・お代わりしないコーヒー(#5から)
・6人目のマクベス(#7から)

<#9のパンチライン>

「彼女を縛り付ける事が幸せに繋がってると思いますか?」
「この酒、良い酒だなー。」

<最終回への伏線>

・「満員のそれも全員がマクベスのネタを楽しみにしている中でいつかライブがやりたい」ラストライブへの伏線?(#5から続けて)
・店長恩田(明日海りお)の波乱万丈なカルロスとの旅の話。あまりにたくさん出てきたので終盤にかけての何かしらの伏線?(#7から続けて)


#10 最終回コント『引っ越し』へと続く


#10 コント『引っ越し』

導入のコント。
引越業者が部屋を訪れると、段ボールは散らかったままで引っ越しの準備が全然終わっていない。いくら梱包しても全て出してしまう妻。その理由は田舎に引っ越したくないから。仕方がないんだと宥める夫。
結婚しない方が良かった、魔が差しただけという妻に夫は...

最終話のエピソードは小説のあとがきのようだった。
特に事件や大きな出来事が起こるわけでもない。
大どんでん返しや衝撃の展開もない。
粛々とラストライブが行われ、打ち上げがあり、マクベスが解散して、潤平(仲野太賀)と瞬太(神木隆之介)が家を出ていき、里穂子(有村架純)もファミレスを辞め、みんながそれぞれ別の方向へと歩き出す。
登場人物のこれから始まる未来への導入を淡々と描いていく。
なんかでも、この終わり方がこのドラマには合っている気がした。

テレビドラマも映画も小説も、物語の終わり方ってとても難しい。
その作品が好きであればあるほど「終わって欲しくない」と思うわけで、そんなファンが納得できる終わらせ方というのは至難の技だ。
私も今までたくさんの大好きな物語に出会ってきたけど、どのくらい満足できた終わり方があっただろう。
一つだけその定義に当てはまるものがあるとすればそれは“過不足”がない事。
今まで積み上げてきた物語に対してやり過ぎる事もなく、物足りない事もなくただ誠実である事。
それだけしかない気がする。

そう考えるとこの物語は最後にマクベスが奇跡の復活を遂げる事もなく、春斗(菅田将暉)と里穂子が真実の愛に目覚める事もなく、でもそれぞれが人生のリスタートを踏み出す。
多少「上手く行きすぎだろ!」みたいなツッコミがある人もいるだろうが、私の中では充分許容できるものだった。
過ぎる事も及ばない事もない。
ここまで5人が積み上げてきた物語に適したそんな素晴らしい最終回だった。

物語のラスト、春斗は水のトラブル業者としてラーメン屋を訪れる。
これが現実なのか、コントなのか私にはわからない。
でももし人生がコントなのだとしたら、いくらでもやり直せる。
練習し直す事もできるし、台本を変える事も、2人の設定を3人に変える事だってできる。
人生に勝敗はない。
そこにあるのは何度でも顔を上げられるかどうかだけだ。
顔を上げているうちは何度でもまた始まる。
最後に顔を上げた春斗がそう言っている気がした。

マクベスのいない土曜日。見上げると梅雨空に晴れ間が覗いている。


テレビドラマにコロサレル!

ニシダ



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