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誰もが社会の一員~日本科学未来館館長 浅川智恵子さんの紹介

毎日小学生新聞2022年1月11日付記事から。
皆さん、日本科学未来館の館長が宇宙飛行士の毛利衛さんから浅川智恵子さんに去年の4月に変わられたのはご存知だろうか?
この方は全盲の研究者。視覚障害者向けウェブページ読み上げソフトの開発など、このような分野での研究開発に取り組んでこられた。
今も研究を続けながら館長をされている。未来館を「アクセシブル(利用しやすい)なミュージアム」として世界のお手本を目標にしているそうだ。
障害者などマイノリティー(少数者)の生活に科学技術がどう役立つかを教えてくれている。

《障害者にとっての科学技術》
障害者にとって科学技術とは、できなかったことを可能にするツールです。視覚障害者を例に取ると、音声合成という科学技術がなければ、本を読む時は点字か録音されたものを聴く、あるいは人に読んでもらうことになります。実際にそういう時代が長く続いていました。それがインターネットの普及でコミュニケーションの手段が変わりました。パソコンの画面ね情報を読み上げるソフトが開発され、目が見えなくてもキーボードを操作して文章を書き、メールで送ることができます。
また、携帯電話で写真を撮れるようになった時、周りの風景を撮影して友人に送り、自分がいる場所を教えてもらうことができるようになりました。これからはセンサーを使うことで、街を一人で歩く事が可能になるかもしれない。私が開発中の「AIスーツケース」もその一つです。これは、視覚障害者の移動を補助するスーツケース型のロボットで、スマホ専用のアプリを使って目的地や途中経路を音声で案内します。ロボットにはセンサーが付いていて、危ないところを避けたり、周囲の人と適切な距離を保って移動したりする機能を備え、未来館でも実装する準備を進めています。
年齢や国籍、障害の有無にかかわらず、ますは未来館が誰でも楽しめるアクセシブルなミュージアムとなり、展示を見に来た人たちが交流し、議論するような場にしたいと思っています。

《夢をかなえる科学技術》
私がプログラミングの専門学校を経て日本IBM
で学生研究員として研究を始めた1980年代半ばは女性の研究者はごくわずかでした。仕事と生活の調和を図る「ワーク·ライフ·バランス」や女性の視点はほとんどなく、女性の管理職も少ない。そうした環境で点字のデジタル化などの開発に取り組んでいたところ、当時にすれば(会社側も)大変な決断だったと思いますが、正式な研究員として採用されました。
入社後、アメリカのIBMに行く機会が多くありました。アメリカで驚いたのは、管理職に女性がいるのは当たり前だったこと。同僚にはさまざまな障害者やLGBTQなど性的少数者がいたので、視覚障害者の私が仕事に加わることを当然のように受け入れてくれました。ダイバーシティ(多様性)に関しては日本よりはるかに先を行っているという印象を受けました。

《浅川さんの描く未来》
国連がSDGsに掲げる「誰一人取り残さない」という理念のように、誰もが社会の一員として自分らしく生きる権利を保障されることです。
私は目が見えないことは、自分の個性だと受け止めています。世の中にはいろいろな人がいて、そうした多様性によって社会が成り立っていることを理解してもらいたい。科学技術は、さまざまな困難を抱えた人の夢を実現できるツールになる可能性があります。その意味で、科学技術とダイバーシティは密接なつながりがあるのです。


科学技術の持つ可能性が障害者、高齢者などのマイノリティーの自立に役立つことは当事者にとってはこの上ない喜びだろう。
自立と介助のバランスは生きる上で、心の健康を保つ上で非常に重要であると私は思う。
社会の一員である自負、そして人や自然に生かされている感謝の念、このふたつが揃って人は人らしい生き方ができるのだから。

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