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ソール•ライター

彼の写真を初めて見たのは、娘が所有していた写真集だった。ソーシャルディスタンスで街が死に、誰にも会えなかったとき。

この人は、生存権を求めている、と感じた。
ソールは、もしかしてユダヤ人?と尋ねたら、
そう、と彼女が言った。


いつも生存する権利を求めて生きてきたユダヤ人。紀元前ならバビロン捕囚、近年ならホロコーストが有名な史実だが、6000年以上、常に自分の存在を肯定するための戦いの中にいたと思う。

今、パレスチナ人と呼ばれる民の血筋の源は、アブラハムと奴隷女性ハガルの子、イシュマエル。
アブラハムと妻サラの子は次男イサク。このイサクの子孫がイスラエル人つまり、ユダヤ人。

ソール•ライターは、ユダヤ教のラビの息子だった。父は、画家や写真家であろうとすることを反対し続けたという。
しかし、ソールは死すまでひっそりと写真を撮り続けた。


ソールの話した言葉を見つけた。

「私が写真を撮るのは自宅の周辺だ。神秘的なことは馴染み深い場所で起きると思っている。なにも、世界の裏側まで行く必要はないんだ。」

「写真はしばしば重要な瞬間を切り取るものとして扱われたりするが、本当は終わることのない世界の小さな断片と思い出なのだ。」

「人間の背中は正面よりも多くのものを私に語ってくれる。」


終わることのない世界の小さな断片……

そんな写真を撮る人が、ソールが去った今も必要だ。世界の小さな断片、それが、私たちだから。