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「ひと昔前を歩く」

目の前にゆるやかな曲線の
急な坂
鼻を鳴らし
挑みながらのぼる

蔓に囲まれた廃墟をながめながら
人の住みづらさを感じる
いま思えば
おかしな感覚はここからだった

本命の現代彫刻美術館
誰もいない空間に置かれた
野外彫刻
感じたのは懐かしさ

作られた年代は七十年代
これはロダンの影響が強い人物像
八十年代にはイサムノグチを思わせる
大きな抽象彫刻

山のように段々となる
庭園を下りながら思う
個性を輝かせながら作られたものも
歴史の中の渦のひと粒なのだなと

そしていまを生きる私たちも
また同じように歩んでいる
逆らうことできない
大きな流れの中で 

その中からわたしに向かって歩むひと
鮮やかな赤いブラウスに白いスカート
黒い日傘にサングラスの女性
暑い日差しの白昼夢なのか

どこか直視してはいけないようで
ひたすら彫刻に夢中になり
やり過ごした
彼女の後ろ姿だけを目に焼きつけて

あれはなんだったのか
まさに七十年代ファッション
わたしは迷い込んだのか
この時代に

人気の少ない高台の
中目黒四丁目
祐天寺に差しかかり
ひとけのあるところへと帰還した

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