見出し画像

まさにフランスの宝!ホロコーストを生き抜き、男性主権の中で人口妊娠中絶を合法化し、女性初の欧州議会議長にまで上り詰めた主人公の生き方に圧倒される『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:59/126
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:Simone, le voyage du siecle
  製作年:2021年
  製作国:フランス
   配給:アットエンタテインメント
 上映時間:140分
 ジャンル:伝記、ヒューマンドラマ
元ネタなど:政治家「シモーヌ・ヴェイユ」(1927-2017)

【あらすじ】

1974年、パリ。カトリック人口が多数を占め、さらに男性議員ばかりのフランス国会で、シモーヌ・ヴェイユ(エルザ・ジルベルスタイン)は圧倒的反対意見をはねのけ、後に彼女の名前を冠してヴェイユ法と呼ばれる中絶法を勝ち取った。

1979年には女性初の欧州議会議長に選出され、大半が男性である理事たちの猛反対の中で、「女性の権利委員会」の設置を実現。女性だけではなく、移民やエイズ患者、刑務所の囚人など弱き者たちの人権のために闘い、フランス人に最も敬愛された女性政治家となる。

その信念を貫く不屈の意志は、かつてアウシュビッツ収容所に送られ、“死の行進”、両親と兄の死を経て、それでも生き抜いた壮絶な体験に培われたものだった―。

【感想】

もうね、こんなにも力強く優しい女性政治家がフランスにいたこと自体が、フランスの宝だと思います。それぐらい、このシモーヌ・ヴェイユという存在が大きいと感じる映画でした。

<オリヴィエ・ダアン監督の描く女性は強い>

本作は2022年におけるフランス国内の年間興行成績第1位だそうですね。それもそのはず、ちょっと古いですが、2016年のフランスにおける有名人ランキングでは、シモーヌ・ヴェイユは2位ってぐらい人気なんです(1位は俳優のオマール・シー)。そんな彼女の半生に焦点を当てて映画化したのが、あのオリヴィエ・ダアン監督ですよ。マリオン・コティヤール主演の『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』(2007)、ニコール・キッドマン主演の『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』(2014)に続く、"世紀の女性を描く3部作"のラストとして作られたのが本作です。過去2作もそうですが、とにかく女性が強い、強すぎるんですよ。いずれの作品も舞台はけっこう昔なんですが、現代以上に男性主権で女性が社会に出ること自体が受け入れられない時代において、あらゆる逆境をはねのけ、自分だけでなくまわりをも幸せにするために、全身全霊をかけて生き抜く姿がとても印象的な作品たちです。どの作品もオススメなのでよかったら観てみてくださいね。

<人工妊娠中絶の合法化に尽力>

今回の題材となっているシモーヌ・ヴェイユですが、彼女の功績として代表的なものが「ヴェイユ法」と呼ばれる人工妊娠中絶の合法化です。もともとフランスでは中絶は違法とされていたんですが、年間100万人の女性が非合法に中絶手術を受けている実態があったそうです。それじゃあまりにも危険すぎるってことで、合法化に向けて動き、なんとか可決には持ち込めたのですが、その過程での非難の嵐が凄まじいんですよ。「おまえは新しい命を殺す気か!」と。さらには、「おまえのやっていることはナチスの大量虐殺と何も変わらない!」みたいなことまで言う人もいたほど。こんな心ない言葉の数々にシモーヌは大変苦しみました。

<壮絶な過去>

「ナチスと同じだ」っていう言葉は、彼女にとって特に辛かったんじゃないでしょうか。なぜなら、シモーヌ自身がかつてアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所にいたからです。彼女は16歳のときに母や姉と共にアウシュヴィッツに連行されました。劣悪な環境で働かせられ、目の前で人が死んでいく日々。幸い、「若くてかわいいから助けてあげたい」という監視員の厚意で、ボブレク収容所に移動になりはしましたが、結局、母親はチフスで死亡。違う収容所へ連れて行かれた父と兄とは二度と会うこともありませんでした。。。

<何が彼女を突き動かすのか>

収容所から解放されてからは学業に専念し、パリ政治学院にて後に夫となるアントワーヌ(青年期:マチュー・スピノジ、老年期:オリヴィエ・グルメ)と出会い、やがて結婚。家事・育児に奔走しながら司法試験にも合格。弁護士になりたいという強い希望があったものの、夫の猛反対を受けて治安判事で妥協。刑務所の劣悪な環境の改善などに尽力しました。夫も優秀なので食べるには困らなかったと思いますが、とにかく働いて社会をよくしていきたいという気持ちが強かったんでしょうね。

なぜ、ここまでやれるんでしょうか。それはやはり、アウシュヴィッツにいたことや家族を失ったことが大きく関係しているんじゃないかなと思います。いつ死ぬかもわからないその経験から、誰もが安心して暮らせる社会を作りたい、そんな想いを抱えていたんじゃないかなと僕は思います。もちろん、政治家になるような人は多かれ少なかれ「世のため人のため」っていう気持ちはあるでしょう。でも、実体験としてアウシュヴィッツにいたら、その想いの強さは尋常じゃないと思います。結局、彼女は女性初の欧州議会議長にまで上り詰めますが、あれだけ悲惨な過去があったからこその気概なのかもしれません。とはいえ、その道はとても険しいものです。時に声を荒げ、厳しい口調で話す姿もありましたが、結局それは彼女が誠実で優しいからじゃないかなと感じました。

<そんなわけで>

シモーヌ・ヴェイユの半生を知ることができる大変有意義な映画でした。時系列がかなり入り乱れてるのでちょっとわかりづらい部分もありますが、多くの苦難や逆境を乗り越え、世のため人のために戦った彼女のことは、いろんな人に知っていただきたいと思います。特に同じ女性の方は、僕以上に想うところも多いかもしれないので、ぜひ劇場へ足を運んでみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?