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どこの会社にもいるであろう前時代的おじさんのキャリア再出発ストーリーに心温まる『異動辞令は音楽隊!』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:31/126
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

  製作年:2022年
  製作国:日本
   配給:ギャガ
 上映時間:119分
 ジャンル:ヒューマンドラマ、音楽
元ネタなど:なし

【あらすじ】

部下に厳しく、犯人逮捕のためなら手段を問わない捜査一課のベテラン刑事・成瀬司(阿部寛)。高齢者を狙ったアポ電強盗事件を捜査する中で、令状も取らず強引な捜査を繰り返した結果、広報課内の音楽隊への異動を言い渡されてしまう。しかも、小学生の頃に和太鼓を演奏していたというだけで、ドラム奏者に任命されるハメに。

すぐに刑事に戻れると信じて、練習にも身が入らず、隊員たちと険悪な関係に陥る成瀬。だが、担当していた強盗事件に口を出そうとするも拒絶されてしまい、今や自分は捜査本部にとって無用な存在だと思い知る。プライベートでも随分前に離婚、元妻と暮らす高校生の娘にはLINEをブロックされてしまう始末。

失意の成瀬に心を動かされ、手を差し伸べたのは、〈はぐれ者集団〉の隊員たちだった。音楽隊の演奏に救われる人たちがいることを知り、練習に励む成瀬と隊員たち。

ところが、彼らの心と音色が美しいハーモニーを奏で始めたとき、本部長から音楽隊廃止が宣告される―。

【感想】

これが意外にも(と言ったら失礼かもしれないけど)面白かったんですよ。前時代的なやり方で干された成瀬が、興味の欠片もない音楽隊へ異動させられて我が身を振り返るという話なんですけどね、僕はこれ、世のおじさんたちへの応援メッセージなんじゃないかと思いました。

<実は身近にいるかもしれない成瀬の人物像>

この映画で特に印象的なのは、何と言っても主人公である成瀬ですよ。でね、この成瀬ってのが鬼刑事って言われる存在なんですけど、よくよく見ていくと、どこの会社にもいるんじゃないかっていうおじさん像にピタリと当てはまるんですよ(笑)パワハラ全開の強引さ。口を開けば「昔はよかった」という愚痴。自身のやり方に絶対の自信を持ち、時代の変化についていこうとしない意固地さ。もうね、めんどくささの極み!でも、会社にいません?こういうおじさん。刑事っていう点であんまり現実感ないかもしれませんが、ここで描かれている成瀬の人物像は、まさにあなたのすぐ側にいるおじさんかもしれません。

<決して悪い人じゃない成瀬>

ちょっと成瀬に寄り添ってみると、悪い人ではないことがわかります。刑事一筋30年。犯人逮捕に全力を尽くし、やり方に問題はあれど、目的としていることに間違いはありません。ただ、自分というものが強すぎるせいか、なかなかまわりに溶け込めない不器用さがあります。刑事としての自信からプライドも高いんでしょう。自分から頭を下げるとか、謙虚に教えを請うとか、そういうことがまったくできない人なんですよ。「あー、そういう人いるいるー!」って思いませんか?もしかしたら、自分自身がそういう人かもしれませんが(笑)確かに毛嫌いしたくなる気持ちは痛いほどわかりますけど、ちょっと分析してみると、ただの不器用なおじさんなんです。

さらに、刑事以外の生き方をしてこなかったから、刑事への未練タラタラ。音楽隊に異動になっても、たびたび刑事課に顔を出して拒絶されることの繰り返し。本人からしたら、急に自分の居場所を失ったようなものですよ。屈強で強面な大男が、自分の情けなさと居場所の喪失感から人知れず涙を流すところに、人間らしさを感じましたね。どんな人でも、結局は“人の子”なんだなあと。

<環境が人を変える>

成瀬は仕方なく音楽隊の活動に身を置きはするものの、そこで音楽隊に勇気づけらる人がいることを知り、まわりの隊員たちのフォローもあって、何でもかんでもひとりで背負い込む必要がないことも知ります。おかげで、自分の身を改めて振り返り、過去の行いを猛省するんですが、「人は環境次第でいくらでも変われるんだ」と信じることができますね。そう考えると、なんだかこれ、世の中のおじさんたちへの応援メッセージも見えてきませんか?「ちょっと浮いちゃってるかもしれないけど、まだまだ変われるぜ!」って。ただ、実際に成瀬は恵まれていたと思います。彼に寄り添ってくれる音楽隊の人たちがいたから。まあ映画なんでね、そういう展開にしないとお話にならないんですけど。実際、成瀬のような態度を取り続けたら孤立確定なので、反面教師にもできるかなと(笑)

<実は見どころとなるエピソードがたくさんある>

そういう心温まるストーリー展開の中に、なかなか縮まらない娘との関係や、成瀬を変えてくれた人に訪れる悲劇、犯人逮捕に向けた進展、そして左遷の真相など、いろんなエピソードが詰まっているんですよ。ただのほっこりする物語に留まらないのが、この映画のいいところです。一応刑事っていうのが根底にあるんで、そこの設定も抜かりなく活かされていました。

<そんなわけで>

自分の生きる道はひとつでないこと、人は何歳からでも変われることを教えてくれる映画。流れる音楽もよかったし、ちょっと行き詰まったときに観ると、少しスッキリするかもしれません。


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