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雨上がりの空を見上げて

今年は例年になく梅雨入りが早いらしい。「今週半ばには東海地方も梅雨入りします。皆さん、傘のご用意をお忘れなく」テレビのお天気キャスターが明るい声で告げていた。

梅雨と言ってもひと昔前のように、シトシトと降る長雨とは違う。割れんばかりの大雨が地面を叩きつけたかと思うと、30分後には何事も無かったかのように雨は上がり、空はカラッと晴れ渡る。まるで東南アジアのスコールだ。

こんな天気が続くと傘はなかなか手放せない。とはいえ、男一匹、身体ひとつで動くのが好きなので、予報が本降りにならない限り、極力傘を持ち歩かないようにしている。

今日も日がな降ったり止んだりを繰り返していたが、夕方には雨は上がった。いくぶん日が差し込んできたものの、厚い雲が幾重にも垂れ込めている。それを見て、学生時代に訪れたイギリスをふと思い出した。

イギリスを訪れたのは、大学1年の春である。アルバイトで貯めた旅費をはたき、ロンドンに飛んだ。実はその前の年に初めて渡米し、英語の魅力に取り憑かれ、次は本場イギリスにと決めていたのだ。

ところが散々だった。まずヒースロー空港から出られない。当時は四つのターミナルに分かれ、その間を地下鉄が繋いでいた。けれど英語が未熟だったため、どこから乗り、どこで降りればいいのか全然わからなかったのだ。

30分ほどかかっただろうか。空港の職員に繰り返し尋ね、ようやく市街地へと向かうことができた。しかし今度は予約してあったB&Bにたどり着けない。降りる駅を間違えたのだ。地図を何度も確認し、再度電車に乗って最寄り駅でようやく降りることができた。

道ゆく人10人くらいに尋ねただろうか。目当てのB&Bにたどり着いた時にはすっかり日も落ちていた。お昼には空港に着いていたから、わずか30キロほどの移動に5時間近く掛かったことになる。テンションはすっかり下がっていた。

時間を無駄にするまいと、翌日の早朝から市内観光に出かけたのだが、到着して2、3日のうちは、なぜわざわざこんなところまでやってきたのだろうという思いが頭から離れなかった。帰りのチケットを変更して帰国しようかと本気で考えていたのだ。

ところが3日目を過ぎた途端、そうした思いがスッと消えた。現地の生活に慣れたのだろう。人目を気にせず自由に動き回れる楽しさに取りつかれた。最終日は後ろ髪をひかれる思いで帰国の途についたくらいだ。

環境が変わるとはじめのうちは人は拒絶反応を起こす。けれど、それは長くは続かない。それが慣れだ。できないことができるようになる。自分でも気づかないうちに自然と背が伸びていく。成長の醍醐味だ。

気心の知れた仲間に囲まれて過ごすのは決して悪いことではない。けれど、背伸びした先に人生の面白さは転がっている。もう少しがんばって手を伸ばせば届くかもしれない。それをチャンスと捉えるか、リスクと捉えるか。すべては自分にかかっている。




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