とても興味深い映画で日本人なら観ておいた方がいい『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』

鑑賞した2020年日本公開映画ランキング：12/53
⠀ ⠀ ⠀ 熱量😳：★★★★☆
歴史的意義🧐：★★★★★

ものすごい熱量で濃密でした。。。こんな時代が日本にもあったのかと思うと、非常に興味深いです。。。

【どんな映画？】

1969年5月13日、東京大学教養学部900番教室で行われた三島由紀夫と東大全共闘との討論会を映したドキュメンタリー映画です（なお、この映像はNHKかと思いきや、TBSの持ち物だったようで、まさに彼らにしかできない唯一無二の映画ってことになりますね）。中身としては、全部で4つの章に分かれているんですが、真相究明とか秘密を暴くとかそういう話ではないです。あくまでも、三島由紀夫と東大全共闘の学生たちが議論を交わしている様子が淡々と映し出されています。

【感想】

恥ずかしながら、僕は当時の時代背景を詳しく知らないばかりか、三島由紀夫の本も読んだことがなく、彼らの議論に意見できるほどの立派な知識がないので、あくまでも映画としての感想をば。

上記にも書きましたが、議論の様子が淡々と映し出されている中に、今も生きている当事者へのインタビューや東出昌大のナレーションで当時の時代背景の補足を挟む構成になっているので、知識がなくともある程度は楽しめると思います。

しかし、です。議題は「他者とは」、「自然とは」、「天皇とは」など、概念的な話が目立ち、それぞれにおいて歴史的な背景および他の小説や哲学者の言葉からの引用も散見されるので、彼らの言っていることをきちんと理解するのは、幅広い知識が必要となるでしょう。あの場にいた人、全員理解できていたんですかね。。。当時だったら、インターネットもないので相当な読書量がないとわからないことばかりだと思いますが。。。逆に、今の時代よりも娯楽が少ないので、勉強や読書に充てられる時間は多かった気もしますけど。

この映画を観て、いくつか印象的なことがあったので書いておきますね。

まず、時代背景。
現代では日本の若者における政治への関心の低さが何かと話題になりますが、この当時は学生が主体となって大規模なデモを起こし、機動隊と殴り合うという光景もめずらしくなかったようですね。実際の映像を観て、社会的・政治的理由を背景に、ここまで荒れ狂う若者が日本にもいたのだというのは、実に興味深かったです。この感じは写真じゃ伝えきるには限界があるでしょう。映像として観るからこそ、当時の空気が伝わってきます。
まあ、現代においては物理的な殴り合いがなくなっただけで、同様のことはSNSを中心に繰り広げられているかもしれませんがね（笑）

次に、三島由紀夫のスタンス。
タイトルに「vs」とあるので、てっきり言葉による激しいバトルが繰り広げられるのかと思うんですが、彼は何も東大全共闘をぶっ潰してやろうとしてうわけではなかったんですよ。だから、作中でも誰かが言っていましたけど、相手を言い負かしたりとか、揚げ足をとったりとか、そういう攻撃的なことは一切ないんです。自分の意見を淡々と述べた上で、相手の意見もしっかり聞いて説得するという、実に平和的な姿勢でした。
しかも、左翼VS右翼という構図の裏には、反米愛国という共通の想いみたいなものもあり、実は手を取り合うことが可能なのではないかということを示唆していた点も興味深いです。

そして、当時を生きる人のインタビュー。
当時20代だった方たちも今や70過ぎたおじいちゃん。みんな当時とは違い、穏やかな物言いになっている中で、ただひとり芥正彦という人物だけが、50年経った今でも変わらず強めの口調だったのがすごいなと感じました。当時の熱意がそのまま残っているかのようです（なお、彼は当時討論会の場に1歳になるかならないかぐらいの娘を抱き抱えて参加し、タバコをスパスパ吸ってるという、今だったら大炎上しそうなことしてましたw）

改めて、三島由紀夫という人物に興味がわいてきますが、彼って非常にマルチな人物だったようですね。学習院高等科を主席で卒業後、東大→大蔵省→作家というエリートな経歴だけでなく、戯曲も書き、映画にも出演、作家らしからぬ筋骨隆々な肉体に、剣道四段の腕前、さらには自衛隊への体験入隊を幾度となく繰り返すという。さらに、楯の会結成とか、もはやアニメに出てきそうなキャラクターだなと。

そんな彼が50年も前に大討論した東大の900番教室。映画の締めくくりにもありましたが、そこには「熱と敬意と言葉」が今でも残っているんだろうなと思います。

しかし、なんでナレーションが東出昌大だったんでしょうね（笑）いや、いいんですけど、映画の雰囲気的に遠藤憲一や大塚明夫などもっと渋い声の人とか、東大にゆかりのある人の方が納得感はありますが。。。
（彼も名前の最初と最後の文字取ったら「東大」になりますけどねw）

映画『三島由紀vs東大全共闘 50年目の真実』公式サイト