耳をすませば
猫の声が人より聞こえる。
あの日もそうだった。
私の家は通り沿いにあり、窓を開けていると結構車の音がうるさい。そんな喧騒の奥に時折「にゃぁ」という声が混じっていることに、朝から気づいてはいた。
沖縄は野良猫が多い。特に海辺の公園のような人が集まる場所では、散歩をしてるとかなりの確率で遭遇する。聞こえてきた声もその中の一匹だと思い、その時は聞き流した。
昼食のオムライスを食べようと席に着いた時、また声が聞こえてきた。さっきとは少し声色が違う。助けを求めるような声だ。
だが、助けに行ったとしても、うちはペット禁止なので飼えない。どうしようか。迷ってる内にどんどん声は小さくなり、鳴き声の間隔もあいてきた。これはヤバい。飼えるかどうかは置いといて、ひとまず助けに行くことにした。
向かいのお店の植木から声は聞こえるが、肝心の猫の姿が見当たらない。平日の日中。店の中を覗いてみるも、人の姿はない。不審者に間違えられないことを祈りながら、必死に植木をかき分けること10分。仔猫が挟まっているのを見つけた。
暴れる仔猫を宥めながら何とか助け出すと、建物の裏へと逃げて行ってしまった。不法侵入になるかな…と不安になりつつも、気になるので追う。
仔猫は先程までいた場所の丁度裏手にいた。どうやら会社の裏口らしく、人が少し集まってきた。
私が「植木にハマってたんです」と話すと、
「朝からずっと鳴き声聞こえてたもんねぇ」と、社員らしき女性が答えてくれた。
仔猫はここ数日、この場所に住み着いていたらしい。
さて、ここで問題発生。猫が食べそうなものとミルクを持ってきたものの、飼うことはできない。餌付けをしてしまうと、フンの始末など困るのは会社の方達である。
結局、餌はあげなかった。こういう時、本能より理性が働いてしまうのは私の悪いところだ。社員さんが近くの保護猫カフェに連絡をしてくれたが、保護してもらうにはお金がかかるらしい。話していても埒が明かないので、後ろ髪をひかれつつも、来た時と同じ重さのカバンを持って家へ帰ることにした。
あの日以降、鳴き声が聞こえることはなかった。
あの子は元気だろうか。
飼ってあげられなくて、ごめんね。
猫の写真を見ていたら急に数ヶ月前のことが蘇ったので、思い返しながら書いてみた。相当心残りだったのだろう、お昼ご飯に食べたものまで覚えていた。
猫の声が良く聞こえるのは、前世が猫だからだと思ってる。半分冗談、半分本気。猫アレルギーなのは、前世で何か悪いことでもしたのかな。
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